星団から星を放り出すブラックホール

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球状星団内のブラックホールが星を放り出して星団が崩壊するという数値計算が発表された。銀河のハローに存在する帯状の星の分布はこうしてできたのかもしれない。

【2021年7月13日 バルセロナ大学

「パロマー5」はへび座の方向約6万5000光年の距離にある球状星団で、私たちの天の川銀河を取り巻く「ハロー」領域にある。ハローには約150個の球状星団があり、天の川銀河の周りを回っている。パロマー5の推定年齢は100億年以上で、他の球状星団と同様に、天の川銀河が形成される非常に早い段階で誕生した天体だ。

パロマー5
位置天文衛星「ガイア」の観測で得られた天の川銀河の星の分布。銀河円盤を横から見た図になっていて、円盤の上下にある星の少ない領域がハロー。銀河円盤の上にある小さな領域は、天の川銀河をより暗い天体まで網羅した「DESIレガシー撮像サーベイ」のデータを示したもので、球状星団「パロマー5」とその左右に伸びるストリームがとらえられている。画像クリックで表示拡大(提供:M. Gieles et al./Gaia eDR3/DESI DECaLS)

パロマー5には他の球状星団にない特徴が2つある。一つは星の密度がきわめて低い「すかすか」の星団だという点だ。パロマー5の質量は普通の球状星団の1/10ほどしかないが、直径は普通の球状星団の約5倍もあり、星団がばらばらに分解する最終段階にあると考えられている。

もう一つの特徴は、大規模なストリーム(帯状に分布した星の流れ)が星団に付随している点だ。パロマー5のストリームの長さは天球上で20度にも達する。

こうしたストリームは、星団や矮小銀河が母銀河から潮汐力を受けて星々がはぎ取られることで作られる。天の川銀河のハローでは、30個ほどの細いストリームが近年発見されている。スペイン・バルセロナ大学のMark Gielesさんたちの研究チームは、このストリームの形成過程を数値シミュレーションで詳しく調べた。

「これらのストリームがどう形成されるのかはよくわかっていませんが、一つの可能性として、破壊された星団の名残だという説があります。しかし、最近見つかっているストリームには星団が付随しているものが一つもないので、この説が本当かどうかはわかりません。パロマー5は星団にストリームが付随している唯一の例で、ストリームの形成を理解するためのロゼッタストーンとなる天体です」(Gielesさん)。

研究チームでは星団の初期条件を様々に変えて、星団が誕生してから完全に崩壊するまでの星々の軌道と個々の星の進化をシミュレーションし、パロマー5の星団とストリームの観測データに合う条件を探した。その結果、星団に含まれている恒星質量ブラックホールが、パロマー5のような構造を作る鍵であることが明らかになった。

研究結果によると、パロマー5はもともとはブラックホールの総質量が星団全体の数%ほどを占める状態で誕生したものの、ブラックホールが星を効率的に星団の外に放り出すことで、次第に星団から星々が失われてブラックホールの比率が高まっていくという。これによって星団は力学的に「膨張」し、星の脱出がいっそう加速されてストリームができる。今から約10億年後には星団は完全にばらばらになり、ブラックホールだけの集団になるという。

シミュレーション結果を現在のパロマー5に当てはめると、この星団の中心部には100個以上の恒星質量ブラックホールが存在すると推定される。「ブラックホールの数は、星団の星の数から予想される値より約3倍も多く、星団の総質量の約20%をブラックホールが占めていることになります」(Gielesさん)。

今回の発見は、ハローの中で球状星団がどうやって形成されるかという問題や、ハローの星々の誕生時の質量分布、大質量星の進化などを理解する上で非常に重要だ。また、こうした星団の中でブラックホール同士が合体すれば重力波が放出されるはずだが、今回の研究結果は、重力波源となるブラックホールの質量や重力波の検出頻度などについても重要な情報をもたらすかもしれない。

今回のシミュレーションの動画。黄色の点が恒星、黒い円がブラックホール(提供:Mark Gieles)

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