天の川銀河中心で光速の30%で回るガス塊
【2022年9月30日 ヨーロッパ南天天文台】
アルマ望遠鏡は2017年4月に、世界の8つの電波望遠鏡をつないだ「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」の一部として、天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホール「いて座A*」を観測した。その成果としてブラックホールシャドウの姿がとらえられた一方、アルマ望遠鏡単独の観測データからも驚くべき情報が得られた。
「おそらく、私たちが見ているのは、いて座A*の周りを回る熱いガスの塊です。その軌道の大きさは水星と同程度ですが、わずか70分でぐるりと一周します。そのためにはすさまじい速度、光速の30%が必要です!」。こう語るのはEHTコラボレーションの一員で独・マックスプランク電波天文学研究所のMaciek Wielgusさん。Wielgusさんが率いる研究チームは、アルマ望遠鏡がとらえた電波の偏光(波の振動面が特定の向きに偏る傾向)とその時間変動を分析した。偏光は強力な磁場によって発生するので、その観測からは、いて座A*周囲の磁場やその中で動く物体の情報が得られる。
超大質量ブラックホール「いて座A*」の静止画に、アルマ望遠鏡のデータから予測される熱いガス塊の位置とその軌道を示した図(提供:EHT Collaboration, ESO/M. Kornmesser (Acknowledgment: M. Wielgus))
アルマ望遠鏡による観測の一部は、いて座A*がX線で急激に明るくなる「フレア」を起こした直後に行われている。このとき赤外線でもフレアが観測され、その発生源が光速の30%で公転する熱いガス塊内の磁気相互作用だとする研究結果が発表されており、今回の電波による観測はこれを裏付けた。
「おそらく、赤外線の波長で検出されたホットスポットは、同じ物理現象の一部です。赤外線を発するホットスポットが冷えると、さらに長い波長(電波)で見えるようになり、アルマ望遠鏡やEHTで観測できるわけです」(オランダ・ラドバウド大学 Jesse Vosさん)
今後研究チームは、軌道上のガスの塊をEHTで直接観測し、ブラックホールにどこまでも迫ってより多くを知りたいと意気込んでいる。「いつの日かきっと、いて座A*で何が起こっているかを『知っている』と自信を持って言える日が来るでしょう」(Wielgusさん)。
〈参照〉
- ESO:Astronomers detect hot gas bubble swirling around the Milky Way’s supermassive black hole
- Astronomy & Astrophysics:Orbital motion near Sagittarius A* - Constraints from polarimetric ALMA observations 論文
〈関連リンク〉
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