超大質量ブラックホールの傍らで生まれた幼い星々

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天の川銀河の中心の超大質量ブラックホールから3光年以内という極めて近い場所に、生まれたばかりの原始星が11個発見された。このような激しい環境でも質量の小さな星が誕生しうることを示唆する興味深い結果だ。

【2017年12月4日 NRAO

天の川銀河の中心部には太陽質量の約400万倍という超大質量ブラックホール、「いて座A*」が存在する。その周囲はブラックホールの強力な潮汐力や降着円盤からの強い紫外線、X線が存在する過酷な環境で、星の材料となる塵やガスの雲がすぐに四散してしまうため、新しい恒星、特に太陽のような軽い星はほとんど生まれないのではないかと考えられてきた。

米・ノースウェスタン大学のFarhad Yusef-Zadehさんたちの研究チームが、いて座A*の周囲をALMA望遠鏡で観測したところ、いて座A*から約3光年以内という極めて近い距離に小質量星が11個も生まれている、予想外だが確実な証拠が得られた。

発見された原始星(濃いガス雲が集まって若い星になる前段階の天体)の年齢は約6000歳ほどと推定されており、過酷な環境で発見された星形成現象としてはこれまでで最も若い段階をとらえたことになる。「驚くべき結果です。星が到底生まれそうもないような場所であっても、星形成の仕組みは非常に堅固に働くことを示しています」(Yusef-Zadehさん)。

天の川銀河中心部の原始星
ALMAでとらえた、天の川銀河の中心部にある原始星。矢印は原始星から放出される双極ジェットの方向を示す。中心の星印はいて座A*の位置(提供 : ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Yusef-Zadeh et al.; B. Saxton (NRAO/AUI/NSF))

原始星は、塵とガスからなる星間雲の中で物質の濃いところが自らの重力で収縮することによって誕生し、さらに周囲のガスを取り込んで成長していく。落ち込む物質の一部は原始星の表面に達せず、原始星の両極から一対の高速ジェットとなって外へと放出される。

原始星の模式図
原始星を取り巻く塵とガスの円盤の模式図。物質が原始星の周りの円盤に落ち込み(右)、一部は高速ジェットとなって両極から噴き出す(左)(提供 : Bill Saxton (NRAO/AUI/NSF))

しかし、超大質量ブラックホールの周辺では、原始星に物質が集まる過程はうまく働かない。原始星のそばで生まれた大質量星や超大質量ブラックホールからの強い光によって分子雲が吹き飛ばされ、物質が原始星に降り積もることができないからだ。

このような激しい環境で星形成が起こるためには、何か外部からの力がガス雲を圧縮することで、重力収縮が外乱に打ち勝つ必要がある。研究者たちは、銀河中心近くのガス雲は星間物質の中を高速で運動しているため、その運動が星形成を助けているのかもしれないと考えている。あるいは、ブラックホールから放出されるジェットが周囲のガス雲に突入して物質を圧縮し、爆発的な星形成を引き起こしているのかもしれない。「星形成にとって理想的な環境とはとても言えませんが、こういった環境でも星形成が可能になるような、いくつもの道筋を想像することはできます」(NRAO Al Woottenさん)

「次のステップはより高い分解能でこれらの天体を観測し、新しく生まれた星の周りに塵を含んだガス円盤が取り巻いているかどうかを確かめることです。もしガス円盤が見つかれば、天の川銀河の円盤部にある通常の原始星と同じように、やがては惑星が作られるでしょう」(オーストラリア・マッコーリー大学 Mark Wardleさん)

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