一人で40年、世界屈指の安定性を誇る太陽観測記録

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川口市立科学館の詫間等さんが40年間の観測で残した太陽黒点スケッチが、世界的に見ても安定したデータであり、過去や将来の太陽活動の理解に大きく寄与しうるものであることが示された。

【2023年1月11日 名古屋大学

太陽の黒点は17世紀から観測が続けられており、過去の記録は太陽活動の長期変動を復元する上で貴重なデータとなっている。とくに、黒点群の数と個別黒点の数から計算される「黒点相対数」は太陽の磁場活動を評価する重要な指標だ。

しかし、観測者や観測方法が変われば結果も変わる。そのようなばらばらの記録を集め、差異を分析した上で太陽活動の傾向を読み解く作業は簡単ではない。黒点相対数や黒点群数の長期変化に関しては、埋もれていたデータの発掘やデータの見直しなどによって2014年以降本格的に改訂が施されているが、そこから過去の太陽活動が整合的に復元できているとは言えない状況だ。

この問題を克服するためには、長期間にわたる均質性の高いデータが必要となる。ベルギー王立天文台の黒点相対数・太陽長期観測世界データセンター(SILSO)によれば、観測者がシフト制で交代する太陽観測の専門機関よりも、同じ機材で観測を続ける個人の方が長期的にも短期的にも安定した観測データを提供できるという。だが、そうした個人の記録には、科学コミュニティに共有されてこなかったものも少なくない。

名古屋大学の早川尚志さんたちの研究チームは、川口市立科学館(埼玉県)が保管する黒点スケッチやログブックなどの黒点観測記録を調査し、多角的に分析した。この中には1972年5月から2013年3月に至る1万枚以上の黒点スケッチが残されている。SILSOはこのうち1981年から2010年までのものしか把握しておらず、しかも複数人の記録を寄せ集めたものだと誤解していたため、黒点相対数復元には用いてこなかった。

川口市立科学館所蔵の黒点観測記録群
川口市立科学館所蔵の黒点観測記録群。(左)1972年8月4日、(右)1989年3月12日。巨大な太陽嵐を起こした太陽黒点の様子がよくとらえられている。画像クリックで拡大表示(提供:川口市立科学館)

ところが実際には、40年間の観測記録は全て、同館の詫間等さんが一人で残したものだった。詫間さんは科学館の前身である市立児童文化センターに所属していたときから観測を開始し、2003年に科学館に移ってからも黒点を記録し続けている。使用する機材に多少の変化はあったものの、同一人物がほとんど観測地点を変えずにこれだけ長きにわたって記録を取り続けたことは、世界的に見てもまれな事例だ。

太陽黒点スケッチを記録する詫間さん
太陽黒点スケッチを記録する詫間さん(提供:Shimizu 1983)

詫間さんの観測データに基づく太陽黒点相対数は、SILSOが世界中のデータをまとめて導き出した同時代の黒点相対数のトレンドに沿うものだった。黒点相対数自体が小さくなる太陽活動極小期や、機材や観測地に変化があった時期にはやや不安定になっているものの、詫間さんの観測結果に一定の補正値をかければSILSOのデータに誤差幅の範囲で一致することも確認されている。

黒点相対数の変化
1970~2013年にかけての詫間さんによる太陽黒点相対数(緑曲線)とSILSOの国際黒点相対数(黒曲線)(提供:Hayakawa et al. 2022)

詫間さんの観測データは、SILSOが参照してきた世界各地の長期観測者のものと比べても屈指の安定性を誇る。短期安定性の観点からはベルギー王立天文台の他に日本の個人観測者である小山ひさ子さんや藤森賢一さん、長期安定性の観点からは藤森さんや望月悦育さんに並ぶ水準だった。

安定した観測データは、近年のものであっても太陽活動の長期変動を理解する上で大きく貢献する。今回の分析結果は、現代の観測機材による計測と並んで個人観測者が果たすべき重要な役割や、たった一人の観測から科学コミュニティが太陽活動の長期変動についていかに多くを学び得るかを示す好例となった。

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