宇宙空間でイオンが電子より高温になる理由を解明

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太陽風やブラックホール周辺などで見られるプラズマでは、イオンの方が電子より高温になっている。そのメカニズムが初めてシミュレーションで明らかにされた。

【2020年12月22日 東北大学

私たちの身の回りの物質は一般に固体、液体、気体の3つの状態をとるが、宇宙空間に存在する普通の物質の99%は、第4の状態であるプラズマになっている。太陽から吹き出る太陽風やブラックホールを取り巻く降着円盤などは理解する上でプラズマが重要となる現象だが、プラズマの物理的性質については未解明のことも多い。

宇宙空間のプラズマで代表的な謎が、イオンと電子の温度差だ。プラズマ状態の原子は、プラスの電荷を帯びたイオンとマイナスの電荷を持つ電子に分かれる。固体・液体・気体は混ざり合うとやがて同じ温度になるが、天体現象におけるプラズマではイオンの方が電子よりはるかに高温になっている。天体のプラズマは高温で希薄なため、粒子間の衝突がほとんどなく、そのおかげでイオンと電子は異なった温度のまま共存できるのだが、そもそも両者が異なる温度になる仕組みについては長年の謎だった。

イオンと電子が乱流によって加熱される様子
ブラックホールを取り巻く降着円盤や太陽風の中で、プラズマを構成しているイオンと電子が乱流によって加熱される様子を描いたイメージイラスト(提供:川面洋平)

東北大学学際科学フロンティア研究所の川面洋平さんたちの研究チームは、国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」などを用いて、プラズマの乱流におけるイオンと電子の加熱について調べた。

プラズマの乱流の中には、磁力線が弦のように振動する「横波的ゆらぎ」と、音波のようにプラズマの密度や磁場の強度が振動する「縦波的ゆらぎ」が存在する。従来の研究では横波的ゆらぎだけを考慮してきたが、この場合、イオンが選択的に加熱される可能性と電子が選択的に加熱される可能性のどちらもあり得る。

川面さんたちは縦波的ゆらぎと横波的ゆらぎが共存するという現実の天体現象により近い状況のシミュレーションを世界で初めて実施し、イオンが縦波的ゆらぎの持つエネルギーを電子より効率よく吸い取るため、あらゆる状況でイオンは電子より強く加熱されることを明らかにした。

イオンと電子の加熱比と縦波的ゆらぎと横波的ゆらぎの比
イオンと電子の加熱比(縦軸)と、縦波的ゆらぎと横波的ゆらぎの比(横軸)の関係を示したグラフ。横軸の値が大きいほど縦波的成分が増大する。縦軸の値が大きいほどイオンの加熱が増大し、1を超えるとイオン加熱の方が電子加熱より大きくなる。マーカーの色はプラズマの圧力と磁場の圧力の比に対応し、この比が小さいほど強磁場になる。どの色の場合も増加関数となっていて、縦波的ゆらぎがイオンを選択的に加熱していることを示している(提供:Kawazura et al. (2020) Physical Review Xを改変、2020 The American Physical Society)

今回の結果は、様々な天体現象でイオンが電子より高温である事実を説明できるものだ。イオンが電子に比べどれくらい強く加熱されるかという情報は、2019年に公開された「ブラックホールの影」(参照:「史上初、ブラックホールの撮影に成功!」)の画像解析にも必要とされていたもので、ブラックホールの降着円盤の観測結果をより精度良く理解するうえで大いに役立つ成果ともなっている。

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