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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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128(2015年10〜12月)

2016年4月5日発売「星ナビ」2016年5月号に掲載

いて座新星Nova Sgr 2015(No.4)

先月号にも書いたとおり、2015年10月中旬から10月下旬までは、ほぼ快晴の空が続いていました。10月31日の夜は、金星、満月を過ぎた月、そして木星が輝く空でした。その日の夕方、南淡路のイオンで買い物をしたあと事務所に戻っている途中、20時40分に携帯が鳴ります。掛川の西村栄男氏からのようです。ブルートゥースでつながった電話に出ると氏は「新星らしき天体を見つけました」と話します。『今、車の中ですので、送っておいていただけますか』と答えると、「20時過ぎに送りました」とのことでした。『では、戻ってから見てみます』と答え、電話を切りました。しかし『今日はまだ何にも食べてない……』と途中で吉野家に寄って、オフィスに戻ってきたのは21時25分のことです。

すると、留守番電話も点滅していました。しかし何も伝言はありません。どうも西村氏ではないようです。そう思って携帯の着信履歴を見ると、岡崎の山本稔氏から電話があったようです。その時刻は20時25分でした。西村氏からもその前の20時14分に連絡があったようです。『ちょうどイオンで買い物をしていた頃だ。お二人には悪いことをした。多分、同じ天体を見つけたのだろう』と思って、メイルを見ました。

西村氏からのメイルは20時06分に届いていました。そこには「Canon EOS 5Dデジタル・カメラと200mm f/3.2望遠レンズを使用して、10月31日18時00分にいて座を10秒露光で撮影した4枚の捜索画像上に11.5等の新星状天体(PN)を発見しました。この天体は、10月28日に撮影した極限等級が12.7等の捜索画像上には写っていません。画像はのちほど送ります」という報告がありました。そして、20時30分に届いていた山本氏の報告には「本日10月31日に撮影した画像から、札幌在住の金田宏氏提供のCCDF新天体検出ソフトでいて座に過去の画像にない新天体らしき星を見つけました。既知の変光星、彗星、小惑星ではないことは、手元の情報内では確認しています。なお、最近は発見に遭遇することがないため、直接、天文電報中央局(CBAT)に送付することは控えました。画像など再チェックして再度ご連絡します。大変申し訳ありませんが、初報ということでお願いします」というメイルに続いて「いて座に新星状天体を18時23分に発見しました。発見光度は11.0等です。10月25日に撮影した捜索画像上にはその姿が見られません」という報告がありました。20時36分と38分には、西村氏から発見画像も届いていました。20時47分には、福岡の山岡均氏からも山本氏の報告が再送されて届いていました。さらに山本氏からは21時31分に「まだ他に発見の情報がないため間違いかもしれませんが、天体は、位置と撮影時刻を変えた3画像に写っています。限界等級は正確でないですが12.1等星は写っています。使用機材はCanon EOS 5Dデジタル・カメラと135mm f/3.5レンズです。なお、10月14日から24日に撮影した捜索画像上にも写っていません」という情報も届きます。

まず西村氏の発見画像をOAA/CSのウェッブサイトに入れ、それをCBATの未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載しました。21時57分には西村氏より「TOCPを見ました」と連絡があります。そして、この発見をダン(グリーン)に伝えたのは22時10分のことです。すると、ダンへの報告を見た山本氏より22時28分に「お忙しい中、TOCPへの掲載をありがとうございました。20時半前に携帯に連絡しましたのは私です。当初はTOCPに何もなく、間違いかもしれないと不安でしたが、その後、西村さんの発見情報が掲載されましたので、天体は実在するものと安心しました。また、西村さんの発見報告に私の発見も付記していただきありがとうございます。新星かどうかこれからになりますが、今回は突然のお願いに対応していただき、感謝に堪えません。これに懲りず、今後もよろしくお願いします」という送付確認のメイルが届きます。氏には、23時00分に『ご苦労様です。ときどき「星ナビ」にも書きますが、それにしても新星の発見は重なることが多いですね。天の川付近に出る新星は、ほとんどすべてが発見されているのでしょうか。いったい何人くらいの方が捜索しているのでしょうか。みなさん。よくやっているとビックリします。今後も頑張ってください』という返信を送っておきました。すると山本氏からは23時52分に「返信のお気遣い、励ましのお言葉ありがとうございます。捜索者ですが、彗星発見が難しくなり、新星捜索に切り替えた人も増えていますので、発見者の名前だけでも日本で10人程度、探している人となるとその倍はいるのでしょうか。私の新星捜索はフィルム時代からで長いのですが、最近は速報性が必要になっており、連絡前にTOCPに発見の掲載が出ていると報告を控えるようにしています。今は、札幌の金田さんのご厚意で検出ソフト(CCDF)を使わせていただいているので撮影だけすればよいのですが、なかなか発見報告までにはつながっていません。今後もマイペースで捜索は継続していこうと思っています。よろしくお願いします」というお礼も届きます。

さて、翌日11月1日朝はまだよく晴れていましたが、夕刻からは小雨模様の空となりました。予報では明日(11月2日)は雨とのことです。しかし、天候悪化はまだ関東までは到達していなかったようです。18時29分に香取の野口敏秀氏より「23cmシュミット・カセグレインで撮影しました。11月1日17時57分に撮影した画像では、新星状天体は11.8等でした」という観測報告が届きます。その氏の報告は、22時41分にダンに送付しておきました。

この天体は、11月4日09時59分到着のCBET 4159に公表されます。そこには、この新星は10月31日18時15分頃に観音寺の藤川繁久氏によっても独立発見されていたことが掲載されていました。そして、発見直後に国内外で11等級で観測されていることが報告されていました。さらに、スペクトル観測が11月2日から3日にかけて日本、イタリー、アジアゴなどで行われ、新星の出現であることが確認されたことが紹介されていました。新星の発見は、同夜11月4日22時27分に新天体発見情報No.227を報道各社に送りました。関係者に送ったPDF版には『星がいっぱいあるところによく見つけるな……と思いますが、多くの場合、こんなに発見が重なるということは、天の川近くの新星はほとんど全部が発見されているのでしょうか』と添書きしておきました。翌11月5日になって、それを見た山本氏からは20時17分に「発見情報の送付をありがとうございました。10数年前に中野さんより、新星発見の山本速報を送付いただいた記憶があります。また報告できるように頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします」。そして西村氏からは20時18分に「発見情報とCBAT 4159をいただきました。低空だったのでスペクトルが撮れるか心配しておりましたが、新星と確認され、ほっとしております。今夜も銀河を中心に西の空を撮影してきました。今回の新星は、急激に減光し検出できなくなってしまいました。今回も中野さんのお力をお借りして、発見者の一人になれましたこと、本当にありがとうございました。いつもお願いをするばかりで申し訳なく思っています。中央局やTOCP等の状況について断片的に聞いていますが、中野さんも中に入ってご苦労されていることと思います。アマチュアのために無報酬でやられている中野さんに本当に頭が下がります。ありがとうございます」というメイルが届いていました。

なお、ウェッブサイトに掲載した西村氏の発見画像へのアクセス数は、発見直後から11月7日夜までに374回でした。私は、誰かから発見報告がないとTOCPは見ません。まして画像となると見たことがありません。TOCPの記述を見て、画像にまで心を揺り動かされる人がこんなにいるとは、いつもながらビックリです。なお、このアクセス数は重複したIPアドレスは省いてあります。従って、小さなプロバイダーや同一施設内からのアクセスはカウントされていない可能性があります。

おうし座流星群 2015

11月5日06時04分と09時07分に神戸の豆田勝彦氏から「おうし流星群が活発です。昨夜は月明かりのもとで5〜6個ほど出現しました。今朝は8個を見ました。金星級の流星はなかったものの、木星級が2個ありました。今朝の出現はZHR 25位くらいで、例年の倍ほど出現しているようです」。そして「今朝に送ったおうし群の観測データです。しばらく車で寝たあと、先ほど帰宅しました。ZHRは25を超え30に達しそうです。各地ではかなり大きな流星も見られているようです。アッシャー氏と泉氏の予報が現実のものになりそうですね。11月15日過ぎまでこの活動が続きそうです」と11月4日と5日の情報が届きます。氏の結果は、その夜の23時51分にダンとデイビット(アッシャー)に送付しておきました。さらに豆田氏からは11月6日03時11分に「先ほどまで裏六甲の八多にいました。少し雲がありましたが、11月5日23時〜25時20分の140分間に24個、うち14個がおうし群でした。25時20分から26時の40分間には8個のうち4個がおうし群でした。マイナス3等星の明るいものも出ました。やはり活動は活発で、例年の倍は出現しているようです。注目です」という報告があります。この結果は23時11分にダンとデイビットに伝えておきました。

11月13日11時58分に豆田氏から「おうし群は、その後は天気や仕事で追跡できていません。情報によると南の群からかなり火球が出たようです。11月中旬くらいまで北の群の活動のピークですので、まだ豊富な活動が期待できそうです。本当に天気がうらめしい状況です」というメイルが届きます。そして11月15日23時13分に「先ほどまで東条でおうし群を見ていました。20時〜23時18分でおうし群が11個出現しました。22時台は60分で6個、ZHRにして20個ほどとまだ盛んです。火球ほどの明るいものはありませんが、マイナス級の流星は2個出現しました。いい天気ですが、明日は早出のため撤収です」という報告があります。その後の氏からの報告を待ちましたが届きませんでした。そこで、11月17日23時51分になって、この報告をダンとデイビットに送っておきました。デイビットからは、翌朝09時10分に「豆田氏のおうし座群の観測をありがとう。私はこの群の活動に興味を持っており、今年はおうし座群の活動時期であったことがはっきりした」というメイルが送られてきました。

PANSTARRS彗星(2014 S2)

この彗星は、米国ハワイ州ハレアカラで1.8m望遠鏡を使用して行われているPan-STARRS1サーベイで、2014年9月22日にくじら座を撮影した捜索画像上に20等級で発見された新彗星でした。軌道計算の結果、周期が約2200年の長円軌道を動く彗星でした。ただ、近日点距離q=2.10auと少し大きく、その増光はあまり期待されていませんでした。しかし、近日点通過(2015年12月9日)が近づいてきた2015年9月に、10等級まで増光していることが各地から報告されました。HICQ 2015(=NK 2989)にある予報光度は、9月以後、近日点通過後までほぼ14等級(H10=9.5)でした。つまり、その予報光度より約4等級ほど明るくなっていることになります。これは、彗星の標準等級はH10=5.5等ほどに増光していることを意味します。

その頃の眼視全光度をスペインのゴンザレスは9月7日に10.8等(視直径4′)、山口の吉本勝己氏は9月13日に10.8等、坂戸の相川礼仁氏が9月19日に10.9等と観測しています。吉本氏によると、視直径2.0′でよく集光し、大変見やすい彗星とのことです。その後も、彗星はゴンザレスが10月1日に9.9等、吉本氏が10月5日に10.1等、相川氏が10月8日に10.5等と観測しています。さらに11月になって、ゴンザレスは11月1日に9.2等、7日に8.8等、10日に8.6等、15日に8.5等(コマ視直径9′)と観測しました。また、相川氏は10月24日に10.0等、11月3日に9.7等、15日に9.6等、吉本氏は10月25日に10.0等、11月15日に9.4等、秩父の橋本秋恵氏が11月15日に9.3等と観測しています。このように、この時期さらに1.5等級ほど増光しました。そこで11月13日17時59分に、この増光をOAA/CSのEMESで仲間に知らせ、その追跡をお願いしました。

近日点距離が少し大きな彗星のため、太陽に大きく近づかないかわりに光度変化は安定しており、数か月ほど約9等級を保ちました。観測しやすい位置を動いているためか、その後も多くの観測が報告されています。最近でも、3月1日に橋本氏が9.8等、相川氏が9.2等、飛騨の大下信雄氏が3月2日に9.4等、生駒の永島和郎氏が3月3日に9.2等、橋本氏が3月15日に9.6等、大下氏が3月15日と16日に9.5等と、まだ9等級で明るく観測されています。初期の光度予報ではこの時期には14等級でしたので、5等級ほど増光したことになります。

超新星2015ba in IC 1029

11月29日22時08分に山形の板垣公一氏から「IC 1029に超新星です」というメイルが届きます。氏によると、TOCPに掲載済みとのことです。そのときまだ、所用があったため自宅にいました。その用を済ませたあと、23時30分にオフィスに出向いてきました。板垣氏の報告には「2015年11月29日04時22分に栃木県高根沢町の観測所にある35cm f/11反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、うしかい座にある系外銀河IC 1029を撮影した捜索画像上に16.7等の超新星状天体(PSN)を発見しました。過去の捜索画像上にはその姿が見られませんが、最近の捜索画像はありません。なお、発見画像の極限等級は18.5等級です。超新星は、銀河核から東に19″、南に42″離れた位置に出現しています」とありました。発見画像を見ると小さな楕円銀河に出現した小さな超新星でした。この氏の発見は、11月30日00時23分にダンに送付しました。

その日の昼間12時48分に板垣氏から「ありがとうございます。連絡が遅くなりすみません。明日には家に戻ります。出先から……」という送付確認のメイルが届きます。『いつも出張中も捜索をやっていると話していたけど、本当なんだねぇ。よくやるねぇ……』と思って、氏のメイルを読みました。

その夜(11月30日)は快晴でした。明け方12月1日05時05分に香取の野口敏秀氏から「12月1日04時33分に23cm望遠鏡で観測しました。光度は16.2等でした」という報告が届きます。氏の観測は05時05分にダンに送っておきました。19時23分には、板垣氏から「観測ありがとう」というお礼状が送られていました。

この超新星は、それから2日後の12月3日14時28分に到着のCBET 4209に早々と公表されます。そこには、発見1日後までに国内の観測者によって16等級で観測されていることが紹介されていました。そして、12月2日にアジアゴにある1.82m望遠鏡でスペクトル観測が行われ、出現初期のII型の超新星らしいことが確認されたと公表されていました。翌12月4日21時46分になって、新天体発見情報No.228を発行し、この発見を報道各社に伝えました。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。