宇宙の第一世代の恒星が残した痕跡、発見か

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131億光年の彼方に位置するクエーサーの元素を調べたところ、太陽の300倍近い質量を持つ宇宙第一世代の星が超新星爆発で作り出したと推定されるような特徴が見られた。

【2022年10月6日 ジェミニ天文台

ビッグバンから1億年後、宇宙の年齢が現在の1%にも満たないころに、最初の恒星が誕生したと考えられる。これら「第一世代星(種族IIIの星)」はほぼ水素とヘリウムだけでできているはずだが、その特徴を示す天体はいまだ見つかっていない。一方、第一世代星の質量は極めて大きく、すぐに超新星爆発を起こして重元素をまき散らしたと予想されている。

超新星爆発で合成された元素がまき散らされる様子の想像図
第一世代星の超新星爆発で合成された元素がまき散らされる様子の想像図(提供:NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine、以下同)

東京大学の吉井譲さんたちの研究チームは、遠方に位置する(初期宇宙の)天体のスペクトルを分析して元素の割合を調べる手法を開発し、第一世代星が残した元素を探した。この手法を、現在知られているクエーサーの中で2番目に遠い131億光年(赤方偏移7.54)の距離に位置するうしかい座の「ULAS J1342+0928」(以降ULAS J1342)に適用したところ、大質量の第一世代星の超新星爆発に由来すると考えられる比率の元素が見つかった。

クエーサーとその周囲の想像図
クエーサーとその周囲の想像図

クエーサーは銀河中心の超大質量ブラックホールが大量の物質を飲み込む過程で発生したエネルギーによって輝く天体だ。その光はクエーサーを取り巻く物質など様々な要因によって決まるが、吉井さんたちは他の要因を除外して元素の量を調べる手法を確立している。今回の観測では米・ハワイにある口径8.1mのジェミニ北望遠鏡でULAS J1342のスペクトルを調べ、鉄に対するマグネシウムの割合が極めて小さく太陽の10分の1しかないことを突き止めた。

このような組成は、太陽の150~300倍の質量を持つ第一世代星の超新星爆発でなければ説明できないと研究チームは考えている。これほど重い恒星は対不安定型超新星爆発を起こすと考えられているが、実際に観測されたことはない。

天の川銀河のハローの中に第一世代星が残した元素をたどる試みは以前から行われていて、少なくとも1つの星で不確定ながら同定された例はある。それに対して吉井さんたちは、今回の発見は対不安定型超新星の最も明確なサインと考えている。「太陽の約300倍の質量を持つ恒星の対不安定型超新星爆発で供給されるマグネシウムと鉄の割合が、私たちがこのクエーサーで得た低い値と一致することに、喜ぶと同時にいくらか驚いています」(吉井さん)。

本当に第一世代星の痕跡を見つけたのであれば、宇宙における物質がどのようにして、私たちを含む現在の形へ進化したのかを理解する上で役立つ成果だ。ただし、今回の解釈を厳密に検証するために、他の天体が同様の特徴を持つかどうかを確認するために観測を重ねる必要がある。

大質量の第一世代星は絶えて久しいが、それらが残した化学的痕跡は長く残るし、私たちにとって比較的身近なところに今も残されている可能性がある。「私たちが何を探せばいいのか、道筋は示されました。宇宙の極初期の時代に、今私たちがいる付近でも(第一世代星の超新星爆発が)起こったはずなのですが、そうであれば証拠が見つかるはずです」(米・ノートルダム大学 Timothy Beersさん)。

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