過去20年の海王星の温度に予想外の変化

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季節変化に約40年かかるはずの海王星で、過去20年の成層圏の気温が急激に低下・上昇していたことがわかった。大気の化学的性質や太陽活動などの影響かもしれない。

【2022年4月14日 すばる望遠鏡ヨーロッパ南天天文台

海王星の自転軸は軌道面の垂直方向から27.9度傾いており、地球と同じように四季があるが、公転周期が165年と長いため、一つの季節が40年以上ある。現在の海王星は南半球が2005年に夏至を迎えた後の「夏の終わり」で、南半球を太陽や地球に向けている。

英・レスター大学のMichael Romanさんたちの国際研究チームは2003~2020年にかけて、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTなど世界各地の地上望遠鏡を使い、海王星の大気を赤外線で観測した。この観測で撮影された約100枚の画像から17年間の気温変化の全体像がこれまでにない精度でわかり、予想外の事実が明らかになった。

この時期の海王星は南半球が夏であるにもかかわらず、全球の平均気温が2003年から2018年にかけて8度も下がっていた。さらにその後の2018年から2020年には逆に、南極域で成層圏の気温が11度も急上昇した。海王星の極域でこうした急激な温暖化が観測されたのは初めてだ。

「私たちのデータは海王星の1年(1公転)の8分の1以下しかカバーしていないので、大規模で急速な変化が見られるとは予期していませんでした」(NASAジェット推進研究所 Glenn Ortonさん)。

今回観測された予想外の気温変化の原因は不明だが、海王星大気の化学成分の季節変化と関係している可能性がある。それ以外にも、気象のランダムな変動や11年周期の太陽活動なども影響しているかもしれないとRomanさんたちは考えている。太陽活動が海王星の可視光線での明るさに影響を与えることは以前から知られていたが、今回の観測から、成層圏の温度や雲の分布にも太陽が影響を及ぼしている可能性が出てきた。

可視光線と中間赤外線で見た2020年の海王星
可視光線(中央)と中間赤外線(右)で見た2020年の海王星。可視光線画像はハッブル宇宙望遠鏡の3色の画像から合成。中間赤外線の画像はすばる望遠鏡の「COMICS」で撮影されたもの。(左)地球から見た海王星の向きを示したもの。2003年から2020年まで、この見え方はほとんど変化していない。中間赤外で海王星の南極が明るく輝いている(提供:Michael Roman/NASA/ESA/STScI/M.H. Wong/L.A. Sromovsky/P.M. Fry)

2003年から2020年までの海王星成層圏の中間赤外放射輝度
(下)海王星の中間赤外線での明るさ(放射輝度)をプロットした図。成層圏の温度の指標となるもので、輝度が高いほど温度が高い。(上)波長12μmの中間赤外線で撮影した海王星。2006年、2009年、2018年はVLTの「VISIR」、2020年はすばる望遠鏡の「COMICS」による(提供:Michael Roman/NASA/JPL/Voyager-ISS/Justin Cowart)

今回の研究では、2011年・2012年・2020年にすばる望遠鏡の冷却中間赤外線撮像分光装置「COMICS」で撮影されたデータも利用されている。COMICSは2020年に運用を終了しており、今回急激な気温上昇が見られた2020年7月のデータは、COMICSの「ファイナルライト」(最終観測)で得られたものだった。

「最後の機会ということで、木星、土星、天王星、海王星のデータを丁寧に取得していきました。その中からこの貴重な発見を得たのは誠に驚きであり喜ばしいことです」(東北大学 笠羽康正さん、国立天文台ハワイ観測所 藤吉拓哉さん)。 今後、日本の望遠鏡での中間赤外線域の観測は、チリで建設中の東京大学・アタカマ6.5m望遠鏡「TAO」に引き継がれる。

太陽活動と海王星の成層圏の性質に関係があるのかどうかを検証するには、長期的な追観測が必要だ。今年末にはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が中間赤外線観測装置「MIRI」を使って天王星と海王星を観測する予定で、この観測で海王星大気の化学的性質と温度についての新たなデータが得られると期待される。

2006~2021年の海王星の大気温度の変化を示す赤外線画像(提供:ESO/M. Roman)