太陽表面の乱流運動を深層学習でとらえる
【2022年3月3日 総合研究大学院大学】
太陽のような恒星の表面では、熱は物質の対流によって内側から外へと運ばれている。高温な恒星ではガスは電気を帯びたプラズマになっており、その流れは磁場に作用することで大気上層のコロナを加熱する役割も担う。そうしたプラズマの流れは激しく乱れた「乱流」の状態であり、場所ごとに異なる速度で3次元的に運動している。
乱流のメカニズムを知る上で、こうしたプラズマの3次元的な速度分布を測定することが必要とされている。このとき、私たちの視線に沿った鉛直方向の速度は、プラズマがこちらに近づいていれば波長が短くなり遠ざかっていれば伸びるドップラー効果を利用して計測できる。しかし、水平方向の運動を直接測定する手段はなかった。撮影した表面画像の変化からは、対流が作る直径約1000kmの模様である粒状斑よりも大きなスケールでの運動しか推定できない。
総合研究大学院大学・国立天文台の石川遼太郎さんたちの研究チームは、深層学習(ディープラーニング)の技術で乱流運動を推定する新たな手法を開発した。この手法を使えば、観測可能な鉛直方向の運動および表面温度を元に、水平方向の運動を推定できるようになり、プラズマの乱流を3次元で把握可能となるという。
今回の研究の概念図。観測できる鉛直方向の運動と表面温度から、観測が難しい水平方向の運動をニューラルネットワークで高速に推定する。画像クリックで拡大表示(提供:国立天文台)
石川さんたちは太陽の熱対流を模した3種類の数値シミュレーションから多様な乱流データを生成し、このデータを現在画像認識で幅広く使われている技術である「畳み込みニューラルネットワーク」を通して深層学習を行った。これにより、観測可能な情報から水平方向の運動を高速で推定できるようになった。
さらに、対象とする空間の大きさによって速度の推定精度がどのように変わるかを分析する手法も開発した。空間スケールが小さいほど、推定精度も低くなる傾向にあるが、その要因が、典型的な対流のサイズよりも小さな乱流の構造にあることも突き止められた。今後はこれを手がかりに、手法を改良することが期待される。
(左)数値シミュレーションによる本来の水平運動、(中)深層学習によって推定された水平運動。明るい部分は画面上方向、暗い部分は下方向の流れを示す。(右)空間スケールごとの推定精度。特徴が異なる3種の乱流で精度を調べた
〈参照〉
- 総合研究大学院大学:深層学習で乱流の隠れた構造に迫る -太陽とプラズマの乱流研究に新たな展開-
- Astronomy & Astrophysics:Multi-scale deep learning for estimating horizontal velocity fields on the solar surface 論文
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