地球の水は9割以上コアに取り込まれた

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地球の形成過程でマントルと金属コアが分離したときの超高温高圧を実験で再現したところ、当時存在した水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことを示唆する結果が得られた。

【2021年5月18日 東京大学大学院理学系研究科・理学部

地球の中心部(コア)は主に鉄でできているが、中心部の密度は純粋な鉄よりも低い。この「密度欠損」は硫黄、ケイ素など鉄より軽い元素がコアに取り込まれたことで生じたと考えられており、近年では水素が注目されている。誕生直後の地球では小天体の衝突によって大量の水がマグマの成分に取り込まれたが、表面が冷えたときに海を形成したのはそのうちごく一部で、大半は内部に残り、水素がコアに吸収されたという仮説が提唱されている。

地球内部
地球内部のイラスト。コア(中心核)は固体金属でできた内核と液体金属でできた外核の2層構造で、さらに外側を岩石でできたマントルと地殻が取り囲んでいる。地球形成時に地球のマントルが大規模に溶融し、マグマオーシャンに覆われていた中を金属鉄が中心部へと落下し、コアが形成されたとされる(提供:東京大学大学院理学系研究科・理学部リリース、以下同)

鉄が高圧下で水素を取り込みやすいことはわかっているが、地球内部でコア(金属)とマントル(マグマ)が分離したとされる摂氏3500度・50万気圧程度の高温高圧条件下で水素がどう振る舞うかは不明だった。環境は再現できても、その状態で水素を計測するのが難しいからだ。金属鉄に取り込まれた水素は、常温常圧に戻せばほぼ全て分解してしまう。マグマに取り込まれた水素は圧力を下げても残るが、こちらはそれでも水素の量を分析するのが難しい。高温高圧をかけられるような試料は約10μm(0.01mm)と非常に薄いことも測定を困難にしている。

東京工業大学地球生命研究所の田川翔さんたちの研究チームは、「レーザー加熱式ダイヤモンドセル」と呼ばれる装置を用いて、マグマとコアを模した試料を30~50万気圧・摂氏2800~4300度の高圧高温状態にし、水素がどのように分配されるかを実験した。金属鉄中の水素はその場で大型放射光施設「SPring-8」によるX線回折測定で調べ、マグマ中の水の量は北海道大学の同位体顕微鏡による微小領域化学分析で決定した。

シリケイト中の水量の分布
(左)実験後の試料断面の光学顕微鏡写真、(中央)元素の分布のデータ、(右)シリケイト部分(超高圧高温下でマグマだった部分)の水の分布図。シリケイト部分の分析からマグマオーシャン側に分配されていた水素量がわかった

実際にマントルから噴出したマグマの分析から、現在のマントル全体に含まれている水は海水の総量とほぼ同じだとされる。表面まで溶岩だった初期地球では、合わせて海水の2倍の水がマントルに含まれていた計算になる。これは重量に換算するとマグマの約0.07%が水ということになり、今回の実験から導き出された分配比で計算すると、金属コアには0.3~0.6%の水素が取り込まれることが示された。

実験結果を現在の地球に適用すると、海水の30~70倍に相当する水素がコアに存在していることになる。また、外核部分では密度欠損の3~6割を水素で説明できるので、水素こそがコアにおける主な軽元素だといえる。今後は地球の形成プロセスを研究する上でも、水素の分配を計算に入れることでより詳細なシナリオを描けそうだ。

さらに今回の実験からは、質量が地球の10%しかない惑星(たとえば火星)でも水素の大部分がコアに分配されることが示唆されている。太陽系外惑星における海の存在についてはまだ推測の域を出ないが、地球と表層環境が似ている岩石惑星は多いのかもしれない。

シミュレーション結果
様々な温度と圧力で、水素が核とマントルにどのように分配されるかを再現したシミュレーション結果。最終的にマグマオーシャンに690ppm(地球のマントルの水+海水の合計の最小値)の水が残るように計算を行っている。地球の場合、海水のおよそ30~70倍もの水素が核に存在していること、地球質量の10%の惑星(火星など)でも多くの水が中心核に分配されることが示されている

今回の研究から、現在の海水の量やマントル中の水の量を説明するには、現在の海水のおよそ50倍に匹敵する量の水が原始地球に存在していたこと、この水のほとんどがコアに水素として取り込まれ、地球の表層に海と陸が共存することが示された。今後、地球の起源の理解が進むことが期待される。