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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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114(2014年7〜9月)

2015年2月5日発売「星ナビ」2015年3月号に掲載

うお座の矮新星(PNV J23052314-0225455)

2014年7月中旬以後は、ときどき曇り空の日があるものの蒸し暑い晴れた日が続いていました。どうやら、梅雨はこの頃に明けたようです。その梅雨明けを待っていたかのように7月20日05時26分に鹿児島の向井優氏より1通のメイルが届きます。向井氏といえば1988年から1993年まで、当時、北海道の浜頓別に住んでいた武石正憲氏と小惑星の共同捜索を行い44個の新小惑星を発見し、そのうち13個の小惑星に命名権を得ている方です。

『めずらしい方からメイルが届いた。何だろう……』と思って、氏のメイルを見ました。そこには「私は昔、彗星や小惑星の写真を武石さんに送付し、それが位置測定されて中野さんに報告され、小惑星の発見などでたいへんお世話になったものです。自宅の天文台が光害のため観測できなくなっておりましたが、遅ればせながらやっと念願のCCDを購入することができ、2011年11月から全天捜索を開始したところです。また、2012年1月からは、札幌の金田宏さん製作のプログラムを使用させていただいており、画像の調査が迅速にできるようになりました。本日、うお座をNikon 105mm f/2.8望遠レンズ+CCDで撮影した捜索画像をチェックしていたところ、過去画像にない12.3等の新星状天体を見つけましたので報告いたします。発見画像と照合に使った過去画像(添付)には新星状天体の位置を□で囲んであります。発見日時は、2014年7月20日02時42分で、画像の極限等級が13.9等です。変光星、小惑星が近くにないこと、DSSにも発見位置に星がないこと、さらに天体がまだ報告されていないことは確かめました。なお、天体は約1年前の2013年6月14日、さらに今年6月13日の捜索画像にはその姿は見られません」という新星状天体(PN)の発見報告がこと細かに書かれてありました。さらに氏からは、06時47分に「DSSの画像を再度よく見ると、発見位置近くにかすかに写っている星があるようです」という報告もあります。しかし、氏のメイルにある「中央局に報告してほしい」という連絡を見落としてしまいました。そのため、氏に連絡を取って『これをどうしろというのですか』と問い合わせてしまいました。

この発見を中央局の未確認天体確認ページ(TOCP)に入れ、そのことを08時00分に氏に『先ほどは失礼致しました。とりあえずTOCPに入れておきました。発見報告は、確認観測が上がってから書きます』と連絡しました。すると、08時36分に向井氏から「初めてのことでしたので、どの程度書けばよいのかわからず、つい長くなってしまいました。またTOCPにも掲載していただき、ありがとうございました。捜索をしながら、中野さんに連絡する日がくるのだろうかと思っていましたが、今回うまくいくことを祈るばかりです。誠にありがとうございました」という連絡がありました。

この天体の観測は、TOCPに掲載直後の08時52分にイタリーのマッシが12.5等と確認し、その約3時間後にはカナリー諸島でも12.7等で観測されました。しかしそのすぐあとにはマッシがスペクトル確認を行い、「この星は、新星ではなく矮新星であること」がTOCPに報告されていました。そこで、7月21日21時49分に氏に『TOCPをご覧になっていることと存じますが、マッシのスペクトル観測が入っており、IAUCやCBETに公表されるいわゆる古典的新星ではないようですので、中央局への報告は行わないことに致します。もちろんTOCPに入っておりますので、報告があったことは当然彼らもわかっています。なお、たまには12等級でも新星であることもありますが、発見光度が8等級より明るい星でないと、新星である可能性は少ないようです。この点、新星の発見は、中々難しいものです。梅雨も明けました。今後も頑張って捜索されてください。発見を期待しています』という連絡を送っておきました。

すると、23時28分に向井氏から「メイルをありがとうございました。いつも雑誌などで中野さんと他の捜索者の方々とのやりとりを拝見しながら、うらやましく思っていましたが、10年以上待ってやっと退職金で型落ちしたCCDを購入することができました。今度の天体については、日頃からご教示いただいている方々から矮新星らしいという連絡が入っております。矮新星でも私にとってはとてもうれしい発見で励みになりました。光害で2等星ぐらいまでしか見えず、また徹夜の全天サーベイもきつく遅すぎた感がありますが、いつの日か中野さんに新彗星の発見を連絡できるよう頑張ってみます」というメイルが届きました。それから約1か月が経過した8月21日16時08分には、向井氏から「こんにちは。7月20日に新星状天体の発見報告でお世話になりました鹿児島の向井優です。このたびVSOLJニュース314で、や座WZ型矮新星であることが公表されました。中野さんには大変お手数をおかけしましたが、おかげさまで貴重な発見をすることができました。このようなチャンスにまた恵まれるかわかりませんが、年齢的にももう少しは頑張れると思います。きついことが多いですが、全天サーベイを楽しみたいと思います」という連絡があります。そこで16時51分に『そうですか。良かったですね。また、頑張ってください。ご連絡ありがとうございました』という返信を送っておきました。なお向井氏は、その後も彗星・新星の捜索を行っています。近い将来の発見に期待しましょう。

超新星状天体 in PGC 10927(PSN J02534083+0615396)

7月28日08時24分に東京の佐藤英貴氏から「超新星状天体(PSN)を見つけた」というサブジェクトを持つメイルが届きます。『えっ、彼はそんなこともやっているのか……』と驚きながら氏のメイルを読むと「7月28日04時20分にサイディング・スプリングにある51cm望遠鏡でくじら座の明るい銀河を撮影した画像上に、18.3等の超新星状天体を見つけました。この星は6枚の画像上に明瞭に見られ、DSS上にはその姿がないことを確認しました」という内容でした。10時17分に氏には『これはどうしますか。TOCPに入れましょうか。ただ、その場合、核からの離角を教えてください』という問い合わせを送りました。

すると11時30分に氏から「さっそくの返事をありがとうございます。いつも彗星を観測した画像にPSNが写っていないか注意しているのですが、いざ見つけてみると、そもそも銀河の名称が調べられない。何を報告すればいいかわからない……。と右往左往してしまいました。また、ホスト銀河の名称をどうしてもネット上では探すことができず、やむを得ずSDSS J025341.21+061556.0と報告したのですが、その後ステラナビゲータ8をインストールして調べてみると、系外銀河PGC 10927であることがわかりました。PSNの核からの離角は、西に5″.3、南に16″.0です。Luminance-filterを用いて、60秒露光で撮影した6枚の画像から発見しました。これは、108Pのフォローアップ観測を行った画像から見出したもので、彗星の近くにあったため、DSSにない18等の天体にすぐ気づきました。このあと、C/2013 V5の観測を行い、全光度10.7等と測光しました」という発見報告と発見画像が届きます。まず『な〜んだ……。超新星捜索をやっているのではないのか』と安心して、添付された画像を見ると、超新星状天体は18等級の超新星としては明るくはっきりと系外銀河PGC 10927のそばに写っていました。『よく輝いているかわいい超新星だなぁ……』と思ってそれを見ました。

そして、中央局のダン(グリーン)にこの発見を報告しました。14時00分のことです。17時40分になって佐藤氏に返信を送りました。そこには『はっはっは……。そんなものです。そういう意味では、ステラナビゲータは便利ですね。ちょっと暗めのSNですが、スペクトル観測を行ってくれれば良いですね。今度からは、発見地、発見フレームの最微光星、DSSなどの撮影日とその最微光星光度を書いてください。なお、C/2013 V5は、予想どおりの光度でしょうか。こちらは明るくなってくれれば良いのですが……。画像をありがとう』と書いておきました。なお、この超新星状天体は、7月29日03時30分に18.4等、30日03時53分に19.5等と観測されました。PSNは、その発見以後、暗くなっていったようで、スペクトル確認は行われませんでした。あとになって1月12日に福岡の山岡均氏にお会いしたときに再度、これを調べてもらいましたが、結果は同じでした。

8月上旬に入ると、台風12号とあとからやってきた台風11号の影響で西日本と北海道は大雨が続きます。しかし、その間にある関東は暑い真夏日が続いていました。動きの遅い台風11号は8月8日に九州沖を通り過ぎ、8月10日に安芸市付近に上陸。そのまま北上し、赤穂市付近に再上陸しました。この日は当地も、午前中はけっこうな風雨でしたが、夕方には天候は回復していました。

8月16日夜には、松戸の太田原明氏が息子さんと一緒に久しぶりに訪問してくれました。ところで、我が家の玄関には、1985年から1986年にかけて「月刊天文」で行っていた連続企画「中野主一のZigZag対談」で、九州の坂上務先生と対談(同1985年12月号)したときにいただいた「三匹のふくろうくん」が描かれた玄関マットがあります。それを大掃除のたびに『誰も来ないふくろうくん。ごめんね……』と言って敷き直しています。そのため、久しぶりの友人の訪問は「友遠方より来る」で大変うれしいものです。太田原氏は、1983年に観測星表2000と野外星図2000を発行した際にそこに使用する約2.5万個の恒星や星雲データなどを手打ちでコンピュータに入力してもらうため、数か月の間この島で過ごしたことがあります。そのせいか私よりよく島を知っています。しかし、その後に開館した江戸時代後期の北海道開拓者、高田屋嘉兵衛記念館には行ったことがありません。そこで3人でその記念館を訪問しました。よく知りませんが、函館と釧路などにはその銅像があるそうです。

超新星 2014cx in NGC 337

8月22日に本連載の原稿(本誌2014年10月号)を読み直していた際、何度か板垣公一氏の名前に接します。氏の超新星発見は、3月24日に発見した超新星2014aj以来、約半年間も途絶えています。『そういえば氏から久しく連絡がないな……。調子が悪いと言っていた。ひょっとしたら入院でも……』と心配して、氏の携帯に電話をしました。すると「は〜い。中野さん」といつもの調子で電話に出られました。『何だ。元気なんですか。連絡がないので心配しました』「今、胎内(星まつり)から戻るところです」『でも、確か今日からでしょう』「いや、出だしを見ましたので……」『最近、報告がないから心配して連絡しました』「いや〜。晴れないんですよ」『こちらは、ときどき晴れるようになりましたよ。雨も多く降りましたが、空も秋の空に変わってきました。昨年の40℃の夏に比べ過ごしやすいですね。山形に帰ったら頑張ってください』と話をしました。板垣氏は「ちょっと顔を出しただけ」とのことでしたが、みんな(参加者)とは肝心な話はしていたようです。それがのちほど届く、上尾の門田健一氏のメイルからわかります。この日の夜は寒いほど涼しくなり、ベランダに鈴虫がこの秋初めてやってきました。

それから10日ほどが過ぎた9月2/3日は、天気予報では山形に晴マークがありました。その夜のことです。9月3日00時31分に板垣氏から「PSNをTOCPに入れました。中央局に報告願います」と電話があります。その際『1つお聞きしたいのですが、佐藤氏の発見したPSNのその後はわかりませんか』と尋ねたところ「あれくらいの光度ではスペクトルは難しいでしょうね」とのことでした。板垣氏の報告はすでに00時30分に届いていました。そこには「50cm f/6.0反射望遠鏡+CCDを使用して、2014年9月2日22時43分にくじら座にある系外銀河NGC 337を撮影した捜索画像上に15.6等の超新星状天体を発見しました。超新星は、銀河核から西に32″、北に20″離れた位置に出現しています。今年は春から夏にかけて天候が悪く、捜索できる夜はほとんどありませんでした。そのため、出現確認用の最近の捜索画像がありません。しかし、発見後にこの銀河を撮影した10枚以上の画像上に出現を確認しました。その間の約1時間に移動はありません」と報告されていました。氏の発見は00時51分にダンに報告しました。

すると、板垣氏から01時01分に「拝見しました。ありがとうございます。あっ、ごめんなさい。極限等級が抜けました。しばらくぶりの捜索なのに幸運でした」と連絡があります。私も01時03分に『久しぶりの発見ですね。私も久しぶりの報告だったので、TOCPへの注釈でちょっと文章にミスをしました。お恥ずかしい……。これから秋です。発見が続くといいですね』とお詫び状を送りました。01時41分には、門田氏から「今夜は厚い雲に閉ざされています。仕事が忙しい状態で体調と天候が合わない日がありますが、短時間で切り上げたり明け方の観測前に仮眠したりして、睡眠時間を確保しながらやっています。先日の胎内星まつりで板垣さんにお会いして、天気がよくない話を交わしたばかりですが、少ないチャンスでの今回の超新星発見とのこと。さすがだと思いました。先週から涼しくなってきましたが、まだ晴れ間が少ない日々が続いています」というメイルが送られてきました。板垣氏からは02時01分に「超新星が早々と確認された」との連絡があります。門田氏には02時05分に『ちょっと前に板垣さんとも話した(ちょうど、胎内から帰りの車中でした)のですが、今年の夏は雨が多く、各地で大雨も降り、ここも時々豪雨がやってきました。しかしそのお蔭もあってか、久しぶりに涼しい夏を過ごせました。特に去年の40℃の夏に比べると、年寄りにとっては快適な夏でした。できればもう少し涼しい方が嬉しいですが、野菜などの収穫のことを考えると欲張りかもしれません。それにしては上尾の観測が続けて送られてきますが、苦労して観測されているものと存じます。どうぞ、健康に気をつけて観測を続けられてください』と返信を送りました。

この超新星は、大崎の遊佐徹氏が9月3日01時頃にスペインにある43cm望遠鏡で観測し、その光度を15.2等と報告しています。その直後にホワートンも同じ望遠鏡で15.3等と観測しました。氏は、2011年5月に同銀河に出現した超新星2011dqの出現位置からわずかに2″.2ほどしか離れていない位置に出現していることを指摘しています。なお、9月3日17時頃にラシラでスペクトル確認が行われ、爆発直後のII型の超新星とのことでした。超新星の発見は、9月5日14時19分到着のCBET 3963で公表されます。そこで同日18時37分に新天体発見情報 No.215を発行し、氏の発見を報道各社に伝えました。

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