火星で観測史上最大の天体衝突

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火星探査機「インサイト」が2021年12月24日に、天体の衝突に伴う地震を検出した。このとき作られたクレーターは、形成の瞬間を人類が記録できたものとしては太陽系で最大のものだと考えられる。

【2022年11月4日 NASA JPL

NASAの火星探査機「インサイト」は2018年11月に赤い大地へ降り立って以来、2022年10月27日時点で1318回の火震(火星における地震)を検出している。その中には隕石の衝突に伴う火震もあったものの、マグニチュード2以下と弱いものだった。だが2021年12月24日記録された火震はマグニチュード4という、インサイトがこれまでとらえたものとしては最大規模だった。

この大きな火震が隕石の衝突によるものだったことは、NASAの火星探査機「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」が上空からとらえた画像などから今年2月11日に判明している。衝突で塵が飛び散る様子が検出されたほか、震源地と推定される付近に大きなクレーターが形成されていた。

クレーターができる前と後の画像
2021年12月24日の隕石衝突でクレーターができる前(左)と後(右)の白黒画像。MROのコンテクストカメラが撮影(提供:NASA/JPL-Caltech/MSSS)

隕石の衝突でできたクレーター
隕石衝突でできた直径150mのクレーター。周囲に白い氷が飛び散っている。MROの高解像度カメラが撮影(提供:NASA/JPL-Caltech/ University of Arizona)

衝突した隕石の直径は5~12mと推定されている。地球の大気圏であれば燃え尽きるほど小さいが、気圧が地球の1%しかない火星の大気は通り抜けて地表に達し、幅約150m・深さ約21mのクレーターを形成した。衝突の瞬間を人類がとらえて記録することのできたクレーターとしては、これ以上大きなものは太陽系に存在しない。また衝突で噴出した物質の一部は、37km先にまで吹き飛ばされていたこともわかった。

画期的なのは衝突の大きさだけではない。クレーターの周囲には地下に埋まっていた氷と思われる白い物質が散らばっていたのだ。衝突地点はアマゾニス平原(Amazonis Planitia)と呼ばれる領域の北緯35度付近だった。極冠から遠く、火星の赤道にこれほど近い領域で、地下に氷が見つかったのは初めてのことである。この辺りは火星の中では比較的温暖で宇宙飛行士にとっても活動しやすい場所なので、必要不可欠な資源である水も見つかったというのは福音と言えるだろう。

インサイトのソーラーパネルには塵が降り積もり続けており、ここ数か月間で電力が大幅に低下している。今後6週間以内に装置への給電は断たれる見込みで、そのときにインサイトは役目を終える。

衝突でできたクレーターのアニメーション動画「Flyover of Mars Impact Using HiRISE Data (Animation)」(提供:JPLraw)

隕石衝突時にインサイトが記録した震動を音声に変換し、波形と共に再生する動画(提供:JPLraw)