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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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105(2013年12月〜2014年1月)

2014年5月2日発売「星ナビ」2014年6月号に掲載

超新星 2013hq in NGC 7276

先月号からの続き】2013年12月中旬は、西日本は曇りや雨の降ることが多く寒い日が続いていました。そんな時期、山形の板垣公一氏は、栃木県高根沢町の観測所にある望遠鏡を遠隔操作して12月11日にNGC 4136近傍の無名銀河に超新星(SN)2013hgを発見した後、出張捜索に出向いた12月13日にNGC 7276にSN 2013hq、12月14日にNGC 3910にSN 2013hlを立て続けに発見します。そのうちの1つが先月号で紹介したSN 2013hqです。

この超新星は、12月13日夕方に同所にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを使用して、ペガスス座にある系外銀河NGC 7276を撮影した捜索画像上に発見したものです。発見光度は17.1等の超新星状天体(PSN)でした。板垣氏から正式な発見報告が届かないうちに、中央局の未確認天体確認ページ(TOCP)を見た香取の野口敏秀氏から20時55分に「板垣さん発見のPSNを23cm望遠鏡で観測し、12月13日20時36分に確認しました。光度は17.2等でした。画像の極限等級は18.5等です」という確認観測が届きます。そして、板垣氏より発見報告が届いたのは21時34分のことでした。そこには「12月13日18時13分にペガスス座にある系外銀河NGC 7276を撮影した捜索画像上に17.1等の超新星を発見し、TOCPに記載しました。この星は、11月28日に撮影された捜索画像上の発見位置にその姿がありません。極限等級は18等級です。超新星は、銀河核から西に14"、南に14"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。

板垣氏の発見報告と野口氏の確認観測は、22時44分にダン(グリーン)に送付しました。それを見た板垣氏から「今晩は。拝見しました。ありがとうございます。機材のトラブルで栃木にとどまることになり、それがラッキーでした。野口さん。さっそく確認観測をありがとうございます。栃木は風が強いです」という連絡があります。

超新星 2013hl in NGC 3910

それから約半日後、板垣氏がNGC 7276に超新星2013hqを発見した同じ夜の朝、12月14日06時46分に同氏から「おはようございます。何かとありがとうございます。先ほど、もう1つ別のPSNをTOCPに記載しました。報告を慎重にします。ちょっと時間をください」というメイルがあります。そして、その約1時間後の07時58分に氏から「同じく高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを使用して、2013年12月14日早朝、05時33分にしし座にある系外銀河NGC 3910を撮影した捜索画像上に16.7等の超新星を発見しました。超新星は銀河核から東に12"、北に15"離れた位置に出現しています。なお、発見画像の極限等級は18.5等で、最近の捜索画像はありません」という発見報告が届きます。氏の発見は、その朝の10時49分にダンに報告しました。

294P/LINEAR周期彗星(2008 A2=2013 X2)

その日の夜(12月14日)のことです。21時55分に東京の佐藤英貴氏から天文電報中央局に送った1通のメイルが転送されて届きます。そこには「米国メイヒル近郊にある51cm f/4.5望遠鏡を使用して、2014年3月に回帰予定のこの彗星を2013年12月11日に検出し、12月14日にこれを確認した」ことが報告されていました。その観測によると、検出光度は20.2等、彗星は恒星状でした。さらに氏は、同じ12月14日に同所の43cm f/4.5望遠鏡でもこの彗星をとらえたことが22時58分に報告されます。

この彗星は、2008年1月13日にLINEARサーベイでぎょしゃ座を撮影した捜索フレーム上に発見された20等級の小惑星状天体でした。発見後、1月16日に米国のヤングが61cm反射望遠鏡で行った観測で、天体には、明るい中央集光のある5〜6"のコマが見られました。さらに1月19日の観測では4"のコマが見られ、この天体は彗星であることが判明しました。彗星は、周期が5.70年ほどの新周期彗星でした。1月27日には、上尾の門田健一氏がそのCCD全光度を19.3等と観測していました。

さっそく、予報軌道からの残差を調べると、検出位置は、ICQ Comet Handbook 2008(HICQ 2008(=NK 2136))にある予報軌道から赤経方向に+362"、赤緯方向に-319"のずれがありました。これは近日点通過日の補正値にしてΔT=-0.17日となります。なお、我が国内での今期の彗星のCCD全光度が12月29日に19.5等(門田)、30日に19.4等(佐藤)、2014年1月10日に18.9等(門田)、25日に18.3等、2月6日に19.0等(佐藤)と観測されています。佐藤氏の1月と2月の観測では、彗星はまだ恒星状とのことでした。この後、2014年3月中旬に地球まで0.63auまで接近しました。しかし、微小の彗星のため17等級までしか明るくなりませんでした。この時期彗星は、海外で3月28日に17等級で観測されています。なお、佐藤氏のこの検出は、当夜12月15日04時59分到着のCBET 3751で早々と公表されました。佐藤氏はこれで7個の周期彗星(240P、241P、263P、265P、285P、286P、294P)を検出したことになります。

超新星 2013hl in NGC 3910

【前々項の続き】その日(12月14/15日)の深夜01時07分になって、香取の野口氏から「23cm望遠鏡で12月15日00時20分にNGC 3910のPSNを確認しました。光度は16.9等と観測しました。なお、画像の極限等級は18.0等です」という報告があります。そこには「板垣さんが次から次と発見するので、フォローアップが間にあいません。なお、先に発見したNGC 7276のPSNは増光しています」という報告もありました。氏の確認は02時37分にダンに送りました。それを見た板垣氏からは、05時18分に野口氏宛に送られた「いつも観測をありがとうございます。結局、栃木に二泊しました。昨日夕方山形に戻り、そのまま星の会の忘年会に来ました。そこで泊まりです。宿の方に無理をお願いして、インターネットを使って遠隔捜索をやっています。しかし、栃木も空には雲がいっぱいあり捜索になりません。でも、山形は雪が降ってますので愚痴は言えませんけど……」というメイルが転送されて届きます。

超新星 2013hg in anonymous galaxyの公表

さて、先月号で紹介した、山形の板垣氏が栃木県高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、2013年12月11日早朝04時58分にかみのけ座にある系外銀河NGC 4136を撮影した捜索画像上、その近傍に写っている無名銀河の中に発見した16.9等の超新星は、12月16日15時12分に到着のCBET 3753に公表されます。そこには、この超新星の出現は国内外の観測者によっても確認されていたことが報告されていました。なお超新星は、発見後に国内外でスペクトル確認が行われ、この超新星はIa型の超新星で、そばにあるNGC 4136の伴銀河の場合は極大光度11日前、単独の銀河の場合は極大光度8日〜12日前の超新星とのことでした。そのCBET 3753を見た板垣氏から15時40分に「先日は、報告をありがとうございました。お陰さまでSN 2013hgとして公表されました。いつも深夜とか夜明け前とか、とんでもない時刻に対応してくださり、ありがとうございます。皆さま。観測ありがとうございます」というお礼のメイルが仲間に送られていました。翌日、12月17日13時11分になって新天体発見情報No.205を報道機関に送付し、この超新星の確認作業は終了しました。

超新星 2013hl in NGC 3910の公表

続いて公表されたのはNGC 3910に発見した超新星です。この超新星の確認は、大崎の遊佐徹氏も12月14日18時35分にメイヒル近郊にある25cm望遠鏡を使用して行っています。光度は16.9等でした。超新星は12月18日15時42分到着のCBET 3759で公表されます。それによると、この超新星の出現は、さらに国外の観測者によっても確認されていました。なお、発見後に国外の6.5mバーデ望遠鏡でスペクトル観測が行われ、極大光度から1週間ほどが過ぎたIa型の超新星であることが確認されました。超新星の発見を知らせる新天体発見情報No.206を発行したのが12月19日14時12分でした。

超新星 2013hu in NGC 3693

再び、栃木の出張捜索に出向いていた板垣氏から12月29日11時11分に「NGC 3693に超新星らしき天体がありましたので、TOCPに記載しました。この超新星は、2013年12月29日05時35分に50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを使用して、コップ座にある系外銀河NGC 3693を撮影した捜索画像上に発見したものです。発見光度は17.4等です。超新星は、銀河核から西に54"、北に7"離れた位置に出現しています。捜索が終了したあと、空が明るくなってから2枚の捜索画像に発見したものです。移動のないことが確認できていません。ただ、2枚の画像は多少のずれがありますのでノイズではありません。また、ごく近くに小惑星(40678)がありました。一応、お調べください。なお、明け方近くの発見で、最近の捜索画像はありません」という発見報告が届きます。氏のこの発見は、12時32分にダンに送付しました。その報告を見た板垣氏から12時35分に携帯に電話があります。『よく見つけますね……』と話すと「いろいろラッキーな面があります。栃木は快晴です」とのことでした。

日が変わった12月30日01時59分に香取の野口氏から「23cm望遠鏡で12月30日00時45分に確認しました。光度は17.3等でした。画像の限界等級は18.0等です」という報告が届きます。それを見た板垣氏から06時04分に「おはようございます。栃木にいます。夜が明けました。二夜続けて12時間捜索しました。ただ、今日はシーイングが悪くてダメでした。観測をありがとうございます」というメイルが送られていました。10時21分には、大崎の遊佐氏からも「今朝、サイディング・スプリングの43cm反射望遠鏡を遠隔操作して、板垣さんのPSNを確認観測しました。同じ夜、超新星は02時45分に17.5等で、確実に存在しています。今回は、リモート天文台の“予約機能”を使って指定時刻に自動撮影してみました。いつも、天候を確認したり空いている望遠鏡を探しながらいきあたりばったりで観測しているのですが、けっこう簡単に使え、晴天が確実であれば重宝しそうです。しかし、オートガイドモードがうまくいかず、3コマ中の2コマでガイドエラーが発生。幸いにも1枚だけ無事なフレームがあり、このフレームのみからの測定になってしまいました。楽をしようと寝ながら撮影したのがいけません。やっぱり観測は起きて行うものです……」という報告が届きます。

超新星 2013hq in NGC 7276の公表

【上からの続き】さて、12月中旬に発見された超新星の中で最後まで残ったNGC 7276に出現した超新星は、12月15日12時54分に大崎の遊佐氏から「12月14日12時33分にメイヒル近郊にある25cm望遠鏡を使用して確認しました。このとき、光度は16.4等でした」という報告があります。その報告には「板垣さん。同夜の2天体の発見、すごいですね。これで3度目でしょうか。今日は久しぶりの日曜休日です。昨日、仕事の合間に撮影していた板垣さんの2個のPSN(NGC 7276とNGC 3910)の測定を行い、さきほどTOCPに投稿しました。なお、光度測定はアストロ・メトリカでUCAC4カタログのV光度、ノーフォルターの設定で行っております。大崎は30cmの大雪です。雪かきをしております」というメイルがついていました。

この超新星が公表されたのは、12月30日10時10分に到着のCBET 3768でした。そこには、超新星の出現は国外の観測者によっても確認されたことが伝えられていました。なお、12月24日に美星天文台の1.0m望遠鏡でスペクトル確認が行われ、極大光度から数日が過ぎたIa型の超新星であることが報告されていました。それを見た板垣氏からは10時37分に「おはようございます。お陰さまでSN 2013hqとして公表されました。みなさん。ありがとうございました。今、栃木に来ています。快晴です。山形は雪が降ってます。今年(2013年)一年本当にお世話になりました。ありがとうございます。皆様。来年も良き年になりますように……。それと遊佐さん。SN 2013huの観測ありがとうございました」というメイルが仲間に送られていました。14時25分には、新天体発見情報No.207を報道機関に送付し、板垣氏の発見を伝えました。これで残りは、1つ(NGC 3693)だけになりました。

アポロ型特異小惑星 2014 AAの地表面衝突

年が改まった2014年1月2日13時過ぎに小天体が地球の大気層に突入しました。この小惑星は、1月1日15時18分にレモン山サーベイで発見された19等級の天体でした。このとき、小惑星はすでに地球に0.0016auまで接近していました。この小惑星の発見は、2014年1月2日22時47分到着のMPEC A02(2014)で公表されます。しかし、追跡観測は同日16時27分まで7個の観測しか報告されていません。つまり小惑星は、発見後16時27分までのわずか1時間09分の間追跡されただけで、その12時間後には地表面に衝突しました。ただし小惑星の標準等級はH10=30.9等と暗く、その直径(推定)は2.3mほどしかなかったため、大気中で燃えつきてしまったものと思われます。わずかな観測から決定した軌道は、T=2014年2月15日、a=1.1658au、e=0.2146、ω=52゚.32、Ω=101゚.57、i=1゚.43で、周期が約1.26年の小惑星でした。もちろん、1時間の観測から決定した軌道です。軌道には大きな誤差があるでしょう。

この小惑星は、その昇交点を昇ってきたところで地球に衝突しました。その地球への衝突経路では、1月1日18時(UT)頃に西インド洋の上空約18.5万kmを通過し、西進し1月2日00時(UT)頃に西アフリカ海岸上空約7.4万kmを通って、その後カリブ海上空1.2万kmでUターンし、東進して04時06分頃UTに中部大西洋で地表面(海面)に衝突しました。衝突地点は西経36゚.0、北緯+11゚.2、衝突速度は5.12km/sでした。ただし、軌道の誤差が大きいために衝突地点は定かではありません。なお、衝突1分前の04時05分に大気層(180km)に入ったものと思われます。軌道図と地表面衝突図がhttp://www.spaceguard.or.jp/ja/mpnews/0161.htmlにあります。興味のある方は、それをご覧ください。

超新星 2013hu in NGC 3693の公表

板垣氏の2013年最後の発見となったNGC 3693の超新星は、1月11日15時44分到着のCBET 3776で公表されます。そこには、12月31日に美星天文台の1.0m望遠鏡でスペクトル確認が行われ、極大光度3日前頃のII-P型の超新星であることが報告されていました。翌日1月12日12時19分に新天体発見情報No.208を発行し、報道各社にこの発見を伝えました。13時45分に板垣氏から「拝見しました。ありがとうございます。金曜日の夕方、会社の新年会が上山温泉宿でありました。挨拶だけやって新幹線に飛び乗り、栃木に星探しに来ました。確か、こんなことを今まで何回もやったような気がします(笑)。幸いにも、二夜とも晴れました。今夜も晴れそうですが、風邪の為か体調が悪いです。頭とのどが痛いです。でも捜索を続けたいので、明日、山形に戻ることにしました。ありがとうございました。栃木の星小屋から……」というメイルが届きます。もう一夜ねばったお陰で、その日(1月12日)の明け方、板垣氏はまた別の超新星を発見することになります。

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