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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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080(2010年12月〜2011年1月)

うお座の新変光星 Variable in Psc 2010

2010年12月25日夜は、ちらちらと雪の舞う寒い夜でした。01時02分に大崎の遊佐徹氏から「先ほど、九州の椛島さんから、今夜、M31に18.5等の新星状天体(PN)を見つけたという連絡がきました。しかし、これは、中央局の未確認天体ページには記載されていない「M31N 2010-11a」の再増光と思われます。この新星は、2010年10月21日にスイフトによって発見されたようです。出現位置は、すべて、ほぼ同じです。私の過去の画像をあたってみたところ、12月は19等〜20等級で、いずれも限界等級ぎりぎりのかすかな天体が確かに写っています。11月27日にも、かすかにノイズ程度のものはあります。しかし、11月10日には、痕跡すら認められません。また、DSS(Digital Sky Survey)には、その位置には何もありません。発見直後は18.8等だったようですが、すぐに暗くなり、12月から再びすこしずつ明るくなってきて、今日、爆発したのでしょうか」というメイルがありました。この日の朝は、池谷・村上氏の発見した新彗星(2010 V1)の軌道を上尾の門田健一氏が行った12月17日の観測、守山の井狩康一氏から報告された18日の観測から再改良して06時13分にOAA/CSのEMESに入れました。門田氏のCCD全光度は14.0等と、この頃には、彗星は、たいぶ減光していました。

それから5日後の12月30日00時19分のことです。掛川の西村栄男氏からメイルが届きます。そこには「2010年12月29日18時30分前後に200mm f/3.2レンズでうお座を撮影した4枚の画像上に11.5等の新星状天体を発見しました。この星は、12月25日と27日に13.7等と12.1等で写っています。しかし、2MASSカタログとDSSにはその姿が見られません。金子静夫さんに調べてもらうと、DSSのR画像では、発見位置に20等前後の暗い星が写っています」と書かれてありました。氏の報告は、02時31分にダン(グリーン)に報告しました。西村氏の送ってきたBMP画像から、この星の出現位置を測定し、その結果をダンに報告しておきました。03時14分のことです。なお、光度は、西村氏の報告よりも2等級ほど暗い13.7等と測光されました。03時15分には上尾の門田健一氏から「明晩、晴れたら観測してみます。今夜は夕方から曇ってきました。どんよりとした寒い夜です」というメイルがあります。

夜が明けた11時30分に遊佐氏から「現在、メイヒルのRAS天文台は天候が悪いようでルーフが閉まっています。お昼過ぎまで粘ってみます。金子さんのいわれる星について、私も調べてみました。DSS(1990年10月14日撮影)の極限等級が約20等の画像に19.4等の星があります。この星は、中野さんの測定値の1"以内の位置にあります」という報告があります。さらに、12時15分に遊佐氏から「さきほど、COMET HANDBOOK 2011/2012が到着しました。「贈呈」となっており、恐縮しております。ありがとうございました。今年も、板垣さんの超新星を始め、さまざまな新天体を確認観測させていただきました。いつも情報をいただき、励みになりました。また大好きな彗星の位置観測も報告させていただきました。来年は、全光度の観測もしっかり行いながら、さらに観測個数を増やすことが目標です。年末には、幸運にもM33に新星を発見することができました(先月号参照)。これも中野さんを始め、多くの皆さまにご指導・ご支援いただき、星を見続けることができたお陰です。本当に感謝しております。このあと夕方には、同じ県内の実家に帰省しますが、メイヒルの天気が悪く、西村さんの新星の確認を行えないことだけが気がかりです。実家にはパソコン・ネット環境がないので、リモート観測もできません。ただ、iPhoneでメイルだけは読めますので、このまま国内で確認できず時間がかかりそうな場合は、40分で行き来できる場所ですので、明日か明後日、戻ってきて観測できます。この一年、本当にお世話になりました。来年も、どうぞご指導お願いします。では、よいお年をお迎えください」というメイルが12月31日12時15分に届いていました。そして、14時06分に届いた氏のメイルでは「結局、メイヒルのルーフは開くことなく、うお座は西に没してしまいました。天候は回復してきたのに、残念です。関東では、今夜、晴マークが出ているようですね。門田さん。よろしくお願いします。これから実家に帰省します。宮城の天気は晴れる見込みはありませんが、緊急の場合は携帯にご連絡いただければ、家に戻ってリモート観測できます。よろしくお願いします。PNの早期の確認・公表をお祈りしています。皆さま、どうぞ良いお年をお迎え下さい」というメイルも仲間に送られていました。

その夜のことです。門田氏から19時11分に「12月31日17時55分に0.25m f/5.0反射望遠鏡で下記のとおり、確認しました」という報告があります。氏の光度は13.8等でした。そして、20時32分には「USNO-B1.0カタログには、遊佐さんが測定したものと多分同じ星が記載されています」という連絡があります。21時11分には、西村氏より「疑問天体ですが、早速、ご処理いただきありがとうございました。私のような者の報告をいつも本当にすみません。今夜、門田さんが確認していただき安心しました。私の光度測定に不手際があり、ご迷惑をおかけしたようですみませんでした。私の今夜の画像では少し暗くなったようです。200mmレンズでこんな暗い星をとらえることができるなんて信じられませんでした。いつの日にか、彗星を見つけたいものです。中野さんがいらっしゃらなければ、何もできない私です。ご迷惑と思いますが、今後ともよろしくお願い申し上げます」というメイルが届いていました。これらの観測は、2011年1月1日04時25分にダンに送付しておきました。ダンは、1月1日15時34分到着のCBET 2616でこの星をうお座の新星状天体として公表しました。しかし、その翌日2日06時00分に届いたCBET 2617では、1月2日02時頃に行われたスペクトル観測では、この星は、変光範囲が11.5等〜21等のアウトバースト中の激変星とのことでした。

超新星 2011B in NGC 2655とM31に出現した新星 M31N 2011-01a

2011年1月7日の朝は、この冬初めて車のフロントグラスに霜がつく寒さでした。この日は島外に所用があり、外出していました。外出したあと、携帯を持参することを忘れたことに気づきます。往々にしてこういうときに発見があります。『まずいなぁ……』と思いながら、1月8日03時55分にオフィスに戻って来ました。すると、案の定、山形の板垣公一氏から19時38分から20時31分にかけて4回の連絡が携帯にありました。そして、氏からのメイルが20時49分に届いていました。そこには「こんばんは。楽しそうな超新星状天体(PSN)を発見しました。何度か電話を差し上げましたが、留守のようでしたので、山岡さんにお願いしました」というメイルとともに「栃木県の観測所にある30cm f/7.8反射望遠鏡を使用して、2011年1月7日夕刻19時20分にきりん座にある系外銀河NGC 2655を20秒露光で撮影した捜索画像上に15.8等の超新星を発見しました。過去の捜索画像を調べると、この超新星は、1月5日に撮影した捜索画像にすでに17.5等で写っていました。しかし1月2日の画像には、まだ出現していませんでした。超新星は、銀河核から東に32"、南21"離れた位置に出現しています」という発見報告でした。板垣氏の報告を見た大崎の遊佐徹氏からは、21時02分に「せっかくのご連絡ですが、すみません……。先ほど、M31、M33、C/2009 K5を撮影し、123Pを撮影したところで雪雲に襲われ帰ってきたところでした。そして、不覚にもお酒を飲んだところでした……。今も宮城は断続的に雪雲が襲来しています。門田さんが動いてくれると思いますが、明日、メイヒルのリモート望遠鏡でも狙ってみます。あてにならず、申し訳ありません」という返信が送られていました。

ところが……です。その2時間足らず後のできごとです。遊佐氏がいう先ほど撮影した画像に新星が写っていたようです。遊佐氏からは、22時45分に中央局のダンに送った「2011年1月7日18時26分から30cm f/7.0望遠鏡を使用して90秒露光でM31を撮影した12枚の画像上に18.1等の新星状天体を発見した。この星は、2010年11月5日から12月23日までに撮影した4枚の捜索画像上には写っていない」という発見報告が届いていました。氏からは22時50分に携帯に連絡もあったようです。そして、遊佐氏からは1月8日00時08分に状況を説明した1通のメイルがあります。そこには「今回の捜索画像は、1枚目の撮影時刻が18時16分です。最終画像は18時26分で、各90秒露光の12枚に画像すべてに淡いイメージですが、写っています。気づいたのは、自宅に帰ってから、20時30分頃です。明日、メイヒルのリモート観測で、板垣さんのPSNとともに確認してみたいと思います。アストロメトリカでは、中心部が見えません。先日、日本スペースガード協会のスペースガード探偵団が当館(大崎生涯学習センター)で開催された際に、浅見さんから頂戴した日本宇宙フォーラムの小惑星探査ソフト(CCDF)でようやく見つけることができました。これは、すばらしいソフトですね。なお、M31の中心位置は、完全に飽和しており、実測できませんでした。以前の画像の中心位置から計算すると、新星は、中心核から19"西、184"北に出現していることになります」と書かれてありました。03時46分、上尾の門田健一氏からは「板垣さんのPSNを確認しました。ドイツ式赤道儀のため、子午線通過を待っていましたので、遅くなりました。板垣さんの報告と比べて、精測位置の差が気になりますが、恒星カタログが違うためでしょうか」という報告が送られていました。02時21分に行われた氏の観測光度は15.9等と測光されていました。

オフィスに戻ってきたのは、この門田氏のメイルが届いた直後でした。今夜は、彗星の軌道を計算しなければなりません。19個の彗星の軌道を再計算し、これらをEMESで仲間に送付したのが、08時20分のことです。しかし、急いだあまり、改良された軌道から、これまでに発見された小惑星の中に同じ天体がないか調べるという同定作業を行うことを忘れました。そのため、軌道を送付後にこの同定作業をしました。すると、LINEARサーベイで2010年11月17日に発見された周期彗星P/2010 WK(LINEAR)にそれより3か月ほど前の8月10日にキットピークで発見されていた小惑星2010 PB57が同じ天体であることが見つかります。この小惑星には3夜にわたって行われた18個の観測がありました。『えぇ……、軌道をもう送っちゃったよ。何もこんなときに出てこなくても良いのに……』と思いながらこの彗星の軌道を再計算して、『先ほど、送った軌道から次の同定を見つけました』というバツの悪いコメントをつけて、再び、EMESで09時25分に送付しました。このあと、外出のために残っていた仕事を終えて、自宅に帰宅したのは、ちょうど正午になっていました。この日の朝は、まだ、寒さが続いていました。

1月8日の昼、遊佐氏は、自身の発見したM31の新星を「1月8日11時04分にメイヒルにある25cm反射望遠鏡で、その出現を確認し、光度が18.6等」であること、さらに「同望遠鏡を使用して、13時36分に板垣氏発見のPSNを確認し、光度を15.4等」と観測したことを14時14分と18分にダンに報告しました。遊佐氏から14時22分頃に届いた2通のメイルによると「さきほど、米国メイヒルのリモートで、板垣さんのPSNを確認しました。明るいです。もうひとつ、昨夜のM31のPNですが、これも米国メイヒルのリモートで確認しました。こちらは暗くなっています。淡く、銀河の中心部に入り込んでいるためか、星像の山がつかみきれません。本当に「星」なのか、不安になってきました。こちらも、ぜひ追跡願います」となっていました。15時50分には、門田氏から「確認観測、ご苦労さまです。仮ですが、おめでとうございます」というメイルが届いていました。

そして、その日の夕方になって遊佐氏は、M31に出現した新星の存在を大崎で再度確認できたようです。氏からは、18時44分にダン宛に「大崎の30cm望遠鏡で観測したところ、1月8日17時53分に17.0等」というメイルが送られていました。氏からは、19時23分に「先ほどM31のPNを観測しましたが、昼間のメイヒルでの観測値より、明らかに増光しています」という報告が届きます。

その夜(1月8日)の22時47分になって、門田氏より「M31の新星の出現を1月8日20時37分に以下のとおり確認しました。M31の中心に近いため、スカイの傾斜が大きく測定しづらい写りでした。光度は、17.7等でした」という報告があります。超新星と新星の発見処理も、一通り確認作業が終了したと思い始めた頃のことです。広島の坪井正紀氏から1月9日00時10分に「本日の観測で、新しい超新星らしき天体を発見しましたので報告いたします。既知の超新星は、もとより、ノイズ、ゴースト、既知の小惑星、変光星について一応確認したつもりです。ご確認のほどよろしくお願いいたします。なお、報告内容で不備がありましたら、ご連絡ください」というメイルとともに「30cm f/5.3反射望遠鏡で1月8日19時00分にNGC 2655を撮影した捜索画像上に超新星を発見しました。発見後、撮られた30枚の画像上にその出現を確認しました。出現光度は15.7等です。この超新星は、12月31日と1月4日に撮影した捜索画像上には、まだ出現していません。超新星は、銀河核から東に30"、南23"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。坪井氏は、板垣氏が発見した超新星と同じものを独立発見したようです。この氏の発見は、01時21分にダンに送付しました。また、門田氏のM31に出現した新星の報告がダンに伝わっていないかもしれないと考え、それを01時39分に送付しておきました。ところで、板垣氏が昨夜に発見したの超新星は、すでに中央局の未確認天体のウェッブページに掲載済です。そこで坪井氏には、03時58分に『あなたの報告時に板垣さんの発見が、次のとおりウェッブページに入っていたのは、ご存知でしたか』という問い合わせを行っておきました。氏からは、04時28分に「認識不足でした。掲載されていることさえ知りませんでした。失礼しました。今後は、ここも確認の上、報告したいと思います」という返答が戻ってきました。ダンは、この超新星の出現を07時25分着のCBET 2625で公表しました。そこには「この超新星は、1月8日19時頃にスペクトル観測が行われ、極大光度数日前のIa型の超新星」と報告されていました。

発見公表後、09時38分に栃木にいる板垣氏から「おはようございます。このたびも何かとありがとうございました。お陰さまでSN2011Bとして発表されました。これからは「分光観測がないと確定番号(符号)が付かない」かもしれないと聞いていたので幸運でした。最近の私の行動は、大晦日の夜に吹雪の中、車で栃木へ。1月1日〜2日に計16時間捜索。3日に山形に戻る。5日にまた車で栃木へ、夕方6時から明け方6時まで12時間捜索。6日に私用で那須温泉に泊。7日には昼12時15分に山形に戻り仕事に目を通す。しかし、13時08分発の新幹線に飛び乗り、また栃木に。12時間捜索。続く8日は好天に恵まれてまた12時間捜索……。こんな馬鹿なことをやり、忙しく、また、楽しい新年の始まりでした。今年もよろしくお願いします。今日は星仲間の新年会ですので、まもなく山形に戻ります。今夜は曇りそうなので安心して美味しいお酒を……。ありがとうございました」というめずらしく長文のお礼状が仲間に送られていました。(次号に続く)

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