移動する惑星が原始惑星系円盤にリングを作る可能性
【2021年11月18日 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト】
生まれたての恒星の周りは、ガスと塵からなる原始惑星系円盤が取り巻いている。近年アルマ望遠鏡などの観測で円盤の形状が高解像度でとらえられるようになり、多くの原始惑星系円盤でリング状の構造が見られる点が注目されている。これまで、その形成には様々な要因が提唱されてきた。
最も有力な仮説は、円盤の中で生まれた惑星がリング状構造に関わっているというものだ。惑星の通り道にあるガスや塵は重力によって惑星に取り込まれたり、弾かれたりする。これによって軌道に沿って隙間ができ、なおかつ隙間の外側に塵がリング状に集まることが、シミュレーションによって確かめられている。しかし、円盤の中には複雑な形状のものもあり、ただ惑星が存在しているだけでは説明がつかない。
一方、惑星によって作られた隙間の構造については、円盤内におけるガスの複雑な動きである乱流が大きな役割を果たすとされてきた。ところが、アルマ望遠鏡の観測で、原始惑星系円盤内の乱流は弱いことがわかっている。
茨城大学の金川和弘さんたちの研究チームは、乱流の弱い原始惑星系円盤における惑星と塵のリング状構造の関係について、国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」で高解像度のシミュレーションを行った。その結果、惑星が最初に生まれたところから内側へと軌道を変え、その過程で円盤の形が変化していくことが明らかになった。
(上)アテルイIIのシミュレーションで得られた、惑星の移動とともに変化する塵のリング状構造。原始惑星系円盤内の惑星が(左)移動開始、(中央)移動中、(右)移動終了の各段階での円盤の姿を示している。点線は惑星の軌道を、灰色領域はシミュレーションの計算領域外を表す。惑星が中心の星に移動している間に最初のリングを「置き去り」にし、さらに移動した惑星がその先で新たなリングを作り、円盤内で移動した惑星の「始点」と「終点」に2つのリングが作られる。(下)それぞれに対応すると考えられる原始惑星系円盤(アルマ望遠鏡の観測)。上段は、上段の(提供:金川和弘、ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))
従来の考え方によれば、リング状構造がある位置には常に惑星が回っているはずである。しかし今回の研究によれば、惑星はリングを残したまま内側へと軌道を変え、移動先でも新たなリングを作りうるようだ。アルマ望遠鏡でリング状構造が見つかっている原始惑星系円盤の多くは、今回のシミュレーションが示した構造を持っていることがわかった。
本研究から、原始惑星系円盤に見られるリング状構造は惑星が生まれた位置だけではなく、惑星が移動した歴史をも表している可能性が明らかになった。この成果は、原始惑星系円盤の外側から内側へとダイナミックな移動を経る、惑星形成の新しいシナリオを提唱するものといえる。
〈参照〉
- CfCA:原始惑星系円盤のリング構造が惑星形成の歴史を残している可能性を示唆
- The Astrophysical Journal:Dust Rings as a Footprint of Planet Formation in a Protoplanetary Disk 論文
〈関連リンク〉
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