隕石から新鉱物「ポワリエライト」を発見
【2021年2月1日 海洋研究開発機構】
地球の地殻やマントルには「かんらん石」という鉱物(大きく美しい結晶はペリドットという宝石として知られる)が豊富に含まれている。かんらん石は高温高圧の環境で形成されると考えられているが、地球の地下数百kmもの深さから直接物質を採取して研究することは不可能だ。一方、かんらん石は隕石からも発見されている。多くの隕石は小惑星帯を起源とすると考えられているが、それらの相互の高速衝突によって瞬間的に地球深部に相当する高温高圧状態となるからだ。
海洋研究開発機構の富岡尚敬さんたちの研究グループは、1879年にオーストラリアに落下したテンハム隕石の分析から、「イプシロン相」というかんらん石の新しい高圧相を世界で初めて発見している。富岡さんたちは今回、1930年にアメリカに落下したマイアミ隕石と1986年に中国に落下した随州隕石についても電子顕微鏡による観察やX線構造解析等を実施した。
テンハム隕石の衝撃溶融脈の光学顕微鏡写真。脈状組織(衝撃溶融脈)は、隕石がかつて強い衝撃変成にさらされ、小惑星表層のコンドライトが超高圧下で溶融したことを示す(提供:プレスリリースより)
その結果、これらの隕石にもイプシロン相の存在を示す特徴が見られることが確かめられた。さらに、イプシロン相の結晶構造は高圧相のかんらん石と大きな共通点があるにもかかわらず、密度はむしろ低圧相のかんらん石に近いという特徴が明らかとなった。
研究グループはイプシロン相を新鉱物「ポワリエライト(poirierite)」と命名し、国際鉱物学連合に正式に承認された。イプシロン相を理論的に予測していた仏・パリ大学のJean-Paul Poirierさんに因む名前だ。
ポワリエライト形成の温度圧力やメカニズムはまだわかっていない。今後は合成試料も含めて分析を進め、ポワリエライトの形成条件を含めたかんらん石組成の鉱物間の構造変化プロセスの解明を目指すという。こうした研究により、小惑星を起源とする隕石の衝撃変成に関する理解が深まると期待される。また、今回の研究技術を探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料の分析に応用することで、リュウグウの表層環境の変化についても知見が得られるかもしれない。
〈参照〉
- 海洋研究開発機構:宇宙から飛来した隕石から新鉱物ポワリエライトを発見~小天体の衝突過程、地球内部の変化等を探る重要な鍵に~
- Communications Earth & Environment:Poirierite, a dense metastable polymorph of magnesium iron silicate in shocked meteorites 論文
〈関連リンク〉
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