数百万光年の規模でダークマターを初検出

このエントリーをはてなブックマークに追加
かみのけ座銀河団から数百万光年にわたり延びるダークマターが検出された。これほどの規模で宇宙の大規模構造を形作るダークマターの網目分布が検出されたのは初めてのことだ。

【2024年2月15日 すばる望遠鏡

宇宙の質量の大部分を占めると考えられているダークマターは、宇宙網(コズミックウェブ)と呼ばれる細長い糸状のネットワークの形で存在すると考えられている。宇宙網は銀河や銀河団、さらには超銀河団同士を結びつけているが、「糸」が見えにくいため、これまでは銀河やガスの観測をもとにネットワークの構造が推定されるにとどまっていた。

宇宙の大規模構造のシミュレーション
網目状に分布する宇宙の大規模構造のシミュレーション結果。ダークマターの「糸」が何本も交わる「節」の部分に銀河団が形成される(提供:The Millennium Simulation Project

韓・延世大学のKim HyeongHanさん、James Jeeさんたちの研究チームは、銀河団同士をつなぐダークマターの糸(フィラメント)を検出するため、かみのけ座銀河団に着目した、約4億光年彼方のかみのけ座銀河団は私たちから最も近い大規模な銀河団の一つで、うすく広がったダークマターの構造を検出するのにうってつけの対象だ。

かみのけ座銀河団
かみのけ座銀河団(撮影:バークレーさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページへ

ただし、その見かけの広がりは大きく、研究に必要な領域を十分にカバーできる望遠鏡はほとんどない。そこでKimさんたちは、国立天文台・天文データセンターが運用するサイエンスアーカイブ「SMOKA」で公開・配布されている、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC;ハイパー・シュプリーム・カム)」の画像データを利用した。

研究チームは、写っている銀河の形がダークマターの存在によってごくわずかに歪められるという「弱重力レンズ効果」を精密に測定し、ダークマターの分布を調べた。その結果、銀河団の中心部からダークマターが放射状に数百万光年にもわたって延びている様子が初めて明らかになり、その構造が宇宙網の一部であることが明確に示された。感度・解像度がともに高く視野の広いすばる望遠鏡の能力が、存分に活かされた成果だ。

かみのけ座銀河団の領域で検出されたダークマターの分布
かみのけ座銀河団の領域で検出されたダークマターの分布(青緑色)。背景はHSCで撮影された画像。ダークマターが銀河団の中心部(画像中央)から放射状に延びていることがわかる(提供:Kim et al.)

今回の成果は、現在広く受け入れられている宇宙の構造形成理論(標準理論)を検証する上で重要な証拠になるとみられる。「近年、異なる観測手法間で得られる標準理論のパラメーター値に食い違いがあるという指摘がなされ、宇宙の理解への課題となっています。天文学者たちはこれを解明すべく、基本的な仮定を一つ一つ注意深く再評価しているところです。今回の発見もそのような試みの一つといえるでしょう」(Jeeさん)。

関連記事