最果ての天体ウルティマ・トゥーレはパンケーキ形だった

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探査機「ニューホライズンズ」が撮影したカイパーベルト天体「ウルティマ・トゥーレ」の新たな画像から、この天体が予想外に平べったい形であることが判明した。

【2019年2月18日 ジョンズ・ホプキンズ大学

今年1月1日に「ウルティマ・トゥーレ」の愛称で呼ばれているカイパーベルト天体2014 MU69へのフライバイ(接近通過)を行ったNASAの探査機「ニューホライズンズ」が撮影した、新たな画像が公開された。

画像は探査機がウルティマ・トゥーレに最接近した10分後に撮影されたもので、今回のフライバイでは一番最後の日時に撮られたものだ。ただし、ニューホライズンズから送信されるウルティマ・トゥーレの画像はこれが最後というわけではなく、大量の画像がダウンロード待ちになっている。

三日月状のウルティマ・トゥーレ
「ニューホライズンズ」が天体最接近の10分後、8,862km離れた位置から撮影したウルティマ・トゥーレ。通り過ぎた後に振り返って撮影しているため、天体の縁だけが照らされて「三日月」のようになっている。(左)「ニューホライズンズ」の望遠カメラ「LORRI」で撮影された10枚の画像を加算平均合成したもの。露出時間が長いために三日月状の明るい部分がブレている。(右)左の画像の被写体ブレを補正して鮮鋭度を上げたもの(提供:NASA/Johns Hopkins Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/National Optical Astronomy Observatory)

「これは地球から66億km離れた天体を探査機で撮影した、まさに信じられない画像です。これに似た画像はいまだかつて一度も撮影されたことがありません」(ニューホライズンズミッション主任研究員 Alan Sternさん)。

今回の画像は接近時の画像とは異なる角度から撮影されているため、ウルティマ・トゥーレの形状についてこれまで得られていた情報を補うデータとなった。これは今回のフライバイで得られた最大の成果の一つといえる。

ウルティマ・トゥーレの最初の接近画像では、この天体は2つの丸い塊が合体したように見えていて、「雪だるま」というニックネームで呼ばれていた。しかし、探査機がウルティマ・トゥーレから遠ざかる際に撮影された14枚の画像から動画を作成し、この天体が背景の星々の手前を横切る際にどの星が明滅したかを分析したところ、ウルティマ・トゥーレの2つの塊は球形ではないことが確認された。「ウルティマ」と呼ばれている大きい方の塊は球というよりも巨大なパンケーキに近い形をしていて、「トゥーレ」と呼ばれる小さい方の塊は凹んだ胡桃のような形だ。

星々の手前を横切るウルティマ・トゥーレ
背景の星々の手前を横切るウルティマ・トゥーレの動画。14枚の画像から作成。これまでに探査機から撮影された、最も遠方の太陽系天体の動画となる(提供:NASA/Johns Hopkins Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute/National Optical Astronomy Observatory)

「当初私たちは、フライバイの直前・直後に得られた少数の画像をもとにウルティマ・トゥーレの印象を描いていましたが、より多くのデータを目にしたことでその見方は大きく変わりました。ウルティマ・トゥーレの形は最初の印象よりも偏平なパンケーキ状だという方がふさわしいものです。しかし、もっと大事なことは、今回の画像によって、こんな平べったい天体がどうやってできたのかという科学的なパズルがもたらされたということです。太陽系天体でこんな形のものは見たことがありません」(Sternさん)。

研究チームでは、フライバイ以前に撮影した画像や地上望遠鏡での観測データから得られた形状モデルと今回得られた形状の推定モデルとを比べた。「これまでに撮影されたウルティマ・トゥーレの全画像から導いた形状モデルは、今回新たに得られた『三日月』画像とも非常に良くつじつまが合っています」(米・サウスウエスト研究所 Simon Porterさん)。

ウルティマ・トゥーレの形状
(上)従来推定されていたウルティマ・トゥーレの形状。2つの塊『ウルティマ』(右側)と『トゥーレ』(左側)はともに球形に近いと考えられていた。(下)今回新たに推定された形状。ただしウルティマ・トゥーレの全体像は観測できておらず、太陽に照らされていない部分もあるため、厚み方向の推定にはいくらか不確定性(水色の破線)がある。“spin axis" は自転軸を示す(提供:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)

「今回は非常に速度の大きいフライバイだったため、ウルティマ・トゥーレの真の形状を決めるのには限界もありますが、新たに得られた結果から、『ウルティマ』と『トゥーレ』は元々考えていたよりもずっと平たく、予想をはるかに超えて偏平であることがわかりました。今回の結果を受けて、初期段階の太陽系における微惑星の形成理論を新たに作り直す動きが勢いづくことは間違いないでしょう」(ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所 Hal Weaverさん)。

(文:中野太郎)

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