火星の北極の地下に大量の氷を発見
【2019年5月29日 テキサス大学】
米・テキサス大学地球物理学研究所のStefano Nerozziさんと米・アリゾナ大学月惑星研究所のJack Holtさんは、NASAのマーズ・リコナサンス・オービター(MRO)に搭載されている浅部レーダー(SHARAD)で観測されたデータから、火星の北極の地下に広がる氷の層を発見した。深さは地下約1500mで、砂と氷が交互に堆積した互層になっており、場所によっては水分を90%も含んでいる。この氷の層がすべて融けると火星の全球が深さ1.5mの水で覆われるほどの量になる。
「火星の北極の地下にこれほど大量の水の氷が見つかるとは予想していませんでした。南北の極冠に次ぐ、火星で3番目に豊富な水源と考えられます」(Nerozziさん)。
Nerozziさんたちは、太古の火星で氷河期に極域に堆積した氷がこの層の元になったと考えている。火星の氷河期は火星の公転軌道や自転軸の傾きが周期的に変動することで生じる。火星の自転軸の傾きは、約5万年の周期で大きくなったり小さくなったりする。自転軸が立つと赤道での日射が増え、極域の日射は減って極冠が成長する。自転軸の傾きが大きくなると逆に極冠は小さくなり、ときには完全に消滅することもあったはずだ。
温暖な時代には、極冠は砂で覆われる。この砂の層は、氷が日射で蒸発するのを防ぐ働きをする。これまで、温暖な時代には極冠は消滅したと考えられてきたが、今回の研究で、かなり大量の氷床の名残が地下で生き残っており、氷と砂の互層の中に閉じ込められていることが明らかとなった。
Holtさんは、今回の研究によって、極域と中緯度地域の間に水の氷のやりとりがあるという重要な理解がもたらされたと語る。「極の地下の堆積物に閉じ込められている水の総量は、驚くべきことに火星の低緯度地域に存在する氷河や地下氷床の量とほぼ同じで、できた年代も同じです」(Holtさん)。
氷の層は木の年輪と同じように、火星の過去の気候を記録している。氷の層の厚さや面積、分布範囲、組成などを調べることで、火星の昔の気候が生命の存在に適していたかどうかを知ることができる。
「過去の火星全体にどのくらいの水が存在していたか、またどのくらいの水が極域に閉じ込められているかを知ることは、火星の表面で生命が液体の水を利用できるかどうかという点で重要です。仮に生命が生きられる条件がすべて揃ったとしても、水の大半が極域に閉じ込められているとすると、赤道付近の地域で十分な量の液体の水を得るのは難しくなります」(Nerozziさん)。
〈参照〉
- UT NEWS:Massive Martian Ice Discovery Opens a Window into Red Planet’s History
- Geophysical Research Letters:Buried ice and sand caps at the north pole of Mars: revealing a record of climate change in the cavi unit with SHARAD 論文
〈関連リンク〉
- Mars Reconnaissance Orbiter
- SHARAD:
- アストロアーツ:
- 天体写真ギャラリー:2019年 火星
- 星ナビ2018年7月号 火星探査の歴史を大特集
- 【特集】火星大接近(2018年7月31日 地球最接近)
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