太陽系外縁天体クワーオアーに環を発見
【2023年2月15日 ヨーロッパ宇宙機関】
クワーオアー((50000) Quaoar)は直径が1110kmと大きな「太陽系外縁天体(TNO)」の一つで、いずれ準惑星に分類される可能性がある候補天体でもある。また、ウェイウォット(Weywot)と名付けられた衛星を1個持つ。
クワーオアーの公転軌道は海王星より1.5倍も遠い。このように遠方にある小天体の性質を直接調べるのは難しいが、天体が恒星の手前を通過する掩蔽現象(恒星食)を運よく観測できると、対象星が減光する様子から、天体の正確な直径や大気の有無などを知ることができる。
クワーオアーのイラスト。太陽系外縁天体(TNO)としては第7位の大きさを持ち、衛星ウェイウォット(左)が見つかっている。今回、この天体が環を持つことが明らかになった(提供:ESA, CC BY-SA 3.0 IGO)
小天体による恒星食も、皆既日食と同じように、対象星と小天体、そして観測者が一直線上にあるときにだけ食が見られる。そのため、観測するには対象星の位置と小天体の運動がともに高い精度でわかっていなければならない。
近年、位置天文衛星「ガイア」によるきわめて高精度の恒星カタログが公開されたおかげで、クワーオアーのようなTNOによる恒星食を正確に予報できるようになってきた。そこで、仏・ソルボンヌ大学/パリ天文台のBruno SicardyさんたちはTNOによる恒星食の観測とデータ解析を行う「ラッキースター」プロジェクトを進めている。
2020年に同プロジェクトの研究者たちは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の系外惑星観測衛星「ケオプス」の科学チームと共同で、同年6月11日にクワーオアーがへび座の12等星を隠す恒星食をケオプスで観測することに成功した。宇宙からTNOによる恒星食を観測したのはこれが初めてだ。
「ケオプス」のイラスト。2019年12月に打ち上げられた。系外惑星が主星の手前を通過する「トランジット」を精密に観測し、惑星の直径や質量を求めるのが目的だ(提供:ESA / ATG medialab)
このケオプスによる観測と、2018年から2021年にかけて起こったクワーオアーによる恒星食の地上観測データを合わせて解析した結果、クワーオアー本体による減光の前後にも小さな減光が検出されていたことがわかり、クワーオアーの周囲に環が存在することが明らかになった。クワーオアーは小惑星カリクローと準惑星ハウメアに続き、太陽系小天体としては3例目の環を持つ天体となる。
今回発見されたクワーオアーの環の質量は土星の環よりずっと小さいが、興味深さという点では土星の環に引けを取らない。クワーオアーの環はその位置がクワーオアー本体から遠すぎるのだ。
一般に、自己重力でまとまっている天体Aが別の天体Bにある一定の距離まで近づくと、BがAを引き裂こうとする潮汐力がAの自己重力を上回ってAは破壊されてしまう。この限界距離を「ロッシュ限界」という。ロッシュ限界より内側では物質が重力で集まって衛星になることがないので、天体の環はロッシュ限界より内側にあるのが普通だ。土星・カリクロー・ハウメアの環は全てそうなっている。
しかし、クワーオアーの環の半径はクワーオアー本体の半径の約7.4倍もあり、ロッシュ限界より外側にあることがわかった。これまでの理論では、ロッシュ限界の外側に環の物質があっても、数十年で合体して小さな衛星になってしまうと考えられてきた。
「今回の観測結果から、濃い環はロッシュ限界の内側でしか生き残れないという伝統的な考え方は完全に見直しが必要になります」(伊・カタリナ宇宙物理観測所 Giovanni Brunoさん)。
今のところ、クワーオアーの環境がきわめて低温であるために環を形づくる氷の粒子同士が合体せず、環が保たれているといった可能性が示唆されているが、謎を解くにはさらに詳しい研究が必要だ。
〈参照〉
- ESA:ESA’s Cheops finds an unexpected ring around dwarf planet Quaoar
- Nature:A dense ring of the trans-Neptunian object Quaoar outside its Roche limit 論文
- Astronomy & Astrophysics:A stellar occultation by the transneptunian object (50000) Quaoar observed by CHEOPS 論文
〈関連リンク〉
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