天の川銀河中心のブラックホールを回る星たちの鮮明な姿

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天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*」を公転する恒星が極めてシャープに撮影され、いて座A*までの距離や質量がこれまで以上に精度良く求まった。

【2021年12月21日 ヨーロッパ南天天文台ジェミニ天文台

天の川銀河の中心に位置する電波源「いて座A*」の周りでは、いくつもの恒星が極めて高速で公転している。この運動の様子から、そこには大質量の天体があることがわかる。一方でいて座A*は非常にコンパクトでもあるため、その正体は超高密度天体のブラックホールに違いないと結論づけられた。いて座A*が超大質量ブラックホールだという発見には2020年のノーベル物理学賞が与えられている

天の川銀河中心部のイラスト
天の川銀河中心と、いて座A*」周辺の星々のイラスト。画像クリックで拡大表示(提供:International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/(Spaceengine). Acknowledgement: M. Zamani (NSF's NOIRLab))

その正体が判明したからといって、いて座A*の研究が終わったわけではない。これまでの観測結果は超大質量ブラックホールがなければ説明できないが、他の天体が含まれている可能性を否定するものでもないのだ。たとえば、いて座A*のすぐ近くに星や小型ブラックホール、ガスやダークマターなどが集まっていて、周りの星を引っ張る質量に貢献しているかもしれない。

そこで、ヨーロッパ南天天文台や独・マックス・プランク地球外物理学研究所などの研究者から成るチーム「GRAVITYコラボレーション」はチリの超大型望遠鏡VLTと米・ハワイのジェミニ北望遠鏡で、いて座A*を回る恒星の位置と速度をこれまで以上に精密に計測した。4基のVLTを組み合わせたVLT干渉計(VLTI)による撮影では、この領域が今までにないほど鮮明に撮影された。

いて座A*のすぐ近くを公転する星々
2021年3月から7月にかけてVLTIで撮影されたいて座A*(Sgr A*)周辺。恒星S29とS55の軌道が描かれている。画像クリックで拡大表示(提供:ESO/GRAVITY collaboration)

一般相対性理論によると、質量が分散して広がっていた場合と1か所に集中していた場合とでは、その周りを運動する星の動きは異なる。つまり、いて座A*周辺の星の運動が精密に観測できれば、超大質量ブラックホール以外に質量を持った天体が存在するのかを確かめられるはずだ。

「いて座A*が確かにブラックホールだと確認したことに対して2020年のノーベル物理学賞が授与された今、私たちはさらに前進したいと考えています。天の川銀河の中心に他の天体が潜んでいるのかどうか、またこの極端な実験場で一般相対性理論が正しい重力理論として通用するのかを知りたいのです」(マックス・プランク地球外物理学研究所 Stefan Gillessenさん)。

知られている中で一番いて座A*に近い恒星の軌道より内側には、太陽の約430万倍の質量が詰まっていることがわかっている。今回の観測で、その99.9%が超大質量ブラックホールだと判明した。言い換えれば、それ以外の天体はどんなに多くても0.1%の寄与しかしていない。いて座A*自身の質量がおよそ太陽430万個分であると言ってよいことになる。また、観測を通じて太陽からいて座A*までの距離も再計算され、2万7000光年と求められた。

今回の観測による他の成果として、この領域に新たに恒星が見つかったことが挙げられる。また、2021年5月後半には恒星S29がいて座A*から太陽・地球間距離の約90倍に当たる130億km離れたところを秒速8740km(時速約3146万km、光速の約2.9%)という猛スピードで通過した。これは観測史上いて座A*に最も近づいた恒星であり、この領域で最も速く動いた星でもある。

VLTIが取得した画像から作成されたアニメーション動画「Animated sequence of the VLTI images of stars around the Milky Way’s central black hole」(提供:ESO/GRAVITY collaboration/L. Calçada)

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