星が誕生する環境は、銀河内の位置によって異なる
【2021年6月17日 アルマ望遠鏡/アメリカ国立電波天文台】
恒星は塵やガスが集まった分子雲の中から生まれ、一つの分子雲からは数千個から数万個の星が形成される。これまで、分子雲ごとの性質の違いには焦点が当てられてこなかったが、近傍の銀河を高解像度で調べるサーベイプロジェクト「PHANGS(Physics at High Angular Resolution in Nearby GalaxieS)」の結果によると、銀河内での分子雲の位置によって星の生育環境は異なるようだ。
PHANGSの一員で米・オハイオ州立大学のAdam Leroyさんたちの研究チームは、2013年から2019年にかけて90個の銀河に含まれる10万個の分子雲をアルマ望遠鏡で観測し、分析した結果を論文にまとめた。アルマ望遠鏡は一酸化炭素分子が発するミリ波をとらえることで、銀河内の分子雲の分布を高い解像度で得ることができる。
アルマ望遠鏡が撮影した近傍銀河の例。画像クリックで表示拡大(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/PHANGS, S. Dagnello (NRAO)、以下同)
従来の分子雲の研究では、一つの銀河または銀河の一部だけが対象とされており、PHANGSのような網羅的な調査は初めてだ。「様々なタイプの銀河と、銀河内に存在する多様な環境を観測によって描き出すことで、現在の宇宙で星を形成するガスの雲がどのような条件で存在しているのかを追跡し、そうした条件が星形成の起こり方に与える影響を測定することができます」(米・カーネギー研究所 Guillermo Blancさん)。
これまで分子雲の性質はどこでもほぼ同じと考えられてきたが、今回の調査によって銀河内の位置による違いが浮かび上がってきた。「銀河の中心部にある雲は、銀河のより外側にある雲よりも質量が大きく、密度が高く、乱流が激しい傾向があります。また、雲のライフサイクルも、その環境に左右されます。雲がどのくらいの速さで星を作るかや、最終的に雲を破壊するプロセスも、その雲がどこにあるかによって異なるようです」(仏・天体物理学・惑星科学研究所 Annie Hughesさん)。
(左)かみのけ座の渦巻銀河NGC 4254(M99)、(右)おとめ座の渦巻銀河NGC 4535。ハッブル宇宙望遠鏡のデータとアルマ望遠鏡のデータの合成画像
研究チームでは、今回明らかになった分子雲の性質の違いが、そこで生まれる個々の恒星や惑星にどのような影響を与えるのかについて今後解明していきたいと考えている。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:電波地図で、星を生み出す銀河の多様性を明らかにする
- NRAO:Cosmic Cartographers Map Nearby Universe Revealing the Diversity of Star-Forming Galaxies
- The Astrophysical Journal Supplement Series:PHANGS–ALMA: Arcsecond CO(2–1) Imaging of Nearby Star-forming Galaxies 論文
- American Astronomical Society:AAS 238:Day 2 PHANGSサーベイの成果をまとめた10編の研究成果
〈関連リンク〉
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