成長をやめた銀河、銀河団内に偏って分布

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70億年前から現在までの銀河団を調べた結果、星形成が止まった銀河は特定方向にわずかながら多く分布していて、その方向は銀河団の中心銀河の向きとそろっていることが明らかになった。

【2023年1月5日 すばる望遠鏡

星の大集団である銀河には、今でも星を作って成長しているものもあれば、そうした星形成活動が止まってしまったものもある。興味深いことに、単独で存在する銀河の多くは星形成を続けているが、銀河団に属する銀河では止まっていることが多い。

銀河団は銀河が数百から数千個集まった集団で、銀河と銀河の間は銀河団ガスと呼ばれる数千万度から数億度の高温ガスで満たされている。そのため、近くの銀河の重力や銀河団ガスの風圧が、星の材料となるガスを銀河からはぎ取り、星形成が止まるのだと考えられる。従来の研究では、こうした作用は銀河団のどの方向でも同じように働くとされていた。銀河団の中心から見れば、あらゆる方向で銀河の性質は同じであるという前提があったからだ。

ところが、近年では星形成の止まった銀河が特定方向に集中している可能性が指摘されている。一般に銀河団の中心には一際大きな楕円銀河が存在しているが、その楕円の長軸を延長した方向では、成長をやめた銀河の割合が他の方向よりもわずかながら多いというのだ。ただ、こうした研究は比較的私たちに近い、最近の時代の銀河団ばかりを対象にしているか、ごく少数の銀河団をサンプルとしたものだった。

東京大学の安藤誠さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」が撮影した5000個以上の銀河団を統計的に調べた。対象としたのは、現在から70億年前に至るまでの幅広い年代の銀河団だ。調査の結果、銀河団の中心銀河とそろった方向で成長をやめた銀河の割合が多くなる傾向は、あらゆる年代で起こっている普遍的なものだと判明した。

銀河団の例
今回の研究に用いた銀河団の一例。(青い円)河団に所属する銀河のうち、星形成を続けて成長している銀河、(オレンジの円)星形成をやめた銀河。右上は銀河団中心部の拡大図。中心銀河の長軸方向を延長したピンク色の領域では、成長をやめた銀河の割合が他の方向よりも高く、長軸方向に垂直な水色の領域ではわずかながら少ない(提供:東京大学、以下同)

成長をやめた銀河が特定の方向に偏っているのはなぜだろうか。銀河の数や質量自体が特定方向に分布しているとは考えにくく、銀河団の外から特定方向に沿って銀河が入ってくるという可能性も低いことがわかった。鍵を握るのは、銀河団の中心銀河かもしれない。

ほとんどの銀河の中心核には、超大質量ブラックホールが存在する。銀河団の中心銀河の場合、その質量は一際大きいと考えられる。超大質量ブラックホールは周囲の物質を飲み込む過程でエネルギーの一部を放出するが、中心銀河の中心核は銀河団ガスを吹き飛ばすほどの活動を示しうる。このことは、シミュレーションを用いた先行研究で示されていた。

超大質量ブラックホールからは、銀河の長軸に垂直な方向へエネルギーと物質が放出される。つまり、中心銀河の長軸に垂直な方向で銀河団ガスが吹き飛ばされるので、星形成を抑制する要因が減り、結果として成長をやめる銀河の割合が少なくなるというわけだ。

成長をやめた銀河の偏り
今回の研究で検出された成長をやめた銀河の偏り(左)とそのイメージ図(右)。左図は約60億年前の宇宙での解析結果で、成長をやめた銀河の割合を中心銀河の長軸方向に対する角度ごとに示している。白丸が実測値、黒色の太線は分布傾向を表す。中心銀河の長軸にそろった方向(ピンク)では、中心銀河の長軸に垂直な方向(水色)と比べて、成長をやめた銀河の割合が高くなっている

「すばる望遠鏡の大規模で高品質な観測データのおかげで、銀河団の中で銀河の成長を止めるメカニズムの新たな一面とその普遍性が明らかになりました。しかしその直接的な証拠となるブラックホールの活動性や、銀河団ガスの偏在を検出したわけではありません。これらは今後X線や電波の観測によって明らかになると期待されます。今回検出された、成長をやめた銀河の偏りの原因を解明することで、銀河団における銀河の成長史に迫ることができると思います」(安藤さん)。

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