X線と電波が交互に強まるブラックホールの「心電図」

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マイクロクエーサーとして知られるブラックホールが、高エネルギーのX線を出す段階とジェットを放出する段階とを交互に繰り返していることが明らかになった。

【2022年3月14日 NOVA

わし座の方向約3万6000光年の距離にある「GRS 1915+105(わし座V1487)」は、普通の恒星と恒星質量ブラックホールからなるX線連星だ。ブラックホールの質量は太陽の約12倍と推定されていて、質量がわかっている恒星質量ブラックホールの中では最も重いものの一つである。

この天体は「マイクロクエーサー」としても知られていて、相手の星から流れ出した物質がブラックホールの周りに高温の降着円盤を作り、この円盤から強いX線が放射されている。また電波で観測すると、光速に近い高エネルギー粒子のジェットも見られる。

GRS 1915+105の降着円盤から放射されるX線とジェットから放射される電波は、どちらも激しく変動している。X線のエネルギーは、降着円盤の内側が強く加熱されて「コロナ」と呼ばれる高温の状態になると高くなると考えられているが、X線の変動とジェットの変動の間に関係があるのかどうかについてはよくわかっていなかった。

オランダ・フローニンゲン大学カプタイン研究所のMariano Méndezさんを中心とする研究チームは、GRS 1915+105の過去の観測データを15年分にわたって集めた。その中から、X線天文衛星「RXTE」がこの天体を3日おきに観測して得られたX線のデータと、英・マラード電波天文台のライル望遠鏡でほぼ毎日得られた電波のデータを組み合わせて分析した。

その結果、この天体ではまずブラックホール周辺の物質が加熱されて大きなコロナができ、その次の段階でジェットが放出される、という2つの段階が繰り返されていることが明らかになった。あたかもこれは、心臓の血液がまず心房に流れ込み、次に心室へと移ってから外へ出ていくという変化を心電図によってとらえられるようなものだ。

コロナとジェット
GRS 1915+105の2つの段階を描いたイラスト。(左)降着円盤の内側で高温の物質がコロナ(青いドーナツ状の部分)を形成し、ここから高いエネルギーのX線が放射される。この段階ではジェットは見られない。(右)コロナが縮小して温度が下がると、中心からジェットが上下に放出される(提供:Méndez et al.)

「コロナとジェットが交互に繰り返すというのは理屈の通った話ですが、この2つは単に同じものが見えているだけではないかという議論も20年ほど続いていました。今回私たちは、コロナ段階に続いてジェット段階が起こっていることを確かめました。これを示すのは非常に大変でした。秒単位のデータを数年分も比較する必要があり、またエネルギーが非常に高いデータを非常に低いデータと比べる必要もありました」(Méndezさん)。

今回の研究で、GRS 1915+105ではコロナとジェットの段階が交互に起こっていることが証明されたが、いくつかの謎も残されている。たとえば、この天体のX線のエネルギーは、コロナの温度だけでは説明できないほど高い。研究チームでは、磁場の効果によって高いエネルギーが発生しているのではないかと考えている。これは、そもそもジェットがなぜ生じるのかというしくみを説明するのにも好都合だ。磁場の変動が乱雑になるとコロナが加熱され、磁場の変動が落ち着くと物質が磁力線に沿ってジェットとなって流れ出す、と考えることができるためだ。

研究チームでは、今回明らかになった仕組みは天の川銀河の中心にあるような超大質量ブラックホールにも当てはまるかもしれないとしている。

今回の研究の説明動画「Animation of two phases of a black hole」(提供:Méndez et al./ CC BY)

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