初期宇宙に1000個を超える暗いクエーサー
【2018年5月2日 東北大学大学院理学研究科】
多くの銀河の中心には、質量が太陽の100万倍を超えるような超大質量ブラックホールが潜んでいることがわかっている。しかし、超大質量ブラックホールが宇宙の初期にどのように誕生し、宇宙の歴史の中でどのように成長してきたのかはまだ謎に包まれている。
超大質量ブラックホールの成長の歴史をたどる上では、銀河内におけるブラックホールの成長割合や、成長中のブラックホールが存在する銀河が特殊かどうかを知ることが重要である。こうした銀河中心の超大質量ブラックホールが成長する様子は、ブラックホールに周囲の物質が落ち込んで莫大なエネルギーを放射することで明るく輝くクエーサーとして観測されると考えられている。
これまでの研究では、暗いクエーサーが多数存在する可能性が示唆されており、その数は銀河の数に匹敵すると推定されてきた。また、宇宙初期のクエーサーの分布は銀河よりも強く偏っており、大質量の銀河で選択的にクエーサーの活動が起こっていたことも示唆されていた。
東北大学の秋山正幸さんたちの研究グループは、すばる望遠鏡の超広視野カメラ「HSC(Hyper Suprime-Cam、ハイパー・シュプリーム・カム)」を使って進められている広域探査のデータを使って、120億年前の初期宇宙に存在する、1.5立方ギガパーセク(1ギガパーセク=32億6000万光年)の領域にある暗いクエーサーの探査を行った。その結果、世界で初めて、初期宇宙に1000個を超える暗いクエーサーが発見された。
すばる望遠鏡のHSCがとらえた120億年前の初期宇宙に存在するクエーサーの例(緑の円の中)(提供:東北大学大学院理学研究科 リリースページより)
単位体積あたりのクエーサーの数を調べたところ、暗いクエーサーの数はこれまでに示唆されていたほど多くないことが示された。以前の観測・研究では、統計的に数が十分でなかったり、他の天体が十分に除けていなかったりした可能性を示唆する結果である。
暗いクエーサーの個数密度の比較。すばる望遠鏡による広域探査で得られた結果(赤四角)と以前の結果(赤星印や青破線)(提供:Akiyama et al. 2018, PASJ)
さらに、今回の探査で発見されたクエーサーの天球上の分布と、同じ時代にあると考えられる銀河の分布を比較したところ、両者の分布は似ていることが示された。暗いクエーサーは大質量の銀河に選択的に存在したわけではないということを意味する結果であり、宇宙初期の超大質量ブラックホールの成長は多数の銀河で間欠的に起こっていたことを示唆している。
120億年前の宇宙の暗いクエーサーの天球上の分布(赤星印)と、同時代の銀河の分布(黒点とカラー等高線、青から赤に向けて密度が高くなる)との比較。下は一部分を拡大したもの。白抜きの領域はデータのない領域(提供:He et al. 2018 PASJ 論文のデータに基づいて作成されたもの)
すばる望遠鏡による広視野探査は現在も進行中で、最終的には今回の研究で調査された領域の3倍以上の範囲が探査される予定となっている。クエーサーや銀河の空間分布の研究は多数のサンプルを必要とするため、広範囲のデータが得られればより良い統計的解析が可能になるだろう。また、研究グループではクエーサーの分光観測を進めており、そこから初期宇宙の銀河に存在する超大質量ブラックホールの成長史を解き明かそうとしている。
〈参照〉
- 東北大学大学院理学研究科:宇宙初期の超大質量ブラックホール ~超広視野探査で探る宇宙初期の成長中の超大質量ブラックホール~
- PASJ:Clustering of quasars in a wide luminosity range at redshift 4 with Subaru Hyper Suprime-Cam Wide-field imaging 論文
〈関連リンク〉
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