天の川銀河に降る水素ガス雲は外からやって来た

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天の川銀河の円盤に落下しつつある水素ガス雲の重元素量が初めて全天で求められた。落下速度が遅い「中速度雲」の大半は、定説とは違い銀河外から来たガス雲のようだ。

【2024年3月7日 名古屋大学

私たちが住む天の川銀河は、暗黒物質を除くと星と大量のガスで構成されていて、そのガスのほとんどは水素原子だ。電離していない「中性水素原子」は波長21cmの電波(21cm線)を放射するため、この電波を観測すると、中性水素ガスの量や視線方向の運動速度を知ることができる。

地球からの観測で見える天の川銀河の中性水素ガス雲は、ほとんどが銀河円盤とともに回転運動しているが、一部には銀河円盤の回転と全く違った運動をするガス雲もある。そのようなガス雲の多くは銀河ハローにあって、銀河円盤に向かってほぼ垂直に落ち込むような速度を持っている。銀河円盤に落下するガス雲のうち、速度が約30~100km/sのものは「中速度雲」、100km/s以上のものは「高速度雲」と呼ばれる。こうしたガス雲は、天の川銀河自体の進化にも深く関わっていると考えられるが、不明な点も多い。

天の川銀河の構造
銀河円盤を横から見た天の川銀河の模式図。直径約10万光年の銀河円盤に、太陽などの恒星や星間ガスが集中している。高速度雲・中速度雲の大半は、円盤外の銀河ハロー部分にあって、円盤に向かって落下しつつあると考えられている(提供:名古屋大学リリース、以下同)

中性水素ガス雲の起源を考える上で重要な情報の一つが、ガス雲にわずかに含まれる重元素(=水素・ヘリウム以外の元素)の量だ。重元素は星の内部の核融合反応や超新星爆発の過程でのみ作り出されるため、一般的には、天の川銀河の中を循環するガスは重元素が多く、銀河の外から飛来するガスは重元素をあまり含まない。

中速度雲と高速度雲の重元素量については、ガス雲を通して遠くの明るい銀河や恒星の光を観測し、そのスペクトルに生じる「吸収線」から量を見積もる研究が行われてきた。その結果、中速度雲の重元素量は太陽系周辺のガスとほぼ同程度だとされ、銀河円盤のガスが超新星爆発などで吹き飛ばされ、数千光年の高度から再び銀河面に落下しつつあるのが中速度雲だという「銀河系噴水モデル」が提唱されてきた。一方、高速度雲の重元素量は太陽系周辺の10分の1程度しかないため、高速度雲の正体は始原的なガスが天の川銀河の外部から降り積もりつつあるものだと考えられてきた。

ただし、こうした観測を行うにはガス雲の背景に「光源」となる明るい銀河や星がなければならないため、観測例は数十にとどまっていて、2000年以降はほとんど研究が進んでいない。

名古屋大学の早川貴敬さんと福井康雄さんは、2015年ごろからヨーロッパ宇宙機関の宇宙背景放射観測衛星「プランク」の研究チームに参加し、サブミリ波を放射する星間塵(ダスト)と21cm線を放射する中性水素原子の全天分布を比べることで、中性水素原子の量を精密に求める手法を開拓した。2人は今回、この手法を応用して天の川銀河の中速度雲と高速度雲の重元素量を調べた。

早川さんたちは「プランク」の観測で得られた2種類のサブミリ波のデータから、全天でのダストと中性水素の比率を表す精密な地図を作成した。ダストは重元素が主成分で、重元素が多い場所にはダストも多いと考えられるため、この比率をガス雲の「重元素:中性水素」の比と見なすことができる。

中速度雲の重元素量地図
今回得られた中速度雲の重元素量地図。全天の4分の1のエリアを描いたもの。太陽系周辺のガスの重元素量を1(黄緑)として、それより重元素が少ないガスは青、重元素が多いガスは赤で示している。丸印はこれまでに吸収線の観測から重元素量の測定が行われた箇所。今回の研究によって情報量が飛躍的に増えた

分析の結果、中速度雲については「太陽系周辺のガスと重元素量がほぼ同じ」という定説をくつがえし、大半が重元素量の少ない始原的なガスであるらしいことがわかった。

この結果について、早川さんたちは、中速度雲も元々は銀河外起源の始原ガスであり、高速度雲が銀河円盤のガスと相互作用して減速し、混ざりつつある段階のものが「中速度雲」として見えているのだと考えている。この解釈の方が、中速度雲だけを「噴水モデル」で説明するよりも単純で、銀河の進化を統一的に説明できる。さらに、天の川銀河以外の銀河に付随するガス雲についても、同じように起源を説明できるかもしれないという。

ガス雲の重元素量
太陽系周囲のガス(a)、中速度雲(b)、高速度雲(c)の重元素量と存在確率。グラフが左に寄っているほど重元素が少ないガス雲が多いことを示す。中速度雲の重元素量が、「太陽系周囲のガスとほぼ同じ」というこれまでの定説よりも明らかに少ない

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