132億年前の銀河の暗黒星雲と巨大空洞
【2023年7月20日 アルマ望遠鏡】
エリダヌス座の方向約132億光年の距離にある銀河「MACS0416_Y1」からは、大量の塵や酸素の存在を示す電波が検出されている。塵も酸素も、恒星内部の核融合反応で作られ恒星の死に伴いまき散らされたと考えられる。それらが138億年前のビッグバンからわずか6億年程度の宇宙で見つかったのは驚くべきことだった。
ただし、過去の観測では塵と酸素の分布が正確にわかっていなかった。塵は星の材料となる暗黒星雲の位置を示し、酸素からの電波は散光星雲、すなわち生まれた星が周囲のガスを輝かせている領域を示す。それぞれの分布を調べれば、MACS0416_Y1で星がどのように生まれているかを知る手がかりとなるはずだ。
MACS0416_Y1の塵と酸素を発見した名古屋大学の田村陽一さんたちの研究チームは、その際の観測に用いたアルマ望遠鏡の性能をさらに引き出し、同銀河をより詳しく調べようと試みた。アルマ望遠鏡のアンテナを直径3.4kmの望遠鏡に相当する解像度が得られるように配置し、28時間に及ぶ長時間の観測を行うことで、遠方銀河の観測としてはこれまでよりはるかに高い解像度と感度を実現している。
得られた画像からは、塵と酸素、つまり暗黒星雲と散光星雲が、お互いを避けるように入り組んで分布していることがわかる。これは、暗黒星雲の内部で誕生した星々が、周りのガスを輝かせて散光星雲に変えている様子を見ているのだと考えられる。また、ガスは時速20万kmにも達する乱気流となっていて、巨大な星団の誕生を促している可能性がある。
塵の分布だけに注目すると、中央に直径およそ1000光年にも及ぶ巨大な空洞が存在する。他の銀河では、相次ぐ超新星爆発による衝撃で「スーパーバブル」と呼ばれる巨大な空洞が形成されている例が知られているが、MACS0416_Y1で見つかったのも、巨大な星団の中で短命な星が次々と超新星爆発を起こしたことで生まれたスーパーバブルかもしれない。
「今回の観測性能は、東京から見た富士山の山頂にいる、3cm離れた2匹のホタルの放つ光のさらに50分の1という非常に弱い光をとらえ、かつその2匹のホタルを区別できるほどの高い感度と解像度に対応します。本研究の成果は、アルマ望遠鏡の究極の性能を引き出すことで、宇宙早期の銀河の成り立ちや星々の生死、そして宇宙の物質循環の理解につながった意義深いものです」(筑波大学 橋本拓也さん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:宇宙最初の暗黒星雲に見る星々の生と死
- The Astrophysical Journal:The 300 parsec resolution imaging of a z = 8.31 galaxy: Turbulent ionized gas and potential stellar feedback 600 million years after the Big Bang 論文
〈関連リンク〉
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