ブラックホールの「食事」で起こる、活動銀河の規則正しい増光
【2021年1月19日 NASA】
2014年11月14日、超新星全天自動サーベイ「All Sky Automated Survey for SuperNovae(ASAS-SN)」が、がか座の方向約5億7000万光年の距離に位置する銀河ESO 253-3で発生した急増光現象(ASASSN-14ko)をとらえた。ESO 253-3は中心核が極めて明るい活動銀河であり、増光もその中心部付近で起こっている。
ヨーロッパ南天天文台VLT望遠鏡の分光装置MUSEで観測された銀河「ESO 253-3」(提供:Michael Tucker (University of Hawaiʻi) and the AMUSING survey)
当初、ASASSN-14koは超新星爆発であろうと結論づけられたが、ASAS-SNによる活動銀河の長期観測データを調べていた米・ハワイ大学のAnna Payneさんは最近になって、ASASSN-14koが一度きりの現象ではなかったことに気がついた。ESO 253-3は6年間で17回、約114日の間隔で繰り返し増光していたのだ。その都度、銀河の中心部は約5日で明るさのピークに達し、徐々に暗くなっていた。
2014年から2020年までのASASSN-14koの光度曲線(出典:Payne et al. 2021)
ASASSN-14koが2020年5月17日にも増光すると予測したPayneさんたちは、観測衛星や地上の様々な施設との合同観測を行い、見事に成功させた。続く9月7日と12月20日の増光も予測を的中させ観測している。
Payneさんたちは系外惑星探査衛星「TESS」の観測データも利用した。TESSの主目的は恒星の明るさの変化を観測し惑星の存在を検出することで、そのために一定の領域を1か月にわたり狙い続けて30分おきに撮影し続けている。そのおかげで、2018年11月7日に始まったASASSN-14koの増光の経過を詳細に追うことができた。
活動銀河において、これだけ規則正しく変動が生じる例は類を見ないという。そして予測しやすいおかげで、ASASSN-14koは詳細に観測されることになった。では、その周期的な増光はなぜ生じるのだろうか。
一番可能性が高いとされるのは、恒星の部分的潮汐崩壊現象である。潮汐崩壊現象とは、不幸にしてブラックホールに近づきすぎた恒星が引き裂かれてしまう現象のことだ。この際に引きちぎられた物質がブラックホールを取り巻く降着円盤に衝突すると増光が発生する。ESO 253-3の中心には太陽質量の約7800万倍の超大質量ブラックホールがあり、約114日周期の楕円軌道でその周りを回る恒星があると推測される。恒星が超大質量ブラックホールに近づくたびに一定量のガスが引きちぎられ、ブラックホールの降着円盤に衝突しているというわけだ。
計算によれば、恒星が毎回木星3個分のガスを引きちぎられていれば、観測されているとおりの増光が発生する。一方で恒星の元の質量は不明なので、この現象がいつまで続くかはわからない。研究チームは今後もASASSN-14koの発生予想日にあわせて観測を行うほか、2020年12月20日の増光をとらえたTESSのデータも分析する予定である。現在TESSは個々の領域を10分おきに撮影しているため、ASASSN-14koをさらに高い時間分解能でとらえていると期待される。
ASASSN-14koの観測・研究成果の紹介動画「Swift, TESS Catch Eruptions From an Active Galaxy」(提供:NASA’s Goddard Space Flight Center)
- NASA:NASA Missions Help Investigate an ‘Old Faithful’ Active Galaxy
- The Astrophysical Journal:ASASSN-14ko is a Periodic Nuclear Transient in ESO 253-G003 論文
〈関連リンク〉
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