若い恒星のスーパーフレアに伴う物質の噴出を初検出

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太陽と同程度の質量を持つ若い恒星で、大規模なフレアに伴う物質の放出が初めて検出された。若い太陽系でも地球がこうした物質放出にさらされていたかもしれない。

【2021年12月15日 国立天文台ハワイ観測所岡山分室

太陽の表面ではフレアと呼ばれる突発的な爆発現象がときおり起こり、その際にガスの塊が放出される現象である「フィラメント噴出」が発生することが知られている。大規模なフレアによって地球に向かって物質が飛ばされれば、通信障害や大規模停電などの被害も生じうる。

その太陽が今よりはるかに若く、安定して核融合反応を続けるようになった直後は、現在以上の頻度で、現在よりも強いフレアを起こしていただろうと考えられる。実際、太陽と同程度の質量を持つ若い恒星では、最大級の太陽フレアの10倍以上も強い「スーパーフレア」が発生していることが、光度の変化という形で観測されている。スーパーフレアではフィラメント噴出の規模も大きいはずだ。安定した核融合の段階に達した恒星であれば、それを取り巻く惑星系も完成しているはずだが、フィラメント噴出で放出されたプラズマにさらされることで、惑星大気などに影響を受けるかもしれない。

国立天文台の行方宏介さんたちの研究チームは、若い太陽型星のりゅう座EK星を観測し、まさにスーパーフレアに伴うフィラメント噴出を検出することに初めて成功した。

りゅう座EK星の想像図
りゅう座EK星の想像図。スーパーフレアの発生に伴い巨大なフィラメント噴出が起こる様子(提供:国立天文台)

行方さんたちは2020年2月から4月までの約32日間、京都大学の口径3.8m「せいめい望遠鏡」と兵庫県立大学西はりま天文台の口径2.0m「なゆた望遠鏡」でりゅう座EK星を分光観測した。同時に、NASAの系外惑星探査衛星「TESS」を使って星の明るさも追い続けた。

その結果、日本時間2020年4月6日未明に、水素原子が発する波長の一つであるHα線が増光している様子がとらえられた。TESSの観測でもりゅう座EK星が白色光で増光しており、スーパーフレアが起こっていることが確認できる。また、フレア発生からしばらく経つと、Hα線よりわずかに短い波長が暗くなっていることが判明した。これは、Hα線を吸収する水素が秒速約500kmで私たちに向かって飛んでいることで説明できる。すなわち、フィラメント放出をとらえたのだ。

りゅう座EK星のスーパーフレアの想像図とHα水素線の分光データ
(左)スーパーフレアを起こすりゅう座EK星の想像図。観測者(地球)のいる右方向へフィラメントが噴出している。(右)実際に得られたHα水素線の分光データ。赤線はスーパーフレア発生時のデータで、Hα線の656.28nm(6562.8Å)を中心に増光している。一方、約10分後の青線では、少し波長の短い成分が暗くなっている。これは噴出したフィラメントが星表面からのHα線を吸収しながら観測者に向かっているのだと説明できる(提供:国立天文台ハワイ観測所岡山分室、以下同)

りゅう座EK星のフィラメント噴出をとらえた分光データは、京都大学飛騨天文台SMART望遠鏡が太陽のフレアに伴うフィラメント噴出を分光観測したときのデータとよく似ていた。ただし、増光やドップラー効果による波長変化はりゅう座EK星の方がはるかに大きく、爆発の規模が桁違いであることを物語っている。こうしたスーパーフレアは太陽でもまれに発生する可能性が指摘されており、りゅう座EK星で起こった現象の分析は、スーパーフレアという災害への対策にもつながる。

りゅう座EK星のスーパーフレアと太陽のフィラメント噴出のHα線比較図
りゅう座EK星のスーパーフレア(左)と、太陽のフレア(右)のHα線観測データ。グラフの形が似ていて、どちらでもフィラメント放出を伴っていることがわかるが、横軸・縦軸のスケールが大きく異なる

若い太陽型星のスーパーフレアに伴う質量放出が周囲の惑星に与える影響について、これまでは想像で考えるしかなかったが、今回初めて観測的証拠が得られたことになる。また、りゅう座EK星をかつての太陽の姿だと考えれば、若い地球がたどった道のりを考察する材料にもなりうる。研究チームではフィラメント噴出の発生頻度を調べて、惑星大気の進化にどれほど影響を与えるのかを明らかにしたいと考えている。