小型望遠鏡で発見、約50億km彼方にある直径3km弱の小天体

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口径28cmの小型望遠鏡を用いた観測により、地球から約50億km彼方のエッジワース・カイパーベルトに半径1.3kmほどの小天体が見つかった。同領域内にこれほど小さい天体が発見されたのは初めてのことだ。

【2019年1月30日 京都大学神戸大学東北大学国立天文台京都産業大学JAXA宇宙科学研究所

太陽系の惑星は約46億年前に、半径1~10km程度の微惑星が衝突と合体を繰り返して作られ、大きくなったと考えられている。その微惑星の一部は今でも、海王星より遠方の「エッジワース・カイパーベルト」(以下、カイパーベルト)という領域に生き残っていると予見されてきた。

カイパーベルトには冥王星をはじめ1000kmサイズの天体がいくつも見つかっており、今年初めに探査機「ニューホライズンズ」が接近探査を行った長径30kmほどの小惑星2014 MU69(愛称「ウルティマ・トゥーレ」)のような小天体も数多く発見されている。しかし、これまでに1~10kmサイズのカイパーベルト天体の発見例はなかった。見かけの明るさがあまりに暗く、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を用いても直接観測は不可能だからだ。

京都大学(元国立天文台研究員)の有松亘さんを中心とする研究グループは、口径28cmの天体望遠鏡を使った観測から、キロメートルサイズのカイパーベルト天体を発見することに成功した。カイパーベルトにこれほど小さい天体が発見されたのは初めてのことで、市販の小型望遠鏡による成果という点でも非常に画期的である。

有松さんたちが利用したのは、観測者から見て前方の天体が後方の天体の手前を通過し、後方の天体から届く光を遮る「掩蔽(えんぺい)」と呼ばれる天文現象だ。カイパーベルト天体が移動して背後の恒星を隠す様子を観測し、星の明るさの変化(暗くなる度合いや継続時間)を調べることで、直接観測はできない天体であっても大きさや運動を見積もることができる。

掩蔽の仕組み
(a)本研究で利用した掩蔽の仕組み、(b)遮蔽前、遮蔽中、遮蔽後の、恒星の画像(2016年6月28日に取得した動画データから切り抜き)、(c)恒星の明るさの時間変化を示したグラフ(提供:有松さん、以下同)

研究グループは2016年~2017年の夏季に、沖縄県宮古島市の「沖縄県立宮古青少年の家」の屋上にシステムを設置し、約4平方度(満月約20個分)の視野内にある約2000個の恒星を60時間にわたり観測した。望遠鏡は、一度に観測できる恒星の数が多い天の川の中にあり、かつカイパーベルト天体の数が多い黄道近くにある(つまり掩蔽現象が起こりやすいと予想される)、いて座の領域に向けられた。

得られた動画データを調べたところ、視野内にある12等級の恒星が、約0.2秒間、最大約80%減光していたことが明らかになった。さらに詳細な解析から、この明るさの変化は、地球から約50億km離れた半径およそ1.3kmのカイパーベルト天体による掩蔽によって説明できることがわかった。

小型カイパーベルト天体の想像図
今回発見された小型カイパーベルト天体の想像図

今回の発見から、カイパーベルトに存在する半径1km以上のサイズを持った天体の個数密度が、これまでの直接観測からわかっていた半径10km以上の天体のサイズ分布を元にした予想値と比べて、およそ100倍大きいことが判明した。これは、惑星の材料となった微惑星の一部が今でもカイパーベルトに大量に存在するという理論予想と一致する結果である。また、一部の彗星の故郷はカイパーベルトであるという理論とも一致する。

今後も掩蔽を用いた観測から、小型のカイパーベルト天体の特性がより詳細に明らかにされ、惑星の形成プロセスや彗星の供給過程が解明されることが予想される。さらに、カイパーベルトの先に存在すると仮定されていながら観測する手段が全くなかった、太陽系の最果てである「オールトの雲」に属する天体の初発見も期待される。今回の研究成果は、太陽系の果てには何があるのかという究極的な問いに答えるための大きな一歩となった。

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