TRAPPIST-1の惑星に地球に似た大気や大量の水が存在か

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赤色矮星「TRAPPIST-1」を周回する7個の系外惑星に関する新たな研究成果が相次いで発表された。内側の5惑星は二酸化炭素などからなる薄い大気を持つ可能性が示唆されたほか、一部の惑星には地球の250倍もの水が存在するかもしれないという結果が得られている。

【2018年2月9日 ヨーロッパ南天天文台HubbleSite

地球から40光年の距離にあるみずがめ座の赤色矮星「TRAPPIST-1」には惑星が7個見つかっている。最初の2つはヨーロッパ南天天文台ラ・シーヤ観測所のトラピスト望遠鏡によって2016年に発見され、昨年にはNASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」と地上の望遠鏡による観測で残り5つが発見された。7個とも地球に近い大きさを持ち、そのうち3個はハビタブルゾーン(主星からの距離が生命の誕生に適している範囲)内に軌道があることで話題となった。

「TRAPPIST-1の惑星はすべて同じ恒星の周りを公転し、同じ歴史を経てきたもので、地球型惑星の特徴を調べる研究にとっては宝の山です」(米・宇宙望遠鏡科学研究所 Hannah Wakefordさん)。

TRAPPIST-1惑星系のイラスト
科学雑誌『Nature』(2017年2月23日)の表紙を飾ったTRAPPIST-1惑星系のイラスト(提供:NASA and JPL/Caltech)

米・マサチューセッツ工科大学のJulien de Witさんたちの研究チームはハッブル宇宙望遠鏡(HST)で、TRAPPIST-1の7惑星のうちハビタブルゾーン内またはその近くにある4個の惑星「d, e, f, g」の分光サーベイ観測を行い、これらの惑星の大気に関するデータを初めて得た。これは2016年5月にHSTで行われた最も内側の惑星「b」と「c」の観測に続くものだ。

TRAPPIST-1系のハビタブルゾーンに存在する惑星の分光サーベイの紹介動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)

HSTの観測結果から、少なくとも内側の5つの惑星(b, c, d, e, f)には、海王星のようなガス惑星に見られる水素に富んだ厚い大気は存在しないらしいことがわかった。水素は温室効果ガスとして働くため、主星に近い距離を公転する惑星が水素に富んだ大気を持っていると、惑星表面が熱くなりすぎて生命の存在が難しくなる。水素が検出されなかったということは、これらの惑星に大気があるとすれば、その厚さはガス惑星より薄く、二酸化炭素やメタン、酸素といったより重い分子からなるガスが主成分で、地球や金星、火星の大気に似ている可能性を示している。TRAPPIST-1の惑星が本質的に地球型であるとする理論を支持する結果だ。

4つの惑星の大気組成
ハビタブルゾーンの内部または近くに位置する4つの惑星(d, e, f, g)の大気組成。画像クリックで表示拡大(提供:NASA and JPL/Caltech)


TRAPPIST-1の惑星系については、HST以外にもNASAの系外惑星探査衛星「ケプラー」など様々な地上望遠鏡・宇宙望遠鏡で観測が続けられている。現在は赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」が計500時間にわたる観測を実施している最中だ。

スイス・ベルン大学のSimon Grimmさんたちの研究チームは、TRAPPIST-1の惑星が主星の前を通過する「トランジット」の時刻が惑星同士の摂動によって変化する現象に着目し、過去の観測データを再現するようなコンピューター・モデルからTRAPPIST-1の各惑星の質量をこれまでにない精度で決定した。こうして得た質量と直径のデータから惑星の密度がより正確に求められ、惑星の組成も詳しく推定できるようになった。

Grimmさんたちの研究によると、TRAPPIST-1の惑星は単に荒涼とした岩石質の惑星ではなく、かなりの量の揮発性物質を含む可能性が高いようだ。この揮発性物質はおそらく水で、惑星の質量の5%にも達する可能性がある。これは惑星が持つ水の量としては非常に大きなものだ。地球に海水などの形で存在する水の総量は地球の質量の0.02%しかなく、これと比較するとTRAPPIST-1の惑星には250倍にもなる。

「惑星の密度はその組成を知るための重要な手がかりですが、密度の情報だけでは惑星に生命が存在できるかどうかを知ることはできません。しかし今回の研究結果は重要な一歩となるものです。私たちは今後も、これらの惑星に生命が存在しうるかどうか調査を続けます」(ベルン大学 Brice-Olivier Demoryさん)。

惑星が主星から受ける放射の強さと惑星の密度の比較
惑星が主星から受ける放射の強さ(横軸)と惑星の密度(縦軸)の比較。いずれも地球を1としている(提供:NASA/JPL-Caltech、以下同)

TRAPPIST-1惑星系と太陽系の4惑星の比較
TRAPPIST-1惑星系と太陽系の4惑星の比較。それぞれ上から、公転周期 (Orbital Period)、主星からの距離 (Distance to Star)、半径 (Planet Radius)、質量 (Planet Mass)、密度 (Planet Density)、表面重力 (Surface Gravity) を表す。画像クリックで表示拡大

Grimmさんたちの研究からわかってきたTRAPPIST-1の各惑星の姿について、最新の推定を紹介しよう。

最も内側の惑星「b」は岩石質の核を持ち、地球よりもはるかに厚い大気に覆われているようだ。「c」の内部も岩石質だが、bに比べると大気は薄いとみられている。「d」は質量が地球の3割ほどしかなく、7つの惑星の中で最も軽い。大量の大気や海や氷の層が存在するかどうかははっきりしていないが、密度が地球の0.62倍と小さいことから、そのような揮発性物質で覆われていても不思議ではない。

「e」は大きさや密度、中心星から受ける放射量などの点で地球に最も似ている。7つの中で唯一、地球よりもわずかに密度が高いことが研究者の注目を集めており、中心に地球の核よりも密度の大きな鉄の核の存在が示唆されている。cと同じくeにも、厚い大気や海、氷の層は存在しないかもしれない。eが他の6つの惑星に比べて岩石の割合がはるかに多い理由は謎だ。

「f, g, h」は中心星からかなり遠いため、水は氷となって表面を覆っている可能性がある。もしこれらの惑星上に薄い大気があるとしても、地球大気に存在する二酸化炭素のような重い分子は存在しないだろう。

もしそれぞれの惑星に水が存在する場合、中心星に近い惑星では大気中に水蒸気の形で含まれる可能性が高く、中心星から離れた惑星では氷として表面に存在することになるだろう。7つのうちTRAPPIST-1 eは岩石質の割合が最も多い惑星だが、それでも多少の液体の水を持つ可能性はあると考えられている。水の存在や地球大気に似た重い分子ガスがあるかどうかについては、2019年春に打ち上げ予定のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測で明らかになることが期待される。

「今回の成果によって、系外惑星系の中ではTRAPPIST-1系が最も詳しく性質のわかったものとなりました。惑星の密度のデータが改良されたことで、この謎めいた惑星系の本質を知る研究が劇的に進むでしょう」(米・カリフォルニア工科大学・スピッツァーサイエンスセンター Sean Careyさん)。

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