トモエゴゼンが赤色矮星の短時間フレアを多数検出

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東京大学木曽観測所の「トモエゴゼン」の観測データから、赤色矮星の短時間フレアが22件検出された。活動的な赤色矮星ではこのようなフレアがほぼ毎日発生しているという。

【2022年8月12日 東京大学

恒星の表面では「フレア」という爆発現象がときおり起こる。太陽で発生するフレアでは高エネルギー粒子が大量に放出され、地球に届くと通信障害や人工衛星の故障を引き起こす。

フレアがいつ、どのくらいの強さで発生するかを予想するのは難しく、恒星でフレアが発生する瞬間をとらえた観測はほとんどなかった。しかし、近年では系外惑星を探索する衛星「ケプラー」や「TESS」がたくさんの恒星の明るさを常時監視するようになったおかげで、副産物として多くの恒星フレアが検出されるようになっている。

2021年には太陽系に最も近い恒星として有名なケンタウルス座の「プロキシマケンタウリ」で、紫外線や電波が数秒間だけ急増光する「短時間フレア」が検出された(参照:「プロキシマケンタウリの巨大フレアを多波長で観測」)。プロキシマケンタウリは太陽より低温の赤色矮星で、その周りを公転する惑星が2個発見されており、そのうちの一つはハビタブルゾーン(液体の水が惑星表面に存在できる領域)に位置している。そのため、こうした赤色矮星のフレアの仕組みやハビタブル天体に与える影響を解明するのは、地球外生命の探索にとっても重要だ。

短時間フレアの想像図
赤色矮星の表面で発生した短時間フレアの想像図(提供:東京大学木曽観測所、以下同)

だが、系外惑星探査などのサーベイ観測では数十秒~数十分おきのデータしか得られないため、数秒~数十秒というきわめて短い増光現象である恒星フレアの検出は依然として難しかった。そのため、短時間フレアがよくある現象なのか、どれくらいのエネルギーを放出するのか、といった基本的な性質もよくわかっていなかった。

中国・上海交通大学李政道研究所の逢澤正嵩さんたちの研究チームは、東京大学木曽観測所の超広視野高速カメラ「トモエゴゼン」を使い、赤色矮星の短時間フレア探索を行った。秒単位で広視野の動画を撮像できるトモエゴゼンは一度に数百個の赤色矮星を観測できるので、短時間フレアを効率的に探索できる。

逢澤さんたちは2019~2020年にトモエゴゼンが撮影した観測データのうち40時間分のデータを解析し、約5700個の赤色矮星について明るさの短時間変動を調べた。その結果、継続時間の短い強力なフレアを22個検出することに成功した。

22件の恒星フレア
トモエゴゼンで検出された22件の恒星フレアの光度変化。横軸は時間、縦軸は相対的な明るさの変動を示す

今回検出されたフレアは、わずか数秒から数十秒のうちに明るさが通常時の数十%から最大で20倍も増光するものだ。これは過去に検出された赤色矮星フレアの中でも最も短時間の増光現象で、非常に強力な磁場によってフレアのエネルギーが生み出されていることが示唆される。

赤色矮星フレアの例
検出された赤色矮星フレアの一例。約10秒間に星の明るさが2倍程度にまで増光している。上列は各時刻での星の画像

また、研究チームは中国・河北省興隆観測所の多天体分光望遠鏡「LAMOST」のデータから、今回フレアが検出された赤色矮星のスペクトルなども調べた。その結果、11天体中10天体のスペクトルに水素のHα輝線が見られることを確認した。Hα輝線が強い星ほど磁場の活動性も強いことが知られているため、これは磁場の活動が活発な恒星で短時間フレアが発生しやすいことを示唆する結果だ。逢澤さんたちの見積もりでは、磁場が活動的な赤色矮星ではおおよそ1日に1回の頻度で短時間フレアが発生する計算になるという。

さらに、今回のトモエゴゼンによる観測で、短時間フレアでは減光にかかる時間が増光にかかる時間より最大で約10倍長いことがわかった。このような光度変化の原因として、恒星表面で磁力線がつなぎ変わる「磁気リコネクション」によって大量のエネルギーが解放され、恒星大気が強く加熱されて光が漏れ出ると考えると、観測と矛盾しないことも示された。

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