宇宙の歴史を再現する世界最大規模のシミュレーション

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国立天文台のスパコン「アテルイII」を使い、銀河や銀河団ができる様子を再現した世界最大規模の巨大シミュレーションが行われた。

【2021年9月17日 国立天文台CfCA

宇宙には、原子などを形づくる普通の物質(バリオン)とは別に、「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれる、光で観測できない謎の物質がバリオンの5~6倍も存在する。宇宙の初期にはダークマターが自らの重力で集まって「ハロー」とよばれる巨大な構造を作り、このハローに集まったバリオンから最初の星々が生まれて銀河、銀河団が形成された。現在「宇宙の大規模構造」と呼ばれている銀河・銀河団の網目状の連なりは、こうして作られたとされる。

大規模構造が宇宙の歴史の中でどう作られ、銀河や活動銀河核がハローの中でどのように誕生・進化するかという問題は、天文学の大きな課題の一つだ。この謎を解明するために、たくさんの銀河を観測して宇宙の「地図」を作る様々な大規模サーベイが行われているが、それと同時に、計算機で宇宙の大規模構造を作り出すシミュレーションを行い、数値計算でできた銀河や活動銀河核の「模擬カタログ」を観測と比べることも重要である。

大規模構造のシミュレーションでは、宇宙初期のダークマターの分布を多数の粒子で表現し、粒子同士が重力で集まってハローや大規模構造ができる過程を計算する。粒子の数が多いほど広い空間を表現でき、粒子1個の質量も小さくできるので、より細かい構造を再現できるが、粒子を増やすと計算時間も膨大になるため、巨大なスーパーコンピューターや効率の良いプログラムが必要になる。過去のシミュレーションでは、計算できる宇宙空間の広さが限られる、あまり細かい構造は再現できないという限界があった。

千葉大学の石山智明さんたちの国際研究チームは、国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」を使い、40,200個のCPUコア全てを使った世界最大規模となるダークマターの構造形成シミュレーションに成功した。このシミュレーションは「Uchuu(宇宙)」と名付けられた。

“Uchuu”シミュレーションで得られたダークマター分布
「Uchuu」シミュレーションで得られた現在の宇宙のダークマター分布。明るい部分ほどダークマターが多く集まっている。図中の囲みはシミュレーションで形成された最も大きな銀河団サイズのハローを順に拡大したもの。右端の図が一辺約0.5億光年に相当する(提供:石山智明)

「Uchuu」シミュレーションでは2兆1000億個もの粒子を使うことで、一辺が96億光年という広大な宇宙空間の大規模構造を再現し、矮小銀河から巨大銀河団まで幅広いスケールの構造形成と進化を追いかけることができた。

このシミュレーションの全データは3PB(ペタバイト=10の15乗バイト)もの容量になったが、研究チームではハローの形成と進化の情報に特化した約100TBのデータを「Data Release 1」としてインターネット上に公開している。

「Uchuu」シミュレーションのデータによって、銀河や銀河団の空間分布や偏りをこれまでよりもはるかに精度良く評価でき、このデータを観測と比べることで、大規模な天体が形作られる過程をより深く研究できると研究チームは考えている。

「一つの天体の進化を観測で追い続けるのは困難ですが、このシミュレーションでは進化をたどることができます。シミュレーションの中で進化する銀河を観察することで、銀河団やその中に存在する銀河団銀河の形成、進化のプロセスに関する理解への寄与が期待されます」(石山さん)。

研究チームではこのデータを基にした銀河や銀河団の模擬カタログも作成中で、近くインターネット上で公開される予定だ。

「Uchuu」シミュレーションで形成された最大の銀河団サイズのハローを拡大し、この領域のダークマター分布の進化を描いた動画(提供:石山智明、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

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