紫外線で生み出される、銀河中心ブラックホールから吹く風
【2020年11月25日 京都大学】
銀河の中心には、太陽の数百万から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する。ブラックホールの強い重力によって周囲のガスはブラックホールに落ち、その過程でブラックホールの周囲に降着円盤と呼ばれる構造が作られる。降着円盤内のガスの位置エネルギーが光エネルギーに変換されることでブラックホールの周りは明るく輝いており、このような活動的な領域は「活動銀河核」と呼ばれる。
一方、一部のガスはブラックホールへ落ちず、「風」が吹いているかのようにブラックホールから逃げ出す方向に吹き飛ばされている。この風は活動銀河核をX線で観測した際のスペクトルに吸収線が現れることで観測され、吸収線の位置が本来現れるはずの位置より大きくずれるほど、風が高速であることを意味する。風の加速メカニズムとして、降着円盤からの光の力による説と降着円盤の磁場の力による説の2つが主なモデルとして提唱されているが、モデルが観測をどの程度再現できるかはよくわかっていなかった。
ブラックホールから吹き飛ばされるガスのイラスト(提供:京都大学プレスリリース、以下同)
京都大学白眉センター・理学研究科の水本岬希さんたちの研究グループは、降着円盤からの光の力、とくに紫外線の力によってガスが加速されて風になるという理論モデルに基づき、銀河中心に位置するブラックホールの周りからX線が放射される時にX線と風がぶつかることで、どのようなスペクトルが作られるのかをシミュレーションで検証した。
このシミュレーションの擬似観測を実際の観測結果と比較したところ、完全な再現ではないものの、2本の吸収線がそれぞれ観測と合致した位置に見られることが確かめられた。また、風に当たって散乱されたX線によって輝線が作られる様子も再現された。観測の様々な特徴を同時にかつ定量的に再現することに世界で初めて成功した成果であり、風が作られるメカニズムとして、降着円盤から放射される強い紫外線の光によってガスが外側に押されていることを示すものである。
(左)ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMMニュートン」が取得した、かみのけ座方向に存在する活動銀河核「PG 1211+143」のX線スペクトル。青い点線の位置に吸収線が作られるはずが、大きくずれた位置に吸収線(青矢印)が見られ、吸収線を作るガスが高速で吹き出していることを示している。(中央)左の図で示したX線スペクトルに今回の研究結果を重ねて描いたもの。2つの吸収線の位置がよく合っていることがわかる。(右)PG 1211+143をXRISMで観測した場合の模擬観測結果(露光時間30万秒のシミュレーション)。従来の衛星では見えなかった細かい吸収線の様子がはっきりと見られる
JAXAが開発中のX線分光撮像衛星「XRISM」では高いエネルギー分解能により、吸収線の様子をさらに詳細にとらえられると予想される。XRISMで模擬観測を行った結果のスペクトルでは、一つ一つの細かい構造を分離して観測できることが示されていて、こうした観測によってブラックホールの風の素性がさらに解明されることが期待される。
〈参照〉
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