近赤外線太陽全面像で見たインターネットワーク磁場

このエントリーをはてなブックマークに追加
国立天文台の太陽フレア望遠鏡による偏光観測データの分析から、太陽表面の超粒状斑の内部に存在するインターネットワーク磁場の特徴が明らかにされた。

【2020年12月2日 国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

太陽の表面における強い磁場は、黒点などの活動領域に加えて、約3万kmの大きさにまで広がる「超粒状斑ネットワーク」という構造の境界にも存在している。さらに、その超粒状斑の内側はネットワークをつなぐ弱く小さな磁気要素、「インターネットワーク磁場」で満たされていることが知られている。ただし、その特徴については、可視光線と近赤外線で観測結果が異なるなど、議論が続いている。

国立天文台太陽観測科学プロジェクトの花岡庸一郎さんと桜井隆さんは、国立天文台の太陽フレア望遠鏡の定常観測で2010~2019年に得られた太陽全面の偏光観測データを利用して、インターネットワーク磁場を太陽全面像で広くとらえるという手法による研究を行った。これまで高空間分解能で細かく見ることにより観測されてきたインターネットワーク磁場を、異なる視点のアプローチで調べたものだ。

太陽
視線方向の磁場を表すFe I吸収線の円偏光の太陽全面像(2014年5月10日)。白と黒がそれぞれN極とS極に対応、左半分には1.1kG(キロガウス)に相当する比較的強い磁場信号が表示され、黒点周辺や超粒状斑境界に集中している様子がわかる。右半分には400G(ガウス)に相当する弱い磁場信号が表示され、小さなN極・S極の成分として、インターネットワーク磁場が太陽全面を覆い尽くしていることがわかる(提供:国立天文台太陽観測科学プロジェクト、以下同)

近赤外線波長の鉄(Fe I)の吸収線の偏光観測で太陽全面を見ると、中心付近よりも周辺部分が強くざらざらしていることがわかる。これは、太陽全面を覆いつくすインターネットワーク磁場では太陽表面に対して水平な成分が多いことを示す結果だ。太陽表面に垂直な磁場を持つ超粒状斑境界とは対照的な特徴である。

これまでにもインターネットワーク磁場には水平な成分が多いという結果が発表されていたものの、異論もあった。今回の結果は、従来とは異なった視点からの解析でも、やはり水平成分が多いことを示すものとなる。

また、2010~2019年は太陽活動の極小期も極大期も含まれているが、その間にインターネットワーク磁場の性質に変動は見られず、安定的に存在していたこともわかった。

磁場構造の模式図
磁場構造の模式図。超粒状斑境界の強い磁場は太陽表面に垂直に伸び、インターネットワーク磁場は太陽表面に水平な方向であちこちを向いている

フレアのような激しい現象を起こす磁場とは別に、太陽には全面を覆う弱い磁場も常に存在している。このようなインターネットワーク磁場を解明することは、太陽だけでなく恒星一般の磁場がどのように生まれ変転していくのかを理解する基礎となるものである。