【訃報】太陽風の概念を提唱、ユージン・パーカーさん

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3月15日、太陽風の概念を提唱したことで世界的に知られる太陽物理学者で、NASAの探査機にも名を残すユージン・パーカーさんが死去した。享年94。

【2022年3月23日 シカゴ大学NASA

ユージン・パーカー(Eugene Newman Parker)さんは1927年、米・ミシガン州生まれ。ミシガン州立大学と米・カリフォルニア工科大学で学び、1955年に米・シカゴ大学に職を得ている。1957年に太陽コロナの温度に着目して計算を行ったパーカーさんは、太陽の表面から粒子が超音速で絶えず流出しているという結論に達した。太陽風の存在を予測したこの論文は、強い反発を受けながらも翌年に出版された。1962年に探査機の観測で太陽風の実在が確認され、以来、太陽系の仕組みや私たちの生活に大きな影響を与えるものとして盛んに研究が続けられている。

「今日、太陽物理学という分野が存在するのは、ほとんどパーカー博士のおかげだと言っても決して過言ではないと思います。博士の発見と遺産は永遠に生き続けることでしょう」(NASA本部太陽系物理学部門部長、パーカーさんの友人でもあるNicky Foxさん)。

パーカーさん
ユージン・パーカーさん(提供:John Zich / University of Chicago)

パーカーさんは太陽の他にも、宇宙線や銀河の磁場など数多くのテーマを研究した。パーカーさんの名前は、銀河の磁場を表す「パーカー不安定」、プラズマ中での宇宙線の移動を記述する「パーカー方程式」、磁力線がつなぎかわることで磁気エネルギーが解放される仕組みを記述する「スウィート・パーカー・モデル」、銀河における磁気単極子の上限を示す「パーカー限界」など、宇宙物理学のあちこちに見られる。「太陽と太陽系に関する氏のビジョンは、時代をはるかに先取りしていました。私たちの星である太陽と、星を記述する物理学に、ジーン(ユージンの愛称)の名前が文字通り刻まれているのは、まさにふさわしいことです」(シカゴ大学 Angela Olintoさん)。

パーカーさんは米国科学アカデミーの天文学部門の委員長やシカゴ大学天文学・天体物理学科の学科長を2度にわたって務めた。1995年に同大学を退職後も、論文や書籍を出版するなど精力的に活動した。

2017年にはNASAがパーカーさんの太陽物理学分野への貢献を称え、当時計画中であった太陽探査機の名前を「パーカー・ソーラー・プローブ」とすることを発表。翌年8月12日にパーカーさんは、自身の名を冠したNASAの探査機の打ち上げに立ち会った最初の人物となった。同探査機は現在も太陽を周回しながらデータの収集を続けている。

〈主な受賞歴等〉

  • 米国国家科学賞、京都賞、クラフォード賞、米国物理学会特別功労賞、ジェームズ・クラーク・マックスウェル賞等。
  • 米国科学アカデミー会員、米国物理学会フェロー、米国天文学会レガシーフェローに選出。