天の川銀河外縁部の分子雲衝突候補天体の距離を精密測定

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天の川銀河の外縁部に位置する星形成領域「IRAS 01123+6430」までの正確な距離が測定され、従来の見積もりより約7000光年遠いことが明らかにされた。

【2020年3月18日 国立天文台VERA

カシオペヤ座の方向に位置する星形成領域「IRAS 01123+6430」(以降IRAS 01123)は、これまでの観測研究で、太陽系から4.51kpc(約1万4700光年)の距離にあると推定されてきた。

鹿児島大学の小出凪人さんたちの研究チームは、超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry; VLBI)によってIRAS 01123の年周視差を計測し、この領域に付随する水メーザー天体(水分子が発するメーザーを伴う天体)までの距離が6.61kpc(約2万1500光年)であることを明らかにした。

更新された距離をもとにIRAS 01123の中心星の明るさを計算し直したところ、この星はB1-B2タイプの大質量星に対応することがわかった。このタイプの星は周囲のガスを電離させて「HII領域(電離水素領域)」と呼ばれる天体(輝線星雲)を作り出すが、実際にIRAS 01123にはHII領域が付随している。

さらに、IRAS 01123に付随する一酸化炭素ガスの観測データを調査したところ、分子雲衝突現象の痕跡を示していることがわかった。観測された分子雲は弓状の構造と直線状の構造からなり、相対速度秒速3~5kmという低速の分子雲衝突現象の数値シミュレーション結果と形状がよく一致している。

IRAS 01123+6430とその周囲の分子雲
IRAS 01123+6430とその周囲の分子雲。赤丸が水メーザーの位置、矢印が運動の方向を示す(提供:リリースより)

この相対速度と今回得られた距離から計算すると、2つの分子雲は約260万年から440万年前に衝突を起こしたことが示される。このタイムスケールは、大質量星が形成されるのに要する時間と同程度である。分子雲衝突は大質量星を作り出す上で重要な役割をもつと考えられている現象であり、今回の観測結果は分子雲衝突で大質量星が作られるというシナリオを支持するものとなる。

天の川銀河の外縁部領域は差動回転の度合いが小さく、この領域で起こる分子雲衝突現象はゆっくりした相対速度で発生する割合が高いため、大質量星形成に有利な条件下にあると考えられる。IRAS 01123は、そのような分子雲衝突現象によって誘発された大質量星形成領域の良い観測例の一つとなった。