天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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2008年3月5日発売「星ナビ」4月号に掲載

アンドロメダ大星雲の新星(2007-07c in M31)

2007年7月18日の朝は、それまでの梅雨空に晴れ間が広がり快晴の空となりました。この朝、今年初めてセミがいっせいに鳴き始めました。ようやく梅雨明けのようです。しかし、その後の数日間はまだ蒸し暑く、はっきりとしない天気が続いていました。そして、ようやく梅雨明けを感じたのが7月23日の朝でした。その夜はジャスコで食料品を買って、22時55分にオフィスに出向いてきました。するとその15分後の23日23時11分に山形の板垣公一氏から一通のメイルが届きます。そこには「こんばんは。M31に新星です。発見時刻は7月23日22時40分、20分間の追跡で移動、光度変化は確認できません。7月8日のサーベイフレーム(極限等級19.0等)にはその姿はありません」という発見報告と、その光度(16.7等)、出現位置が記載されていました。氏の発見には、発見フレームの枚数と露光時間、その極限等級が書かれていませんでしたが、23時25分にこの発見をダン(グリーン)に連絡しました。板垣氏からは、23時37分に「拝見しました。画像を見てください」とその発見画像が届きます。氏の画像には、いつものとおり、かわいい新星の姿が写っていました。

深夜を過ぎた頃、上尾の門田健一氏から7月24日00時35分に「スタンバイしましたが、雲が流れてちょっと微妙な天気です。16等級は無理かもしれません」という連絡が届きます。そこで00時39分に『こちらはど快晴です。梅雨は明けたようです。観測したいんだけど汗たらたらで「ステラナビゲータ」をインストールして、望遠鏡が動かなければと思うと、なかなか動き出せません。C/2006 VZ13を明るいうちに観測したいのですが、どうなることか。関東も明日はど快晴だと期待しています』というメイルを返しておきました。また、その確認用に板垣氏の発見画像を00時57分に送っておきました。すると、00時59分、門田氏から「ど快晴、いいですね。C/2006 VZ13の最接近の時期には観測できませんでしたが、まだ明るいでしょう。M31付近の東北の空は雲の中でしたので、南天の晴れ間から先にP/2007 H1をねらいましたが、数フレーム撮像したところであっという間に全天が曇ってしまいました。まだ梅雨明け前ですので天候が不安定です。明晩のど快晴に期待します」というメイルが届きます。どうも今夜の確認は難しいようです。しかし、その連絡から約1時間半後の02時24分、氏から「晴れ間が広がってきて観測できました。報告の位置に星が存在します。光度は16.8等です。極限等級は18.0等でした。なお、1フレームでは写りが弱かったため、90秒露出×8フレームをコンポジットして測定しました」という観測が届きます。氏のこの確認は、02時59分にダンへ連絡しておきました。03時21分には、門田氏より「下記のサイトに板垣さんと私の画像をおきました。私の画像は2倍拡大ですので星像にシャープさはありませんが、それなりに写っているようです」というメイルが届きます。板垣氏も、その画像を見たようです。この夜は、07時05分に帰宅しました。そのとき夏晴れのきれいな青空が広がっていました。

その夜(7月24日)は、22時45分にオフィスに出向いてきました。すると、09時22分、板垣氏から「おはようございます。門田さん。昨夜はお世話になりました。深夜に送信して下さった画像を今しっかり拝見しました。拡大のために少しざらざら感はありますが、良く写っていますね! びっくりしました。昨夜は、しばらくぶりで捜索をして楽しかったです。梅雨明けも、もうすぐですね、楽しみです。お互い健康には注意をしましょう。M31の過去画像を送信します。家にあった画像ですのでベストでありません」というメイルが届いていました。板垣氏の言うとおり、門田氏の画像の写りの良さには、いつもびっくりすることばかりです。さらに、板垣氏からは、10時55分に「さきほど公表になりました。深夜に大変お世話になりましてありがとうございました」というメイルがあります。氏の連絡によると、この新星は西欧の別の観測グループによって、すでに7月19日に18.8等で発見されていました。つまりその5日後、板垣氏が独立発見したことになります。その夜の25日00時30分、両氏に『門田さんのM31はすごいね……。あれじゃ60-cmで撮ったものと変わりないですね。今朝の全天晴れ渡った青空はすごかったのに今は曇っています』というメイルを送っておきました。

この時期、地球に近づき明るくなることが予想されていたNEAT周期彗星(2002 O5=2007 N2)が検出されたことが公表されていました。この彗星の検出位置は、予報軌道からのずれが赤経方向に+1゚.67、赤緯方向に+0゚.73あったため、LINEARサーベイで2007年7月15日に撮影された捜索フレーム上に、小惑星センター(MPC)によって偶然見つけられたものです。7月30日03時42分に門田氏から「検出10日前、7月5日の捜索フレームからNEAT彗星(2007 N2)を見つけましたので、先ほどMPCに報告しました。25-cm f/5.0反射+CCDによる観測で、7月5.637日UTにコマ視直径が0'.3で集光が見られる淡い像でした。今週末、時間をかけて調べることができました。報告が遅くなり申しわけありません。なお、7月5日の捜索では、57フレームを撮像し、ΔT= 0.0〜−0.5日をカバーしました。先週末に見つけていたらIAUC 8856(7月16日発行)の記事に間にあったかもしれませんが、家族と出かけて疲れたため、集中する時間が取れませんでした。ちなみに、7月1日付けの山本速報(YC 2560)を拝読して探す気になりました。ΔTが±0.5日と予測されていましたので、その範囲でマイナス側を捜索しました。観測直後にモーションに合わせてコンポジットして、止まった像を探したのですが、雲の通過で写りが悪く自力ではピックアップできませんでした。ただ、画像の端から30ピクセルほどの位置にあり、「パッと見」では気がつきにくい位置でした。あとちょっとだけ明るければ見つけることができたかもしれません。う〜ん、でも広範囲を目視で探すのはなかなか難しいです。なお、7月7日にも75フレーム(雲の通過と風で取り直しが多かったため)を撮像し、2夜の観測を揃えるために、同じくΔT= 0.0〜−0.5日を捜索しました。しかし、完全に視野内だったのですが、透明度が低く確認できませんでした」というメイルが届きます。門田氏には、04時34分に『189P/NEAT(予定)は、久しぶりに国内での検出だったのにもったいないですね。これから先、多くの新周期彗星が回帰しますので、ときどき挑戦してください。私も、赤道儀が直っておれば写すようにします。ところで、8Pはまだ写ってきませんか。今、ものすごい雷が鳴っています……』というメイルを返しておきました。

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超新星 2007gi in NGC4036

7月31日朝は、この日から数日間、京都に出向かなければいけないために、04時10分に帰宅しました。すずしい朝で観測しないのがもったいないほどの快晴の空でした。食事を作っていると、08時15分に母より「父が危篤だ。家族全員を集めるように医者に言われた」という電話があります。足が痛いと言って入院していた父ですが、もう退院できるという話を聞いていました。そのため『えっ、そんなバカな。退院するという話だったのに……』と思いながら、病院に出かけました。医師の説明では「1時間ほど前までは、元気だったのに痰が喉につまり、呼吸が止まった」とのことです。『それは病院側の看護ミスではないか。ここは老人病院だろう』と思いながら話を聞きました。父は、片肺しかないために肺に負担がかかると今後が気がかりですが、いったん帰宅し睡眠をとりました。そして、夕刻19時00分に様子を見に病院に出かけ、20時30分にオフィスに出向いてきました。

すると、22時14分、携帯に電話があります。山形の板垣公一氏からです。『何か、見つけましたか』と問いかけると「はい。NGC 4036に超新星です。これから送ります」と、氏は今夜に16等級の超新星を発見したとのことです。氏のそのメイルは、22時27分に届きます。そこには「7月31日夕刻におおぐま座にある系外銀河 NGC 4036を60-cm f/5.7反射望遠鏡+CCDで15秒露光で撮影した10枚以上の捜索フレーム上に16.3等の超新星を発見しました。最近では、7月23日夜にも、この銀河を捜索しています。しかし、その夜の捜索フレーム上の出現位置に18.5等級より明るい星は見当たりません。また、過去の多数の捜索フレーム上にもその姿が見られません。フレームの極限等級は19.0等です。なお、90分間の追跡で移動は見られません」という報告と、超新星の出現位置、銀河中心の測定位置が書かれてありました。22時37分には、その発見画像が届きます。銀河の光芒の中にはっきりと出現した超新星でした。

板垣氏の発見は、23時08分にダンに連絡しました。そして、板垣氏に電話を入れ状況を確認しました。深夜をすぎた8月1日00時35分に上尾の門田健一氏より「先ほど帰宅して冷却中です。視野に導入しましたが、高度が低く月明かりでスカイがかなりカブっています。確認できるフレームが得られないかもしれませんが、一応、撮像してみます」という連絡があります。しかし、01時16分に「40秒露出の16フレームをコンポジットしてみましたが、恒星は15等くらいまでしか写らず、PSNは判別できませんでした」という報告が届きます。さらに01時27分には、板垣氏からも「超低空での観測をありがとうございます。山形は全天ベタ曇りになってしまいました」というメイルがあります。そこで、今夜の確認をあきらめ、両氏に01時47分に『ご苦労様でした。明日にしましょう』というメイルを送りました。この夜は午前05時に業務を終了し、病院に出かけ、父の様態を確かめ、06時00分に自宅に戻りました。

その日(8月1日)は、再び病院に出かけたあと、早く起きたことを幸いに世俗との用をすませ、19時00分にオフィスに出向いてきました。すると、20時36分に板垣氏から「昨夜の超新星は確実に明るくなっています」というメイルとともに、その確認観測が届きます。超新星は15.9等まで明るくなっていました。氏の確認は、21時02分にダンに送付しました。そのメイルを見た門田氏からは、21時05分に「まだ会社にいますが、早々と確認されましたね」というメイルが届きます。そして、もう一度、病院に出かけ、22時10分にオフィスに戻ってきました。板垣氏からは、21時44分に「拝見しました。ありがとうございます」というメイルとともに今夜の確認画像が届いています。素人が見ても、超新星が増光していることがわかります。23時10分に門田氏からは「ちょっと早めに帰宅しました。木星が雲を通して見えますが、低空は曇っています。明るくなっているようですが、今夜は無理そうです」というメイルが届きます。明日(8月2日)は、延ばしていた京都に行かねばなりません。そこで、2日00時27分に『ご苦労さまでした。板垣さん。明日(8月2/3日)は、京都に出かけ不在になります』というメイルを送り、02時30分に帰宅し、09時30分まで睡眠をとって、11時に京都に向け出発しました。翌8月3日は、19時20分に自宅に戻ってきました。そして、睡眠をとって、オフィスに再び出向いたのは8月4日04時25分のことです。すると、板垣氏の発見した超新星は、その1日前の8月3日04時25分到着のCBET 1017で公表されていました。板垣氏からは、その日の08時08分に「おはようございます。おかげ様で先ほど公表になりました。ありがとうございました」というメイルも届いていました。なお、板垣氏は、これで32個目の超新星を発見したことになり、氏が持つ日本での超新星、最多発見数をさらに更新しました。板垣氏は8月2日夜にもこの超新星を観測し、その光度を15.5等と観測しています。

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こぎつね座新星 2007=V458 Vulpeculae

8月8日夜は20時00分に母より電話があり、病院に出向いたあとジャスコで食料品を購入して、22時30分にオフィスに出向いてきました。空は良く晴れていました。その日が変わろうとしていた8月8日23時59分に八束の安部裕史氏から電話があります。氏は、以前には、小惑星捜索をしていた方で35個の新小惑星を発見しています。また、多くの彗星の観測も行っていました。『久しぶりだねぇ。どうしている……』と話しかけると、「実は、最近、新星捜索を行っています。こぎつね座に新星らしき天体を見つけました」と話します。『えっ、何で、優秀な観測者が、新星捜索などを……』と驚きながら、話を聞きました。『それでは、画像を送ってくれますか』とお願いして、電話を切りました。

安部氏からの3枚の画像が8月9日00時28分に「8月8日22時頃に夏の天の川にあるこぎつね座を、キヤノンEOS Kissデジタルにペンタックス35-mm f/2.8レンズをつけて、30秒露光で撮影した捜索フレーム上に9.5等の新星状天体を発見しました。最近では、7月23日、31日、8月4日夜にも、この星域を捜索しています。しかし、これらの夜の捜索フレーム上の出現位置に11.5等級より明るい星は見当たりません。GSC星表では、ほぼ同じ位置に12等星がありますが、確認できていません」という発見報告とともに届きます。メイラーに表示されたサイズを見ました。『何と、13.4Mです』。しかも、どれが新星だか印がありません。これでは無数に写った星の中から新星を探さなければなりません。私にはとうてい無理な話です。そこで、00時37分に『画像を受け取りました。ただ、こんな大きなファイル(表示で14Mバイト)は、うちのサーバでは受け取りますが、一般のプロバイダーでは跳ねられるでしょう。トリミングした画像でけっこうですので、新星に印をつけていただけますか』というメイルを返送しました。

ちょうどその頃、帰宅した上尾の門田健一氏からは「先ほど帰宅して冷却中です。続報が届きましたら送ってください」という連絡が届きます。待っていた画像が01時05分に「失礼しました。トリミングして印を付けました。M27とや座の間です。よろしくお願いします」というメイルとともに届きます。画像を見ると、35-mmレンズに30秒露光という画像なのに「亜鈴星雲(M27)」が見事に写っていました。そのガイド画像と亜鈴星雲の位置を参考にしながら、3枚の発見画像から出現位置を切り出し、門田氏にそれらを『前述の発見画像3枚の新星の位置を切り出しました。それと安部さんのガイド図をつけます。GSC星表には、赤経α=19h54m24s.017, 赤緯δ=+20゚52'30".04に11.96等星があります。1枚、撮影できますか』というメイルを送りました。01時25分のことです。しかし、切り出し作業に忙しく、そのときにはすでに門田氏のメイルが01時19分に到着していることに気づきませんでした。そこには「冷却中ですが、発見位置を取り急ぎ撮像しました。DSS画像も添付します」という報告がありました。しかし、画像には、またまた星がいっぱいで、恥ずかしながら私にはどれだかよくわかりませんでした。

門田氏からは01時32分に「こちらの画像で中央、斜めに並んだ左上の明るい星が写っているようです。冷却後に撮りましたので位置を測ってみます」という連絡があります。そして、氏からの報告が02時00分に届きます。そこには「新星とそばの恒星が分離できました。新星の光度は9.4等、恒星は11.8等、測定位置は下のとおりで、新星はα=19h54m24s.64、δ=+20゚52'51".9に出現しています。25-cm f/5.0 反射+CCDでの撮像です。位置はGSC-ACT、光度はTycho-2で測定しました」とありました。これで発見位置近くにある11等級の恒星の見間違い、増光でないことがはっきりしました。氏は、USNO星表から近くにある恒星も調べてくれました。それによると、新星の出現位置から12"以内には、14等〜18等級の3個の星があります。その中の1つの星(18.1等星)は、α=19h54m24s.66、δ=+20゚52'51".7で、新星の出現位置からわずかに0".4しか離れていません。従って、この星が新星爆発を起こした可能性があります。また、私の方で測定していた発見画像からの出現位置の測定も終わりました。その出現位置はα=19h54m24s.3、δ=+20゚52'47"となります。出現光度は9.4等と測光されました。なお、この位置は、35-mmの短焦点レンズで撮影した画像から測定したものです。そのため、位置には、±8"ほどの誤差があるでしょう。もちろん、門田氏の位置がより正確であることは言うまでもありません。

とにかく、これでダンへ報告できる資料が整いました。そこで、これらの情報を8月9日02時14分にダンへ報告しました。そして、02時22分に門田氏に『ご苦労様でした。DSSの件は、送っていただいた画像を見ていると、頭が痛くなるので書きませんでした。新星はDSSにもないんですよね……。それとも、もっとも近くに18.1等の恒星がDSSには写っているのでしょうか。ずいぶん近い星ですね』というメイルを送りました。その直後、ダンへの報告のメイルを見た安部氏から02時23分に「たいへんありがとうございました。結果を待ちます。これが本当に新星だったら、これからはまた彗星観測にもどります。取り急ぎ、お礼まで」というメイルが届きます。そこで、氏には、02時34分に『新星の場合、その確認に、もう一夜の観測が必要です。明日の夜、晴れれば観測してください』というメイルを送りました。また、門田氏からは、02時45分に「先ほどのDSS画像にある星がもっとも近くにある恒星にかなり近いです。今回添付したDSS画像でもその恒星は見えています」という調査が届きます。そこで、02時56分にダンへ『Kadotaの調査では、報告した18.1等星以外、DSSには近くに恒星がない』ことを伝えておきました。そのメイルを見た門田氏から03時38分に「先ほど示した星のすぐ北側の暗い星がより近いです。こちらの観測画像では、PNが明るかった(大きかった)ので、位置関係がわずかに違って見えたようです。なお、CBATに知らせていただいた内容に変更はありません」という連絡があります。『ちょっと内容が違うかもしれない』と感じましたが、『まぁ、いいか……』とこれで良しとすることにしました。

この日の朝は、父の様態を見るために06時40分にオフィスを出て、途中で母を拾い病院に出かけました。そのとき、安部氏の発見は、中央局の未確認天体のリストにはまだ入っていませんでした。しかし、その日(8月9日)の夕刻、ダンは、安部氏の発見を「新星状天体」として、07時15分到着のCBET 1027で公表していてくれたことがわかります。また、安部氏からは、同日22時06分に「昨夜は、たいへんお世話になりました。今日は、朝からぬけられない会議があり、一応布団の中に入りました。でも、再観測が必要というメイルが気になり、まったく眠れませんでした。昨年の8月からパトロールを始めてちょうど1年間、40数夜のパトロールでの発見になります。実は、新星パトロールは1993年に初めて行っています。途中ブランクがあったのですが、昨年再開し、1個の発見を目標にしました。何年かかっても発見するまでやろうと思っていたので、今回の発見は、1個目の小惑星発見と同様にとても感激です。今夜も観測できました。新星は、8月9日21時17分には、8.4等と明るくなっています。2夜目の観測ができ、ようやく安心することができました。たいへんお世話になりました」とこの新星の出現を確認したというメイルが届きます。氏の観測は、日が変わった8月10日05時09分にダンに報告しました。なお、この新星は、発見翌日に各地で眼視光度観測とスペクトル観測が行われています。

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