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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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120(2015年2〜3月)

2015年8月5日発売「星ナビ」2015年9月号に掲載

さそり座新星 2015 Nova Sco 2015

2015年2月上旬は寒い日が続いていました。特に2月9日には、当地も外気温が−1.5℃とこの冬一番の寒さとなりました。とくに半島に囲まれた風の通り道、ここサントピア・マリーナは毎日、猛烈な風が吹いていました。しかしその寒さも、2月10日頃からは少し和らぎました。

2月11日01時51分に山形の板垣公一氏より携帯に電話があります。氏は「暗い超新星状天体(PSN)を見つけました。ただ、近接銀河なので明るくなるかもしれません」と話します。その板垣氏の報告は、すでに01時48分に届いていました。そこには「栃木の観測所にある35cm反射望遠鏡を遠隔操作して、2015年2月11日00時15分にきりん座にあるNGC 2748を撮影した捜索画像上に18.3等の超新星状天体を見つけました。PSNは銀河核から西に53″、南に51″離れた位置に出現しています。直近の捜索画像は極限等級が浅く、画像上にPSNが写っているかいないかを確認できません」という発見報告でした。氏のこの発見は、02時16分に中央局(CBAT)のダン(グリーン)に送付しておきました。05時52分に板垣氏から「報告を拝見しました。近接銀河のため、急激に明るくなっているのではないか…と期待して先ほど再撮影しましたが、明るさの変化はありませんでした」という報告が届きます。そしてその夜(2月11日)20時16分には、香取の野口敏秀氏より「2月11日19時26分に17.8等でした」という観測が届きます。氏の観測は、20時30分にダンに報告しました。

それから10時間が経過した2月12日06時26分に群馬の小嶋正氏から携帯に電話があります。『何か見つけたな……』と思って電話に出ると「さそり座に8等級の明るい新星状天体(PN)を発見しました」とのことでした。そこで『報告を送ってください』とお願いして電話を切りました。氏の報告は06時38分に届きます。そこには「さそり座のPNを報告します。Canon EOS 60Dデジタル・カメラと150mm f/2.8望遠レンズをスカイメモに同架して、2015年2月12日05時04分に6秒露光で撮影した捜索画像上に8.2等のPNを発見しました。この星が4枚の画像上に存在することを確認しました。このPNは、発見前日2月11日に行った極限等級が12等級の捜索画像上には11等級以下で、まだ出現していません」という報告とその出現位置が書かれてありました。

最近発見される新星としては、比較的明るい8.2等の新星です。どこかで発見される可能性があります。そのため、急いで小嶋氏の発見をダンに報告しました。07時12分のことです。そして、小嶋氏が送ってきた画像からその出現位置と光度を測定することにしました。測定を始めると07時21分に板垣氏より電話があります。とっさに『あれ、どっかで発見されていたのか……』とぎっくとしました。氏に『すでに発見されていましたか。それとも画像があるのですか』とたずねると「いや。あの付近は過去画像がないので捜索していません。あの少し上(北側)からならあるのですが……。ところでこの前のPSNですが、あれはLBV(大型変光星)でしょう。発見から明るくなっていません」ということでした。

07時12分には、小嶋氏より「中央局への報告と未確認天体確認ページ(TOCP)への掲載をありがとうございました。これから出勤のため時間がなく、詳細なデータを調査できませんが、よろしくお願いいたします」という連絡があります。小嶋氏の発見画像からの測定が終了し、その結果を08時03分にダンに伝えました。私の測光では、新星の光度は8.1等となりました。このとき『せっかくの発見画像だ。誰にも見られないのは気の毒だ』と思い、小嶋氏の画像をOAA/CSのウェッブページに入れて、そのことをダンとTOCPにも記述しました。

その夜(2月12日)小嶋氏より21時09分にメイルが届きます。「1月29日と2月2日の捜索画像上を調べましたが、新星は13等級以下で写っていません」とのことでした。さらに「中野さんの測定位置には、2MASSカタログによると12.2等の星があるようです」という記述がありました。そのため、21時26分に『ちょっと待ってください。12等級の星だと過去に写っていなければおかしいのではありませんか』という問い合わせを氏に送りました。すると22時20分に小嶋氏から「2MASSカタログは赤外領域での観測プロジェクトで、J、H、Kと3種類の赤外線で観測しているようです。波長が赤外ですので、そこでの12等星は普通のデジカメには写らないのだと思います。そのせいか、過去画像にも写っていません。今回の増光(爆発)により、デジカメでも写る可視領域に天体が変化したのではないでしょうか」という回答でした。そこで22時43分に『そうですか。8等級の発見だと大体新星のことが多いですね。明朝に増光しておれば新星ではないかと思っているのですが……』というメイルを送っておきました。

明け方になった2月13日05時23分に野口氏から「早朝霧が発生してきましたが、どうにか撮れました。2月13日04時49分に23cmシュミット・カセグレイン望遠鏡でこの新星を観測しました。光度は9.5等でした」という報告でした。『そうか。暗くなっていっているのか……』と思いながら、氏の観測を06時21分にダンへ送付しました。さらにその20分後の06時43分には、山口の吉本勝己氏からも「小嶋さん発見のPNをNikon D5100デジカメ+180mmレンズで観測しました。05時11分に9.5等でした。低空なので色ははっきりしませんが、赤っぽいようです。新星だと良いのですが……」という報告も届きます。

いて座新星 Nova Sgr 2015 No.1

吉本氏の観測を送付しようとしたそのとき、2月13日07時09分に掛川市の西村栄男氏から「新星らしき天体です」というサブジェクトを持ったメイルが届きます。『えっ、小嶋氏の新星ではないのか……』と驚いて氏のメイルを見ると、出現位置が異なります。また別の新星のようです。氏の報告には「Canon EOS 5Dデジタル・カメラと200mm f/3.2望遠レンズを使用して、2月13日早朝、05時09分にいて座を13秒露光で撮影した4枚の捜索画像上に、11.2等の新星状天体を発見しました。画像の極限等級は14.4等です」という報告と出現位置が書かれてありました。そして、07時16分に西村氏から「ただ今、新星を発見したという報告を送ったのですが、送る前にTOCPをチェックしたときにはこの新星は入っていませんでした。しかし今、もう一度TOCPを見ると、西山・椛島氏の発見が出ています」という電話があります。発見時刻を見ると、西村氏の方が早くに発見しています。『新星発見も競争が熾烈だなぁ……』と感じながら、『まぁいいではありませんか。グリーンに送っておきます』と伝えました。西村氏は「画像を送りましょうか」とのことでしたが『いや、いいでしょう。光度が暗いし、これまでたくさん見つけているのだから、こちらで見て改めて確認する必要はありません』と答えておきました。そして、吉本氏による小嶋氏の新星の観測を送ったのが07時19分のことでした。そのあと西村氏の発見をダンに送っておきました。07時30分のことです。

その日(2月13日)の夕方、TOCPを見る観測者がどれくらいいるのかと、小嶋氏の発見画像にアクセスしたIPアドレスをカウントするプログラムを作成しました。その際、同じIPアドレスからのアクセスと2回以上のアクセスはカウントから省きました。小さなプロバイダーからだと、たとえ別人がアクセスしても、同じIPアドレスとなることもあるためにカウントはされず、カウント数は実際のアクセス数より若干少なくなります。しかしこの1日と9時間の間に、なんと247名もの人たちが小嶋氏の発見画像を見たことがわかりました。多分、ほとんどのアクセスは出現位置を確認するために見たものでしょう。新星が明るかったこともあるのでしょうが『このページ、こんなにたくさんの観測者(あるいは確認者)が見ているのか』と正直驚きました。そこで18時13分に『びっくり仰天です。今回、初めて小嶋さんの発見画像を当方のウェッブ・サイトに入れました。そのアクセス数(2015年2月12日07時59分〜2月13日17時40分)が何と247名です。同じIPアドレスからのアクセスは勘定していませんので、実際にはもう少し多いのでしょう。こんなに確認観測をやっている人がいるとは驚きです。西山・椛島さんの報告には画像のアドレスがついていません。西村さんのPNも入れなくては……。写りの良い画像を送ってください』というメイルを関係者に送りました。

すると、西村氏から19時30分と38分に発見画像が届きます。しかし、ちょっと写りが悪いので19時43分と52分に失礼にも『ちょっと写りが悪いですが、本当にこの画像を紹介してもよろしいでしょうか。みんなに捜索者の画質が知られると思います……。なお、2枚目を入れてよいでしょうか』というメイルを送りました。そして、20時10分に西村氏の発見画像のアドレスをダンに連絡しました。

21時07分に小嶋氏から「今朝発見されたいて座のPNですが、前日の画像に写っていましたので報告させていただきます。2月12日05時10分頃に10.5等でした。機材は同じもので、極限等級は11.5等級です。私の発見と同じ朝の捜索画像に2つの未発見の新星が写っていたとは……。メイルでお知らせいただいたさそり座新星の画像へのアクセス数にはびっくりしました。今夜、こちらは夕方に−6℃となり雪が舞っています。冬型が強くなると中々晴れません」と、いて座の新星が発見前日に写っていたという報告があります。氏の発見前の観測は、22時15分にダンに知らせておきました。同じ時刻に西村氏から「今、冬の銀河等の撮影に行き帰ってきました。寒いですが、透明度は良かったです。皆さんが使用できる機材ですから、写りが悪くても画像を公開していただいて結構です。次からはJPEG画像でお送りします。次の発見ができるように頑張ります。本当にお世話になり、ありがとうございます」というメイルが届きます。

その夜の明け方2月14日05時54分になって、野口氏から「いて座のPNは2月14日04時47分に11.1等、さそり座のPNは2月14日04時51分に9.4等でした」という観測報告が届きます。小嶋氏からは06時14分に氏へ「おはようございます。連日の確認観測、ありがとうございました。光度に大きな変化はなかったようですね。こちらはその後も晴れません。今後もよろしくお願いいたします」というお礼が送られていました。野口氏の観測は、その日の夕方16時56分にダンに報告しました。翌日2月15日には、大崎の遊佐徹氏から「小嶋さんのPNを豪州にある43cm反射で多色測光しました。2月14日02時54分に9.7等でした。やや赤味を帯びた輝きでした。いて座新星も同時にねらいましたが、低空と雲に阻まれ行えませんでした。小嶋さん。2つ立て続けの発見と発見前観測とはすごいですね」という観測が送られてきました。

2月16日05時33分に小嶋氏から「2月16日04時55分にいて座のPNを観測したところ、新星は9.0等に急増光していました」という報告があります。『発見光度が暗いといって、馬鹿にしてはいけないな……』と思いながら06時33分にこのことをダンに知らせました。同じ日15時53分に吉本氏から「さそり座新星は2月15日06時07分頃に9.8等、いて座新星は2月15日06時20分に発見時より明るく10.1等でした」という観測報告が届きます。これらの観測は16時51分にダンに送っておきました。

2月22日21時26分になって、西村氏から「今回も大変お世話になりました。いて座の新星らしき天体ですが、新星と確認されたようです。中野さんのお陰で独立発見と認められ本当にありがとうございました。捜索方法は以前と変えていなかったのですが、この2年半は、新星が私に微笑みかけてくれませんでした。その代わり、矮新星が異常なくらい引っかかりました。星との出会いの不思議さを感じています。先日、日本天文学会から昨年見つけた矮新星“新しいPeriod Bouncer候補矮新星(PNV J06000985+1426152)の発見”について表彰の案内が届きました(本誌2014年10月号参照)」というメイルがありました。氏には21時58分に『そうですね。ATelをざ〜と見ても、Nova Sco 2015もNova Sgr 2015も出ています。CBATは、どうするのでしょう。また、板垣さんの超新星もどうするのでしょうね。ただ、勘違いしないでください。TOCPには、Independentと私の独断で書いたものです』というメイルを送っておきました。

2月25日20時25分には、小嶋氏より「発見から約2週間になり、お礼が遅くなり申し訳ありません。CBETでなくATelでの公表となりましたが、変光星総合カタログに符号されるときにはIAUCでアナウンスされるかもしれませんね。減光が速い新星とのレポートもありますが、今朝は約10等級と意外に明るく写っていました。突然の発見報告にも迅速に対応いただき、本当にありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします」というメイルも届きます。

さて、それから1か月近くが経過した3月20日になってダンより「これらの観測は誰が行ったのか」という問い合わせのメイルがあります。『そうか……。やっとCBETを出すことにしたのか』と思いながら、CBETを待ちました。それから約半日後の16時16分と16時20分に2つの新星発見を公表したCBET 4078とCBET 4079が届きます。さそり座新星は、その後、3月中旬にオーストラリアのピアースらが観測したところ、13等級まで減光したようです。セロトロロなどの天文台でスペクトル確認が行われ、新星の出現であることが確認されていました。なお、赤経α=17h03m26.15s、赤緯δ=-35°04′17.5″の位置に出現しています。小嶋氏の新星発見はこれで5個目となります。

一方、いて座新星は、3月中旬には11等級まで暗くなっていることが観測されています。この星のスペクトル観測もセロトロロなどで行われ、新星の出現であることが紹介されていました。この新星は、赤経α=18h14m25.16s、赤緯δ=-25°54′34.8″に出現しています。この新星の発見で、西村氏の新星発見はなんと17個にもなりました。私も新天体発見情報No.220とNo.221を発行し、2つの新星発見を報道各社に伝えました。

なお、最終的にそれぞれの画像にアクセスのあったIPアドレスの数は、2月22日までにさそり座の新星が409回(小嶋氏の画像)、いて座の新星が146回(西村氏の画像)でした。繰り返しとなりますが、同一IPアドレスからの別人のアクセスがあるために実際にはもう少し多いのでしょうが、観測者の方々がTOCPをこんなに活発に利用していることにはびっくりしました。この回数は、画像へのアクセスだけです。実際にTOCPに記載された観測報告を読んでいる人は1,000人を超えるのでしょう。

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