9時間周期のX線フレアを何度も見せた超大質量ブラックホール
2018年12月24日、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMMニュートン」が、2億5000万光年の距離に位置するちょうこくしつ座の銀河「GSN 069」で起こったX線フレア(急増光、アウトバースト)を2回検出した。さらに2019年1月16日と17日にもXMMニュートンによって5回フレアが観測され、2月12日と15日には、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」が3回のフレアをとらえた。
銀河「GSN 069」の中心ブラックホールのX線像と明るさの変化のグラフ(提供:ESA/XMM-Newton; G. Miniutti & M. Giustini (CAB, CSIC-INTA, Spain))
このX線フレアは、銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールが物質を飲み込む際に放射されたもので、フレアのたびに月4個分ほどの物質がブラックホールへと供給されているとみられている。また、各フレアは約9時間周期で発生しており、このような「準周期的爆発(quasi-periodic eruptions)」が超大質量ブラックホールで観測されたのは初めてのことである。
銀河「GSN 069」のX線の明るさの変化(提供:ESA/XMM-Newton; NASA/CXC; G. Miniutti (CAB, CSIC-INTA, Spain))
「このタイプの準周期的な信号がブラックホールの周囲の降着円盤から発生するメカニズムとしては様々なものが考えられますが、ブラックホール付近のガスの流れの不安定さに関係があるかもしれません。あるいは、第二のブラックホールや、かつて破壊された星の残骸といった他の天体と降着円盤とが相互作用を起こし、爆発的な現象を引き起こしているのかもしれません。いずれにしても、昨年12月からブラックホールがろうそくの火のようにちらつき、急速な変化を繰り返し見せたことは、予想外で完全に新しいものです」(スペイン・アストロバイオロジーセンター Giovanni Miniuttiさん)。
GSN 069の中心ブラックホールの質量は太陽の約40万倍と見積もられているが、この質量が大きくなればなるほど、明るさの変動の周期がゆっくりになる。典型的には遠方銀河の超大質量ブラックホールは太陽の数百万倍から数十億倍も重いため、爆発現象の周期は9時間にはならず、数か月から数年の周期になるかもしれない。これほど観測が長期に及ぶことはほとんどないため、周期性が検出される可能性もおそらくないが、周期的なフレアは実は宇宙ではありふれたものという可能性もある。
また、活発な活動を見せるブラックホールの多くは、理論モデルで考えられているよりも明るさの変化が速すぎるという問題がある。今回の準周期的爆発現象の観測データから、その謎の解釈が進むかもしれない。
さらに観測データからは、1回の「食事」時間が短くなっていることや、食事の間隔が伸びていることも示唆されている。「この新しい現象の物理的起源を理解するために、他の銀河での準周期的爆発を探していきます」(スペイン・アストロバイオロジーセンター Margherita Giustiniさん)。
〈参照〉
- ESA:Unexpected periodic flares may shed light on black hole accretion
- Chandra X-ray Observatory:Scientists Discover Black Hole Has Three Hot Meals a Day
- Nature:Nine-hour X-ray quasi-periodic eruptions from a low-mass black hole galactic nucleus 論文
〈関連リンク〉
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