地球の周りのダークマターは、長いフィラメント状?
【2015年11月24日 NASA JPL】
ダークマター(暗黒物質)は宇宙を構成しているエネルギーと物質のうち27%を占める、目に見えない謎の物質だ。電磁波で検出することはできないが周囲に及ぼす重力的な影響を観測することで、その存在は確実視されている。
1990年代に行われた計算や過去10年間に実施されたシミュレーションによれば、ダークマターは、きめの細かい粒子の流れを作り、同じ速度で動き、銀河の周りを回っているという。その粒子の流れが地球のような惑星に接近した場合、どんなことが起こるのだろうか。その答えを出すために、NASA JPLのGary Prézeauさんはコンピュータ・シミュレーションを行った。
地球の周囲の、髪の毛のようなフィラメント状のダークマターの想像図。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech、以下同)
分析の結果、ダークマターの流れが惑星を通り抜けると粒子が集まり、超高密度のフィラメント状ダークマターとなることが示された。ダークマターの流れは、地球からまるで髪の毛が生えているかのような状態になるはずだという。
普通の(目に見える)物質の流れは、地球を通り抜けることはできず別の方向へそれる。しかし、ダークマターにとってみれば地球は障害物でもなんでもない。Prézeauさんのシミュレーションによると、地球の重力でダークマターの粒子の流れが集まり折り曲げられ、髪の毛状になるだろうというのだ。
フィラメント状のダークマターの、毛根のような部分と地球の想像図
ダークマターの毛には、ダークマターが最も集中している「毛根」と、毛の終わりである「毛先」がある。地球の核を通り抜けるダークマター粒子は、粒子の密度が平均の10億倍近くになる毛根に集中し、その位置は地表から約100万kmも離れている。毛先は地球の表面をかすめて通る粒子の流れによって作られ、その位置は毛根の2倍以上も遠いところだ。また、木星の核を通り抜けて作られる毛根の密度は元の1000億倍にもなるというシミュレーション結果も得られた。
「もしダークマターの毛根の場所をピンポイントで突き止められれば、そこへ探査機を送って、ダークマターに関するたくさんのデータが得られるでしょう」(Prézeauさん)。
Prézeauさんのシミュレーションによる発見は、ほかにもある。それは、地球内部における密度の変化、つまり核やマントル、地殻といった構造の変化が、髪の毛に反映されるということだ。理論的には、もしそういった髪の毛に反映された情報が得られれば、惑星内部の層や凍った衛星の地下海の深さについても地図が作れることになる。
興味深い研究成果ではあるが、今回の発見を補強しダークマターの性質を解き明かすには、更なる研究が必要とされている。
〈参照〉
- NASA JPL: Earth Might Have Hairy Dark Matter
- The Astrophysical Journal: Dense Dark Matter Hairs Spreading Out from Earth, Jupiter and Other Compact Bodies 論文
〈関連リンク〉
- NASA JPL: http://www.jpl.nasa.gov/
〈関連ニュース〉
- 2015/07/30 - 新理論が示す、ダークマターは湯川粒子に瓜二つ
- 2015/03/30 - 銀河団衝突でも、ダークマター同士はすり抜ける
- 2015/01/05 - 宇宙の歴史を左右する、ダークマターの分布解明のカギ
- 2013/01/30 - ダークマターの正体を説明する画期的理論
- 2012/01/23 - 暗黒物質の分布を詳細に測定 その正体と形状にせまる