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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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075(2010年8月)

りゅう座にある無名銀河に出現した超新星2010gv

2011年9月号からの続き]2010年は8月に入っても暑い日が続きます。とくに8月3日から8日にかけては、当地でも気温が37℃まで上昇する日が続いていました。8月8日10時14分には、山形の板垣公一氏からも「毎日暑いですね!」というサブジェクトのメイルが届きます。そこには「……。最後に私の愚痴話です。山形はほんとうに晴れません。なんともなりません。今年は、比較的はやく梅雨明けしましたが晴れません。捜索できたのはまだ4夜だけです。それも透明度が最悪です。昨夜は南の低空のみ、ほんの少しだけ雲がありませんでした。撮影は奇跡に近いものでした。数枚撮影後は全天ぶ厚い雲に覆われてしまいました。タヒチで見た済んだ星空、あんなところで捜索してみたいです」と書かれてありました。

それから1日半ほどが過ぎた8月9/10日夜は、台風4号が東シナ海まで北上してきていました。『これで少しは涼しくなるぞ……』と思っていた8月10日03時58分、板垣氏から電話があります。氏は「超新星状天体(PSN)を見つけました。16.4等です。今、報告を送りました」と話します。その氏からの報告は、すでに03時54分に届いていました。夜が明けて、板垣氏の発見を知った大崎の遊佐徹氏からは10時28分に「板垣さんのPSNの連絡、ありがとうございます。少ない晴れ間を逃さない板垣さんは、すごいですね。今のところニューメキシコは晴れているようです。日本時間の昼過ぎには狙えると思います」という連絡があります。そして、確認作業に成功した遊佐氏から14時17分に中央局のダン(グリーン)に「米国ニューメキシコにある30cm反射を遠隔操作し、8月10日12時33分、さらに13時03分には同所の25cm反射を遠隔操作して、この星の出現を確認した。そのとき、PSNの光度は16.0等であった」という報告が送られていました。それを知った板垣氏からは15時00分にそのお礼が送られていました。

240P/NEAT周期彗星(2002 X2=2010 P1)

この日(8月10日)の夕刻19時55分には、東京の佐藤英貴氏より2010年10月に回帰予定のNEAT彗星(2002 X2)を検出したことが伝えられました。また、19時57分に板垣氏から「こんばんは。昨夜から引き続き、お世話様です。今夜19時42分の観測です。PSNは、16.2等とほんの少しだけ明るくなっているようです」というメイルとともにこの日の朝に発見したPSNの確認観測が届きます。そして佐藤氏からは「いつもお世話になっております。天文ガイドなどで私の観測を取り上げていただき、ありがとうございます。先ほど、P/2002 X2(NEAT)をメイヒルのリモート望遠鏡を使って2010年8月10日19時30分頃に検出しました。全光度は16.9等と明るく、60秒×6枚コンポジットの画像では、位置角260゚の方向に伸びた淡い30"の尾もわかります。もう一晩の観測を豪州の天文台を用いて私自身が行えればよいのですが、あいにく厚い雲の下で観測は困難そうです。門田さんや安部さんなど馴染みの位置観測者の方々に追跡のお願いをしましたが、台風接近のため日本での追跡は難しそうです。周期彗星の検出は、昨年6月にリモート観測を始めてから、目標とするテーマの一つでした。236P/LINEAR(2003 UY275)のときは、スペースウオッチの検出観測から逆測定して初めて位置測定できました。今回は彗星が明るく、位置のずれが多少大きかったことが幸いしたと思います。何とかもう一晩の観測をなるべくはやく試みたいと思います。なお、この彗星の前に観測したC/2010 DG56(WISE)はきれいに分裂しています。この彗星の観測はしばらく途絶えていますが、7月下旬にWISE衛星サーベイの定置網を通っていますので、そのときの形状が気になります」という報告が届きます。残差の傾向を見ると、検出位置は予報軌道(NK 1463(=HICQ 2009/2010))から赤経方向に+0゚.20、赤緯方向に+0゚.12のずれがあり、彗星は、近日点通過時刻の補正値にしてΔT=-0.74日の位置を動いていました。

遊佐氏からは、22時00分にダンに送付した大崎の30cmカセグレン望遠鏡で21時39分に行った板垣氏のPSNの確認観測が届きます。光度は16.3等でした。氏のメイルには「先ほど板垣さんのPSNを大崎でも観測しました。3コマ撮影したところで、測定を始めると全天雲に覆われました」と書かれてありました。8月11日00時17分になって、板垣氏の観測をダンに送付しました。するとその5分後の00時22分にダンから「不十分だ。極限等級は何等なのだ」というメイルが届きます。そこで00時26分に『Itagakiはこれを書いてないが、たぶん19.5等』だという返信を返しておきました。01時49分には、上尾の門田健一氏から「8月10日は出かけたり、風邪気味で寝ていたりしたので、深夜になってPCを立ち上げました。板垣さん、仮ですがおめでとうございます。晴天が少ない中、一心不乱で捜索されている様子が目に浮かびます。小さく暗い銀河までお調べになっているのですね。確認観測をしたいところですが、今夜は曇天です」という連絡があります。

それらが一段落した8月11日02時04分に、佐藤氏に『がんばっていますね。P/2002 X2の検出、おめでとう。ただ、あなたが2夜目の観測を得るか、誰かが独立して検出を報告するかまで、COMET-MLへの投稿は待った方がいいでしょう。誰かがその瞬間、検出しているかもしれません。投稿はその人の独立検出を奪うことになります(ただしこれは私の勘違いでした)。もう連結軌道を計算したかもしれませんが、参考のため下につけます。また頑張ってください』というメイルを送っておきました。そしてその後の8月11日02時20分に“超新星2010gl”の西尾市の小島信久氏(2011年9月号参照)による2010年7月21日の観測をダンに送ったのです。

その夜02時29分、門田氏からは8月上旬に報告のあった新星状天体について「8月7日の夕方、中野さんから確認依頼を受け取ったとき、ちょうど機材のメンテナンスが終わったところで観測の準備中でした。20時11分に25cm反射+CCDで撮影したのですが、発見位置に明るい恒星は見られず、20時27分に存在しない旨を中野さんに報告しました。依頼を受けたら取り急ぎ観測してから調べるので、小惑星には気がつきませんでしたが、板垣さんはすぐに同定されたので、さすがだと思いました。今回は発見には至りませんでしたが、何かが引っ掛かるということは捜索のプロセスは正しいと思います。気になる天体がありましたら、ご遠慮なくお知らせください」というメイルが報告者に送られていました。夜が明けた07時42分には、佐藤氏が検出したP/2002 X2の予報位置を関係者に『板垣さん、お約束の予報です。明日朝、晴れれば、よろしく。晴れていれば、明るいので、すぐ写せると思います』というメイルをつけて送っておきました。板垣氏の発見した超新星2010gvが公表されたCBET 2404が届いたのは8月11日10時59分、そして、小島氏の2010glの観測が公表されたCBET 2405が届いたのは12時28分のことです。

8月11日には、台風4号は九州西部から朝鮮半島へと動いていきました。そのせいか、曇り空の暑い日でした。その日の夕刻21時50分にオフィスに出向いてくると、19時44分に佐藤氏からP/2002 X2の第2夜目の確認観測が届いていました。この日の観測では、彗星には20"のコマと西に40"の尾が見られるとのことです。そして19時59分には佐藤氏から「先ほど、米国にある望遠鏡のリモート観測で2夜目の観測を行うことができました。彗星の尾は40"ほどあり、明るいです。201Pや207Pの検出のときと同様、小口径でも十分に観測可能な光度で検出されずに残っている周期彗星が存在すること、また、アマチュアでも世界に先駆けて観測を行うことが可能であることを示すことができました。昨日、日本で追跡観測できなかったことは残念ですが、門田さんや安部さん、遊佐さん、高橋俊幸さんには個人的に観測を依頼し、早朝にもかかわらず観測体制をとっていただきました。このような味方は大変心強いものであり、彼らに追跡観測が必要になった際には、私もぜひ貢献できるように準備したいと思いました。なお最近、彗星状の軌道を持つ天体がWISE衛星サーベイにより多く発見され、私も昨日から今日にかけ、小惑星2010 KG43、2010 OR1、2010 PK10の3天体を狙いました。しかし、2010 KG43、PK10は赤外光度よりもだいぶ暗いのか、20等以下で写りませんでした。この類の天体には元から興味があるので、今後とも狙っていきます。その内、いくつかがC/2009 UG89(Lemmon)のように彗星であってくれるとうれしいのですが……」という連絡が届きます。その夜、21時23分になって氏には『良かったですね。最近、彗星の検出は忘れがちです。また頑張ってください』という返信を送りました。21時58分に遊佐氏から連絡があります。氏も同じメイヒルの25cm反射を使用して、20時頃にこの彗星の観測に成功したようです。さらにその夜の8月12日02時46分には、門田氏からも12日02時前に行ったこの彗星の観測が「佐藤さんから依頼があった彗星です。さきほど雲に覆われる前に観測できました。地平高度は15゚くらいでした」というメイルとともに届きます。

8月12日朝、05時26分には「板垣氏の超新星発見を早々と公表してくれたこと、小島氏の観測をCBET 2405に取り上げてくれたこと」についてダンにお礼のメイルを送っておきました。続いて、報告のあったP/2002 X2の観測からその連結軌道を計算し、06時59分にダンに送付するとともにOAA/CSのEMESで仲間にこれを知らせました。そこには『東京の佐藤英貴氏は、ニューメキシコにある25cm反射望遠鏡を遠隔操作して、2010年8月10日に2010年10月に回帰予定のこの彗星を検出し、翌11日にこれを確認しました。検出光度は16.9等、なお、彗星は明るいので、他で独立検出があったかもしれません。検出時、彗星には20"のコマと西に30"の尾が見られました。続く11日夜には、彗星の光度は16.5等、40"の尾があったとのことです。検出位置は予報軌道(NK 1463(=HICQ 2009/2010))から、赤経方向に+0゚.20、赤緯方向に+0゚.12のずれがあり、近日点通過時刻の補正値にしてΔT=-0.74日でした。佐藤氏の検出は、氏の確認から約40分後、同所の同じ望遠鏡を使用して、8月11日に大崎の遊佐徹氏、さらに同夜01時49分に上尾の門田健一氏によって確認されました。遊佐氏の観測では彗星の全光度は16.8等、15"のコマ、西南西に25"の尾、門田氏の観測では彗星の全光度は16.5等、30"のコマ、西南西に35"の尾が見られたとのことです』というコメントをつけておきました。また、07時57分に板垣氏の超新星発見を知らせる新天体発見情報No.165を報道各社に送りました。

ダンはその日の昼前、11時33分到着のIAUC 9159でこの彗星の検出を公表しました。すると11時50分に遊佐氏から「さきほどIAUCが届きましたが、私の報告の仕方が悪かったのか、COMET P/2010 C2(LINEAR)の独立検出者であるTaylorさん、佐藤英貴さんらと同列で私の名前が掲載されていて、今冷や汗をかいています。今回は中野さんから板垣さんへのカーボンコピー(CC)と、佐藤さんから追跡の依頼があっての観測でしたので、そのことをうまくCBATに伝えられなかった私のミスです。COM行にそのことも明記すべきでした」というメイルが届きます。氏の指摘するこの件については、ダンにも少し思い込みがあったようです。遊佐氏には8月13日05時11分になって『我々がわかりきっていることは、当然先方(グリーン)もわかっているだろうという思い込みから、このようなことが時々起こります。報告を伝えるときは、「これはわかっていることだから、もういいや」とは思わないで、必ず明記することです。たとえばNobuhisa Kojimaさんと言えばグリーンでもわかるだろうと、単純な経歴しか伝えませんでした。するとCBET 2405では、単にアマチュアという表記になってしまいました。つまり、グリーンはKojimaを覚えてないのです。そこで、あとになって氏の正しい経歴を伝えなければいけないハメになります。とくに彗星の検出、発見の場合は、確認依頼された方が同じものを発見、検出している可能性がゼロではありません。従って、確認依頼は充分に慎重に行い、報告しなければなりません』という回答を送っておきました。

すると遊佐氏からは「IAUへの報告に関して、ご丁寧で的確なご指導をいただき、大変ありがとうございます。確かに今回は私の勝手な思い込みでした。発見や検出の際にはコメントに「Dis(re)covery」と書くものだと思い込んでいて、佐藤さんからすでに検出の報告はCBATにいっているし、中野さんからも板垣さん・門田さんにも連絡がいっているから、私の観測は「確認観測」にすぎず、ただいつものように報告すればいいという軽率な考えでした。しっかりと丁寧に「佐藤氏や中野氏からの連絡をいただいて観測した」旨のコメントをしないとこういうことになってしまうのは当然ですね。今回のような彗星の発見・検出公表前の観測は初めてでした。PSNやPNの場合ですと自由書式でコメントできますが、MPCの位置報告の中でどのようにコメントすればいいのか、恥ずかしながらわかりませんでした」という返事があります。『遊佐さん、これに懲りず、今後もよろしくお願い致します』。

241P/LINEAR周期彗星(1999 U3=2010 P2)

その日(8月12日)の夜は、22時25分に自宅を離れ、ジャスコに寄って22時55分オフィスに出向きました。その夜には、台風4号は日本海を越えて山形に向かったようで、涼しい夕刻でした。すると、その夜8月13日00時08分に再び、東京の佐藤英貴氏から「P/1999 U3(LINEAR)を検出した」というメイルが届きます。00時41分に届いた氏のメイルでは「先日のNEAT彗星の件では大変、お世話になりました。残念ながら私より前に検出された方がいましたが、無事に独立検出者に名を連ねることができました。また、台風の隙間から門田さんに追跡観測を行っていただくこともできました。本日明け方に、低いP/1999 U3の検出を試み、予報位置よりわずか東に4'.0、南に1'.4ずれた位置にモーションが一致する彗星状天体が写りました。全光度は予報よりもやや明るく17.6等でした。あす以降にメイヒルのリモート望遠鏡で追跡観測を試みます」と書かれてありました。

その日の明け方になって、佐藤氏の観測からその連結軌道を計算しました。氏の検出位置は、予報軌道(NK 1461(=MPC 59600、HICQ 2009/2010))から赤経方向に+239"、赤緯方向に-84"のずれがあり、近日点通過日の補正値にして-0.22日でした。つまり、予報位置を撮影すれば彗星は検出できたことになります。この連結軌道は、05時33分に中央局と仲間に送っておきました。大崎の遊佐徹氏からは09時36分に「昨夜に佐藤さんよりP/1999 U3検出の確認の依頼をいただいて、ちょくちょくと窓の中から外を気にしていましたが、ついに天候は回復せずに、ペルセウス座流星群すら見ることはできませんでした。大崎の天気が悪いときはリモート望遠鏡で狙うのですが、実は今日は子どもとともに帰省(県内ですが)して、夜は同級生と宴会の予定が入っています。実家にはネットの環境がないので、今日・明日は無理かと思います」というメイルが届きました。

その夜(8月13日)、23時11分に佐藤氏から19時半頃に行われた2夜目の確認観測が「昨日はP/1999 U3の連結軌道を計算してくださり、ありがとうございました。確認観測の依頼は慎重に行わなければいけないな……と私も反省いたしました。先ほど、P/1999 U3の2夜目の観測を米国のリモート望遠鏡で行うことができました。本日は、総露出24分の像から、西北西に伸びた淡い尾が見えます」というメイルとともに届きます。そして、氏の検出が公表されたIAUC 9160が8月14日02時33分に届きました。そこでこの検出を『東京の佐藤英貴氏は、ニューメキシコにある25cm反射望遠鏡を遠隔操作し、2010年7月に回帰したこの彗星を2010年8月12日に検出し、翌13日にこれを確認しました。検出時の彗星の光度は、それぞれ17.6等と17.7等でした。検出位置は、予報軌道(NK 1461(=MPC 59600&HICQ 2009/2010))から赤経方向に+239"、赤緯方向に-84"のずれがあり、近日点通過時の補正値にして、ΔT=-0.22日でした』というコメントつけて06時50分にEMESに入れ、仲間に知らせました。

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