銀河ハローにある恒星集団の意外な起源

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天の川銀河を取り巻くハロー部分に存在する2つの恒星集団について、その化学組成が詳しく調べられた。これらの恒星集団はかつて銀河に衝突した小銀河の残骸だと考えられてきたが、分析の結果、意外にも天の川銀河自身の円盤に起源を持つ可能性が高くなった。

【2018年3月5日 W.M.Keck Observatory

私たちの天の川銀河のような渦巻銀河の構造は、比較的若い星や星間ガスが豊富な円盤部分と、その銀河円盤を球状に取り巻く「ハロー」に分けられる。天の川銀河のハローには、周りよりも星の個数密度が高い恒星の集団がいくつか存在している。これらの集団は通常の星団よりもずっと巨大で、メンバーの星々はほぼ同じ運動速度を持っている。これまでの研究で、このようなハローの恒星集団は過去に天の川銀河と衝突した小さな銀河の残骸から形成されたものだと考えられてきた。

独・マックス・プランク天文学研究所のMaria Bergemannさんたちの研究チームは、銀河ハローにあるこのような恒星集団の中から「Tri-And」(地球から見てさんかく座・アンドロメダ座の方向に存在する集団という意味)と「A13」という2つのグループに着目し、米・ハワイのケック望遠鏡とチリにあるヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTを使った観測から両グループの星の化学組成を調べた。

「化学組成の分析は非常に有用な手法で、DNA鑑定のようなやり方でその星の出身を識別できます。天の川銀河の円盤やハロー、伴銀河、球状星団など、出身地である恒星グループごとに化学組成が大きく異なることがわかっていますから、星の組成を調べれば、どの集団に由来するのかすぐにわかります」(Bergemannさん)。

観測で得られたTri-AndとA13の星の化学組成を比較したところ、驚いたことに両者の組成はほぼ同じで、それぞれの集団内でもばらつきが少なく、さらに天の川銀河の円盤外縁部の星の組成ともぴったりと一致した。このことから、Tri-AndとA13の星々は銀河の円盤自身に起源を持つ可能性が最も高いことが明らかとなった。

「これらの恒星集団は、やや大きな矮小銀河が天の川銀河の円盤と衝突して通り抜けた際に天の川銀河の銀河面から飛び出した星々で構成されています。矮小銀河が通過することで天の川銀河の円盤に振動が生じ、円盤の上や下へ星が追い出されるのです。飛び出す方向は矮小銀河が突入した方向に応じて変わります」(米・カリフォルニア工科大学 Kate Van Nuys Pageさん)。

矮小銀河との潮汐相互作用で擾乱を受ける天の川銀河のシミュレーション
矮小銀河との潮汐相互作用で擾乱を受ける天の川銀河のシミュレーション。赤と黄色の点の集まりが、今回観測された恒星集団「Tri-And」と「A13」に属する星の位置を示す。2つの集団は銀河面からそれぞれ上下に約1万4000光年離れた距離に位置する。銀河中心からやや離れた黄色い印が太陽の位置(提供:T. MUELLER/C. LAPORTE/NASA/JPL-CALTECH)

「この銀河の振動は楽器に生じる音波になぞらえることができます。天の川銀河に生じるこうした『響き』に関する研究を私たちは『銀震学(galactoseismology)』と呼んでいます。このような現象があることは数十年前から理論的に予測されていました。今回、そうした振動が私たちの銀河の円盤でも起こっていた確固たる証拠がやっと得られました」(Bergemannさん)。

今回の発見は、天の川銀河の円盤とそのダイナミクスがこれまで考えられていたよりもかなり複雑なものであることを示している。「銀河円盤の星々が伴銀河の衝突によって追い出され、離れた場所まで移動する現象は、わりとよくあることなのかもしれません。他の銀河でも今回と同様の化学組成のパターンが見つかるかもしれませんし、もしそうなら、今回見つかったような過程は銀河では普遍的なものだという可能性があります」(米・ニューヨーク市立大学ラガーディアコミュニティ・カレッジ Allyson Sheffieldさん)。

研究チームでは次のステップとして、Tri-AndとA13に存在する他の恒星や、銀河円盤からさらに遠く離れた場所にある恒星集団のスペクトル分析を計画している。また、天の川銀河で星の追い出し現象が起こった時期を絞り込むために、恒星集団のメンバー星の質量や年齢を決定する研究も予定している。

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