JWST、海王星の環や衛星を撮影
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が今年7月に撮影した海王星の画像は、1989年に探査機「ボイジャー2号」が海王星に接近観測して以来、過去約30年間で最も鮮明なものだ。海王星の細い複数の環もくっきりと見えている。
JWSTの近赤外線カメラ「NIRCam」がとらえた海王星(提供:NASA, ESA, CSA, STScI, Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))
海王星というと青いイメージがあるが、これは海王星の大気に含まれるメタンが青い光を反射し、赤い光を吸収するためだ。今回、JWSTの近赤外線カメラ「NIRCam」は近赤外線領域で海王星を撮影しているので、その近赤外線がメタンで吸収されることにより全体としては暗く写っている。ただし、メタンの氷で構成される高高度の雲の部分は、近赤外線がメタンガスで吸収される前に反射されるので明るく見えている。また、赤道部分がわずかに明るくなっているのは、海王星の赤道部分で大気が下降して温められている様子を見ている可能性があるという。
画像には海王星の衛星14個のうち7個もとらえられている。とくに、窒素とメタンの氷に覆われているトリトンは太陽光の約70%を反射していて、海王星に比べてはるかに明るく見えている。トリトンと海王星は来年改めてJWSTで観測が行われる予定だ。
海王星と7つの衛星。左上の明るいトリトンから伸びる放射状の光は回折光(提供:NASA, ESA, CSA, STScI)
また、JWSTは9月上旬に火星も観測している。普通に撮影するとJWSTにとって火星は明るすぎるため、露出時間を短くしたりデータ解析法を工夫したりして、可視光線の画像で見られるのと同じ地形が得られている。
(左)NASAの探査機「マーズオービター」が撮影した火星。(右上)JWSTのNIRCamによる波長2.1μmの近赤外線観測像。大シルチス(Syrtis Major)などが見える。(右下)NIRCamによる波長4.3μmの近赤外線観測像。ヘラス盆地(Hellas Basin)などが見える(提供:NASA/ESA/CSA/STScI and Mars JWST/GTO team、以下同)
今回の結果から、JWSTの分光観測は火星の研究にも威力を発揮することが示された。大気中の二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気による吸収がスペクトルに表れているほか、大気中の塵や雲、さらには地表についても情報が得られるという。将来的には火星の地域ごとの違いや、メタンや塩化水素などを含む大気中の微量物質を探すための観測が計画されている。
火星のスペクトル観測結果。二酸化炭素(黄)、一酸化炭素(赤)、水蒸気(水)の吸収が見える
〈参照〉
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