観測史上最遠の二重クエーサー、実在を確認

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ふたご座の方向約108億光年先に位置する「SDSS J0749+2255」は、合体した銀河の中で2つの超大質量ブラックホールが近接した「二重クエーサー」であることが確認された。

【2023年4月12日 千葉大学HubbleSite

多くの銀河の中心核には超大質量ブラックホールが存在することがわかっている。また、宇宙の歴史の中で、銀河は合体を繰り返して成長したと考えられる。中心核のブラックホールも合体によって成長したという説が有力だが、そうであれば、遠方宇宙には合体した銀河の中心で近接した超大質量ブラックホールのペアが多数存在するはずだ。

理論的には、銀河の合体によって超大質量ブラックホールへの物質の流入がうながされ、中心核は解放されたエネルギーで明るく輝くクエーサーとなる。超大質量ブラックホールが2つあれば、「二重クエーサー」が観測できるはずだ。しかし、クエーサーとなる条件が備わるのは超大質量ブラックホール全体の1%程度だと推定されており、2つの超大質量ブラックホールが同時に活発になるのはかなり稀だと考えられる。

米・イリノイ大学のYu-Ching Chenさんたちの研究チームは、その珍しい二重クエーサーをハッブル宇宙望遠鏡(HST)で探し求めてきた。2021年には、約100億光年の彼方に二重クエーサーの候補天体を2組発見したことを発表した。

二重クエーサー「SDSS J0749+2255」
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた二重クエーサー「SDSS J0749+2255」(提供:NASA, ESA, Yu-Ching Chen (UIUC), Hsiang-Chih Hwang (IAS), Nadia Zakamska (JHU), Yue Shen (UIUC)))

しかし、HSTの観測だけでは二重クエーサーが確かに実在するとは言い切れない。たとえば、単独のクエーサーと私たちの間に大きな質量を持った銀河などがあれば、その重力がレンズのように作用して像を歪めてしまい、2つのクエーサーが存在するように見えてしまう可能性が考えられる。あるいは、手前と奥にある別のクエーサーが重なって見えているだけだということもあり得る。

そこで研究チームは、2組の候補のうちふたご座の方向約108億光年先に位置する「SDSS J0749+2255」について、HSTに加え、ケック天文台、ジェミニ北望遠鏡、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」、米・国立科学財団のカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群VLAを使い、X線から電波に至る多波長の追観測を行った。

その結果、地球とこの天体との間にレンズの役割を果たす天体がないこと、および2つのクエーサーが地球から見て同じ距離にあることが確認された。また、それぞれの超大質量ブラックホールを宿していた2つの銀河が、合体に伴って大きく変形していたことを示す兆候もとらえられている。

2つの超大質量ブラックホールは、それぞれ太陽質量の10億倍で、およそ1万光年離れていると見積もられる。私たちが今見ているのは108億年前の姿だが、2つのブラックホールは時間とともに近づき、現在では単独の超大質量ブラックホールになっていると考えられる。

合体過程にある銀河とその中心部に存在するクエーサーの想像図
合体過程にある2つの銀河とその中心部に存在する2つのクエーサーの想像図。2つの銀河の重力の綱引きによって、爆発的な星形成が引き起こされている。遠方宇宙に存在するクエーサーからは、超大質量ブラックホールによって生み出される強力な光が放たれる(提供:NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI))

今回のような銀河合体の兆候をとらえるには、近赤外波長領域での高空間分解能観測が鍵となる。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や、計画中のナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡などの観測により、二重クエーサーの研究が大幅に進展すると期待されている。

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