誕生から15億年後の宇宙に回転円盤銀河を発見

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アルマ望遠鏡による観測で、宇宙誕生からわずか15億年後の時代に、回転運動をする円盤銀河が既に存在したことが明らかになった。

【2020年5月28日 アルマ望遠鏡

現在の宇宙に存在する銀河は、約138億年前に宇宙がビッグバンで誕生してから数億年ほど経ったころに、ダークマターの濃い部分が自らの重力で集まって塊を作り、これを構造の「種」として生まれたと考えられている。有力なシナリオでは、ダークマターと普通の物質(水素やヘリウムなど)からなる小さな塊同士が合体を繰り返して銀河サイズへと成長したとされるが、塊に含まれるガスは合体のたびに衝突して激しく加熱されるため、こうして成長した「銀河のもと」の塊には秩序だった回転運動などはなかったと考えられる。

そのため、この「銀河のもと」から私たちの存在する天の川銀河のような円盤銀河ができ上がるためには、長い時間をかけて塊が冷えて平たくつぶれ、秩序だった回転運動を持つ円盤へと変わる必要がある。典型的なモデルでは、銀河サイズの塊が冷えて円盤銀河になるまでには60億年ほどかかるとされているが、もっとずっと早く円盤銀河ができるという理論もあり、銀河の形成プロセスについてはいまだ不明な点が非常に多い。

2017年、独・マックスプランク天文学研究所のMarcel Neelemanさんたちの研究チームは、きわめて遠い距離にある明るい天体「クエーサー」の手前に銀河があり、この銀河のハローによってクエーサーの光に吸収線が生じている例を2例発見した。そこで、このとき見つかった銀河の一つ「DLA0817g」(別名 ALMA J081740.86+135138.2)について、アルマ望遠鏡で詳細な観測を行った。

その結果、DLA0817gは太陽の約720億倍もの質量を持つ分子ガスを含む円盤銀河であり、銀河の回転速度は秒速272kmに達することが明らかになった。天の川銀河は質量が約2000億太陽質量で、回転速度が秒速約220kmなので、DLA0817gは天の川銀河と比べてもさほど見劣りのしない、一人前の円盤銀河のように見える。

回転円盤銀河DLA0817gの電波画像
アルマ望遠鏡が観測した回転円盤銀河DLA0817g。塵の分布を黄色、炭素イオンガスの分布を濃いピンク色で表す(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

だが、DLA0817gは地球から123億9000万光年というきわめて遠い距離(赤方偏移 z=4.26)にあり、今までに見つかっている回転円盤銀河の中では最も遠い。言い換えれば、ビッグバンからわずか15億年しか経っていない時代の宇宙に、すでに天の川銀河と同じような回転運動をする整った円盤銀河が存在することになる。これほど早い時代に円盤銀河が存在するという事実は、従来の銀河形成の理論では説明することが難しい。

「これまでの観測でも、ガスを豊富に含む若い円盤銀河が回転していることを示す手がかりは得られていましたが、アルマ望遠鏡の観測によって、宇宙誕生後15億年に満たない時代の銀河が確かに回転しているというはっきりとした証拠を得ることができました」(Neelemanさん)。

研究チームでは、宇宙マイクロ波背景放射に生じる「ザックス・ヴォルフェ効果」の予言などで知られる、2014年に死去したアメリカの宇宙物理学者、故アーサー・ヴォルフェ(Arthur Michael Wolfe)さんの名をとって、この銀河を「ヴォルフェ円盤」と呼んでいる。

ヴォルフェ円盤の想像図
ヴォルフェ円盤 (DLA0817g) の想像図。左上に描かれている遠方のクエーサーの光を観測していてこの銀河を発見した(提供:NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

研究チームでは、ヴォルフェ円盤は冷たいガスが安定的に供給されることで、内部の運動が乱雑になることなく成長してきたのだろうと考えている。「しかし、秩序だった回転を保ちながら、どのようにしてこれほどの質量を持つ円盤に成長してきたのかは、謎のままです」(米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校 J. Xavier Prochaskaさん)。

さらに、アメリカ国立電波天文台カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)とハッブル宇宙望遠鏡(HST)での観測から、ヴォルフェ円盤の星形成率は天の川銀河の約10倍も高いこともわかった。

ヴォルフェ円盤の電波画像
アルマ望遠鏡、VLA、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影したヴォルフェ円盤。(左)緑色がVLAでとらえた分子ガスの分布を表し、青色がハッブル宇宙望遠鏡で撮影した恒星の分布を表す。(右)濃いピンクと黄色はアルマ望遠鏡でとらえた炭素イオンと塵の分布を表す。青色は左と同じ(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble)

銀河形成の謎を解くためには、たくさんの遠方銀河の性質を詳しく調べる必要がある。そのために、遠方銀河の光を直接とらえる観測がこれまでに数多く行われてきた。しかし、直接観測で見つかる遠方銀河はきわめて明るいものに限られる。つまり、この方法だと非常に明るいごく一部の特殊な銀河ばかりをピックアップしてしまう可能性がある。

一方、今回のようにより遠くのクエーサーの吸収線を使って間接的に銀河を探すという方法なら、見つかる銀河のタイプには偏りが生まれないはずだ。つまり、初期宇宙に存在する「ごく普通の銀河」を発見できる可能性が高いので、いまだわかっていない点も多い銀河形成の歴史を解き明かす上で、この手法が大いに役立つことが期待できる。

「整った回転を持つ銀河はこれまで私たちが考えていたよりも珍しいものではなく、初期宇宙にももっとたくさんの同種の天体が潜んでいると考えられます」(Neelemanさん)。