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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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089(2011年12月〜2012年4月)

超新星 2011jh in NGC 4682

先月号で紹介したラブジョイ彗星(2011 W3)の姿が地上から明るく見え始めた12月22日、10時45分に所用で神戸まで出かけました。戻ってきたのは14時20分のことです。休息を取って、23時50分にオフィスに出向きました。しかし昼間に動いたせいか疲れが残り、仕事を片付けたあと、12月23日02時20分に自宅に戻り睡眠を取りました。再びオフィスに戻ってきたのは、その日の朝、07時35分のことです。晴れた寒い朝でした。早速、メイルをチェックしました。すると、その朝05時14分に茅ヶ崎市の広瀬洋治氏から1通のメイルが届いていました。そこには「2011年12月23日03時49分に35cm f/5.7シュミット・カセグレン望遠鏡+CCDカメラを使用して、おとめ座にある系外銀河NGC 4682を撮影した捜索画像上に16.7等の超新星状天体(PSN)を発見しました。超新星の存在は、発見後に撮影した12枚の画像上に確認しました。超新星は、2011年4月24日(極限等級17.5等級)にこの銀河を捜索したときには、まだ出現していませんでした。超新星は、銀河核から西に18"、北に1"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。中央局の未確認天体のリスト(TOCP)に氏の発見を加えたあと、この発見を08時18分にダン(グリーン)に報告しました。

ところで、この夜はこぐま座流星群の極大日でした。08時40分に神戸の豆田勝彦氏からその報告が届きます。氏の観測では23日04時からの1時間に8個、05時からの1時間に13個のこの群に属する流星が出現したとのことです。氏のメイルには「突発性のあるこぐま群が小規模な出現をしました。初めて盛んな出現を見ました。形状はふたご群とおうし群の特徴を合わせ持ったような姿でした。ピークは薄明後のような印象です」という概要がともに届きます。この氏の報告は、09時14分にダンに知らせました。

広瀬氏の発見報告を見た山形の板垣公一氏から、10時25分に「おはようございます。栃木にいます。今夜に観測できたらお知らせします。広瀬さん。おめでとうございます。昨夜は雲が多くだめでしたが、03時頃から快晴になりました」というメイルが届きます。広瀬氏からは、15時12分に「お世話になりました。今日は雪の降りそうな天気ですが、晴れたら追跡観測を行うつもりです。ありがとうございました」というメイルもありました。

その夜(12月23日)は、南淡路に買い物に出かけ、一旦自宅に戻り、昼間からの睡眠の続きを取りました。この夜には広瀬氏から21時18分に「今朝、中野さんにメイルした後、高度が高くなった05時20分から25分に撮った4コマを合成処理し、再度測定した位置と光度を連絡しておきます。画像も添付します。なお、最初に送った位置、等級とは少しずれています。発見時は高度が30゚もなくイメージも悪かったので、こちらの方がより正確かと思い報告いたします。よろしくお願いします」というメイルとともにその画像が届きます。さらに、大崎の遊佐徹氏からは21時38分に「夕方あたりからねばっているのですが、米国メイヒルは天候が悪くルーフが開きません。雪が全天カメラを覆っているようです」という連絡もあります。PSNの確認は、香取市の野口敏秀氏が行ってくれました。氏から12月24日04時38分に届いたメイルには「この超新星の出現を03時16分に23cm f/6.3望遠鏡+CCDで確認しました」と報告されていました。野口氏の測定した光度は15.7等でした。氏の報告は、09時09分にダンに送りました。結局、その日の朝に観測に成功したのは野口氏だけでした。そしてみぞれ混じりの小雨が降る中、帰宅しました。

翌12月25日の朝はこの冬一番の寒さになり、外気温も2℃まで下がっていました。その朝、06時07分に広瀬氏から「この日の朝、05時07分に16.0等でこの超新星を観測した」という報告があります。氏の観測は、06時25分にダンに報告しました。そして氏の発見は、その日の15時47分に届いたCBET 2953に公表されます。そこには「南米アジアゴの観測者によって12月24日14時頃にスペクトル観測が行われ、極大光度より数日前のIa型の超新星らしいことが確認された」ことが報告されていました。その日の夜21時23分には、広瀬氏より「NGC 4682のPSNは、思いのほか早くにスペクトルが撮られ、おかげさまでSN 2011jhとなりました。いろいろお世話になりありがとうございました。来年も、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします」というメイルが届きます。また、遊佐氏からは23時21分に「相次ぐ快挙、お慶び申し上げます。今回はメイヒルの天候が悪く、二晩ともにリモート観測ができませんでした。これからもご活躍をお祈りしています」。さらに23時39分には、野口氏からも「SN 2011jhの正式認定おめでとうございます。私の機材は口径も小さく、10年以上前の古い物ですが、楽しみながら星捜しを続けております。皆さんの観測精度に少しでも近づけるよう、勉強させていただいております。これからもよろしくお願い致します」というメイルも転送されて届きます。翌12月26日の朝、07時11分に新天体発見情報No.185を報道各社に送り、この発見を知らせました。この日(12月26日)もまだ寒さが続いていました。なお、広瀬氏の超新星発見は、超新星2011 hk以来これで7個目となります。

27P/クロメリン周期彗星

このとき(2011年12月)から約8か月前の2011年5月、周期が約27年の27P/クロメリン彗星の回帰が各地でとらえられました。再観測の予報軌道(NK 1607(=HICQ 2011/2012))からのずれは、赤経方向に−9"、赤緯方向に−1"で、これは近日点通過時の補正値にしてΔT=+0.006日でした。1984年以来の久しぶりの回帰で、1818年の発見以来、第6回目の出現を記録したことになります。今回の回帰では、2011年8月3日に近日点を通り、7月から8月にかけて10等級まで明るくなるはずでしたが、観測条件は良くありませんでした。

しかし彗星のCCD全光度は、予報どおり6月上旬に17等級、6月中旬には15等級まで増光してきました。彗星は、その後急速に増光し、10等級まで明るくなりました。スペインのゴンザレスは、眼視全光度を7月1日に10.3等、5日に10.1等と観測しています。また、高知の関勉氏も、5日に9.9等、10日に9.1等と観測しました。そのCCD全光度も、7月には11等級で観測されました。当時のゴンザレスの眼視光度から推定すると、8月には8等級となるはずでしたが、8月中旬以後の観測は難しく、結局、7月25日に上尾の門田健一氏がこの彗星を観測したのを最後に彗星の観測は途絶えてしまいました。このときの門田氏の観測光度は、まだ11.4等と明るいものでした。この彗星は光度変化が急激な彗星の1つで、HICQ 2011/2012にある2011年末の予報光度は21等級と彗星の観測は終了したものと思われていました。

ところが、上尾の門田氏の最終観測から約5か月が過ぎた2012年1月28日発行のMPEC B78(2012)に、チリのラシラで行われた2012年1月6日と15日の観測が公表されます。その光度は20等級でした。続いて、2月5日発行のMPEC C24では、芸西の関勉氏が行った2011年12月27日と30日の観測も公表されます。関氏の光度は18等級でした。そこでこれらの観測を使用して、新たな連結軌道(NK 2190)を計算し『周期が27年のこの彗星は、2011年8月に近日点を通過しました。その観測は、7月25日の上尾の門田健一氏の観測以後、途絶えていました。しかし、すでにMPECで報じられているとおり、久しぶりにチリのラシラの60cm望遠鏡でこの彗星が1月6日と15日に観測されました。彼らの核光度は20等級でした。昨日になって、芸西の関勉氏からも、12月27日と30日の観測が報告されました。氏の核光度は、それぞれ18.5等と18.7等でした。下の予報光度は、この観測にあわせてあります』というコメントをつけて、2月4日に仲間に送付しました。なお、さらに2月18日発行のMPEC D09では、同じくラシラで行われた1月26日の観測が伝えられています。

へびつかい座新星 Nova Oph 2012

2012年3月27日04時50分に掛川市の西村栄男氏から携帯に電話があります。氏は「ちょっと暗いのですが、新星状天体(PN)を見つけました」と話します。その氏からのメイルは、すでに04時45分に届いていました。そこには「昨日3月26日早朝、03時56分頃にCanon EOS 5D デジタル・カメラと200mm f/3.2 望遠レンズを使用して、へびつかい座を13秒露光で撮影した3枚の捜索画像上に12.1等の新星を発見しました。画像の極限等級は13.5等くらいです」という報告、さらに04時52分には「札幌の金田宏氏が多くの星表を調査した結果、過去の画像上のこの星の出現位置には、その姿は見られませんでした」という連絡が届きます。

一緒につけられた金田氏のコメントには「PN天体の画像を拝見いたしました。この天体は極限等級近い光度のため、判断は難しいです。既知の天体でないことは確かです。私もASAS、2MASS、AAVSO、SIMBAD星表、MPチェッカー、Digital Sky Survey(3種類)、動きの遅い人工衛星について調べましたが、全て該当はありませんでした。3枚の画像の星像を輝度表で見てみますと、それぞれがほぼ同光度の恒星と類似しており、また、位置と光度も誤差内です。実在する可能性の方が大きいと思います。しかし、極限等級と同じ程度の明るさですので、やはり慎重に、次回の観測を待った方が良いと思いますので、ぜひ明朝の観測で確かめていただきたいと思います」という調査が送られてきました。そのメイルには「今朝の画像をのちほど送ります」という連絡がついていました。……ということは、金田氏のご助言のとおり、西村氏はすでに第2夜目の確認観測にも成功していたようです。そして、05時12分と05時40分に「今朝(3月27日)04時05分と04時06分の画像です。光度は12.3等です」というメイルが届きます。そこで、西村氏のこの発見を06時19分にダンに報告しました。

すると、山形の板垣公一氏から08時53分に「おはようございます。おっ、日本で今年初めての新天体ですね。晴れたら観測して報告します」という連絡、また、金田氏からも13時06分にメイルが届きます。その日(3月27日)の夕刻、19時35分には、群馬の小嶋正氏から自身が行っている捜索画像を調査した結果が届きます。そこには「2012年3月21日には、PNは13等以下で写っていません。しかし、3月25日03時と26日03時11分に撮影した捜索画像上には、PNはすでに12.2等で写っていました」と書かれてありました。氏の3月25日と26日の観測は西村氏の発見時刻より早く、これらは発見前の観測となります。氏のメイルには「時間がなくてこれらの画像は、精査しないままになっていました……。機材は、Canon EOS 40D+150mm f/2.8で17秒露光です」と注釈がありました。

同じ夜21時34分には、大崎の遊佐徹氏より「メイヒル近郊にある25cm望遠鏡で、3月27日20時00分に観測しました。光度は12.6等でした」という中央局への報告が転送されて届きます。その夜の朝08時56分には、遊佐氏より「昨夜は、リモートでの観測・測定を終え、報告文をダンに送ろうとしたときに地震がきました。当地は震度5弱でしたので、職場に行かねばならず、ばたばたとしていました。さて、TOCPにありましたが、西村さんのPNは新星と分光確認されたようですね。西村さん、おめでとうございます。今日は休みですので、板垣さんのPSN in NGC 4726を観測したいと思います」というメイルが届きます。また、板垣氏よりは「おはようございます。新星発見、改めておめでとうございます。昨夜は雲80%の空でしたが、PNを見たくて山に来ました。そのお陰で私もPSNを見つけることができました。幸運でした」というメイルが転送されて届きます。そして、3月28日15時46分到着のCBET 3072でこの新星の出現が公表されました。そこには、「3月28日明け方に我が国内で行われたスペクトル観測で、このPNが新星の出現であることが確認された」と記載されていました。3月29日08時23分になって、新天体発見情報No.186を発行し、報道機関に送付しました。

その夜、金田氏からは、21時02分に「新天体発見情報No.186を送っていただきまして、ありがとうございました。西村さんの新星発見は、10年連続の15個目となりましたが、本当にすごい記録だと思います。また、新天体発見情報を送っていただくのは実に久しぶりです。私も少しは頑張らねば……と思っています」というメイル。西村氏からは、22時51分に「発見情報をいただきました。いつもご自分のことのように処理いただき本当にありがとうございます。15個目の新星にしていただいたことにお礼を申し上げます。1994年の彗星発見から、中野さんには何回お世話になったのでしょうか。何とお礼を申し上げてよいかわかりませんが、いつの日か新彗星が偶然に見つかって、中野さんに軌道を計算していただけることを目標に頑張りたいと思っています。どうもありがとうございました」という便りがありました。

それから1週間ほどが経過した4月6日16時49分に、小嶋氏から「その後のへびつかい座新星2012の観測報告です。新星は3月29日頃に増光したようです。参考に画像を添付しました。なお、4月5日は月明かりの影響を受けています。新星のその後の光度は、3月28日に12.5等、29日に11.4等、4月1日に11.3等、4月2日に11.0等、6日に10.4等です」と、新星は4月6日朝には10等級まで増光したことが報告されます。この報告は、17時17分にダンに送付しておきました。さらに4月15日09時51分には、津山の多胡昭彦氏から「へびつかい座を2012年4月15日01時21分頃にCanon EOS 5D+105mm f/3.2レンズで撮影した4枚の捜索画像上に10.7等の疑問天体をとらえました。その画像を送ります」という発見報告があります。そのため『西村氏が3月26日に発見した新星です。群馬の小嶋氏によると4月に10等級まで増光しているとのことです。中央局のTOCPを見てください。まだ出ています』と発見が掲載されたCBET 3072を送っておきました。

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