AIで距離判定、天の川銀河のガス雲分布を描く

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星の材料となる星間分子ガス雲が約14万個同定され、天の川銀河の円盤内における分布が描き出された。ガス雲までの距離の判定をAIに委ねるというユニークな手法が用いられている。

【2023年2月3日 大阪公立大学

天の川銀河の中では、星や星の材料となる物質が円盤状に分布している。天の川銀河の中にいる私たちからは奥行きがわからないため、これらの星や星間物質は帯状に分布しているように見え、夜空の「天の川」として観察される。

国立天文台野辺山宇宙電波観測所では、この天の川に沿って、星の材料となる星間分子ガス雲(分子雲)などが発する電波を45m望遠鏡でとらえる大規模探査「FUGINプロジェクト」を実施している(参照:「人類史上最も広大で詳細な天の川の電波地図が完成」)。大阪公立大学の藤田真司さんたちの研究チームは、FUGINのデータから約14万個の分子雲を同定した。しかし、天の川銀河の中におけるこれら分子雲の分布を調べようとすると、前述のように奥行きがわかりにくいという問題に行き当たってしまう。

天の川銀河の分子雲の分布
(上)野辺山45m宇宙電波望遠鏡によって得られた天の川銀河(銀経10~50度)の分子雲の分布。一酸化炭素分子((赤)12CO、(緑)13CO、(青)C18O)の発する電波を基にした擬似カラー画像。(下)同領域をとらえた、NASAの天文衛星「スピッツァー」の赤外線(3波長)観測による擬似カラー画像(提供:NAOJ/NASA/JPL-Caltech)

それぞれの分子雲について、距離を求める上で唯一の手がかりとなるのが、分子雲が発する電磁波に働くドップラー効果だ。分子雲が私たちに近づいていれば電磁波の波長は短くなり、遠ざかっていれば長くなる。こうして得られる視線方向の速度と、天の川銀河の円盤内では内側も外側も同じ速度で回転している(つまり内側の方が早く一周する)という事実から、分子雲までの距離を計算できるはずだ。ところが、幾何学的に距離を計算しようとすると、同じ視線速度でも近い側と遠い側の2通りの解が出てくることがある。こうなると、近くの星や前景天体などを使って個別に近いか遠いかを判定するしかなくなり、10万個以上の分子雲を対象としてこれを実施するのは困難だ。

運動学的距離の導出の模式図
(左)スピッツァーによる赤外線観測から推定された天の川銀河の想像図(提供:NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt)、(右)距離の導出と、近い側と遠い側を特定できない問題の模式図(提供:名古屋市科学館)

この問題に対して藤田さんたちは、人工知能(AI)によって分子雲までの距離を判定できるのではないかと着想した。AIの中でも深層学習(ディープラーニング)は画像認識に有効な手法だ。研究チームはまず距離がわかっている分子雲数百個分の電波データをAIに学習させ、残る分子雲までの距離について、画像を元に2通りの距離のうち近い側か遠い側かを判定させた。

こうして14万個の分子雲までの距離がわかり、天の川銀河を外から見たときのように詳細な分子雲の分布地図が描き出された。分子雲までの距離が決まれば、その大きさや質量も求めることができる。分析の結果、おおまかながら1つの分子雲から誕生する恒星が100~10000個の範囲であることがわかった。

天の川銀河の星間分子ガスの分布
今回の研究で得られた天の川銀河の分子雲の分布(提供:NAOJ/NASA/JPL-Caltech)

大きな星や星団は、分子雲同士の衝突によって形成されると考えられているが、こうした衝突の頻度計算にも今回の研究結果が役立ちそうだ。藤田さんたちは今後、日本から観測できない南天のデータも取得して、同様の手法を用いて解析することで天の川銀河全体の鳥瞰図を完成させたいと考えている。

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