常識をくつがえすハイブリッド型のガンマ線バースト

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継続時間が長いのに天体の合体現象の特徴も併せ持つ、これまでの分類とは合わない奇妙なガンマ線バーストが見つかった。

【2022年12月15日 NASAジェミニ天文台

ガンマ線バースト(GRB)は、遠くの宇宙で発生する突発的なガンマ線の増光現象だ。これまでの観測で、GRBは大きく2つのタイプに分けられると考えられてきた。一つは重い星が超新星爆発を起こすことで発生し、継続時間が2秒~数分という長いバースト(ロングGRB)で、もう一つは2個の中性子星の合体で発生する、継続時間が2秒未満の短いバースト(ショートGRB)だ。

2021年12月11日、うしかい座の方向で継続時間が約50秒のロングGRB「GRB 211211A」が検出された。その残光が各地の望遠鏡で観測されたが、普通のロングGRBの残光よりはるかに暗く、短い時間で減光した。このような残光の特徴は、むしろショートGRBの特徴に一致している。そこで、GRB 211211Aは中性子星の合体で発生したロングGRBという、かつてない「変わり種」のGRBだとする研究成果が、4つの研究チームによる5編の論文として同時公開された。

GRB 211211Aの残光
(左)米・ハワイのジェミニ北望遠鏡がとらえたGRB 211211Aの残光と母銀河「SDSS J140910.47+275320.8」。(右)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた残光(提供:International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/M. Zamani; NASA/ESA)

GRB 211211Aのガンマ線検出から数分後には、可視光線や紫外線、X線で対応天体の位置が同定され、うしかい座の方向約11億光年の距離にある「SDSS J140910.47+275320.8」という銀河でこのGRBが発生したことがわかった。ほとんどのGRBは60億光年以上離れた遠方の銀河で発生するが、GRB 211211Aの母銀河はかなり近いために残光が明るく、詳細な観測データが得られた。

米・ノースウェスタン大学のJillian Rastinejadさんたちは、GRB 211211Aの残光が可視光線よりも近赤外線でより明るいことを発見した。これは中性子星同士の合体で起こる「キロノバ」と同じ特徴だ。キロノバでは大量の重元素の塵が放出されるため、可視光線は塵にさえぎられるが、赤外線は塵を透過できるのでそのまま地球に届く。Rastinejadさんたちはこの特徴から、GRB 211211Aはキロノバが起源だと結論づけた。

また、伊・ローマ・トル・ベルガータ大学のEleonora Trojaさんたちも、独立した残光の観測から、このGRBはキロノバが起源ではないかと推定している。キロノバがショートGRBではなくロングGRBに関連していることが示唆された観測例はGRB 211211Aが初めてだ。

ただし、GRB 211211Aが発生した母銀河は若くて星形成が活発な銀河で、ロングGRBの起源とされる大質量星の超新星爆発がよく起こる銀河のタイプに近い。キロノバがよく発生する、星形成が衰えて老齢の星が多い銀河とは対照的だ。

キロノバの想像図
中性子星の衝突で引き起こされるキロノバの想像図(提供:NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine)

GRB 211211Aでは、ガンマ線バーストの発生から約16分後に、エネルギーが数GeVという別のガンマ線放射が5時間以上も続いたことがわかっている。伊・グランサッソ科学研究所のAlessio Meiさんたちは、このガンマ線放射はキロノバから放射された光が「種」となったのかもしれないと考えている。

「天体の合体現象の残光でこうした高エネルギーのガンマ線が過剰に検出されたのはこれが初めてです。このガンマ線は、キロノバから出た可視光線光子とジェットの中の電子が衝突して発生した可能性があります。このジェットは、元々のガンマ線バーストのジェットが弱まったものかもしれませんし、中性子星の合体でできたブラックホールやマグネターから新たに発生したものかもしれません」(Meiさん)。

Rastinejadさんの研究チームのメンバーでもある英・バーミンガム大学のBenjamin Gompertzさんたちは、高エネルギーガンマ線のスペクトル観測から、このガンマ線が光速に近い電子から発生する「シンクロトロン放射」であることを突き止めた。Gompertzさんたちは、中性子星の合体でできた「原始マグネター」の磁場によって電子が加速され、高エネルギーのガンマ線が発生したというメカニズムを考えている。

このいくつもの奇妙な特徴を持つGRB 211211Aの正体について、南京大学のBin-Bin Zhangさんたちは、白色矮星と中性子星の連星が合体してキロノバとなり、合体後にはマグネターができたと考えると全ての特徴を説明できるとしている。

中性子星の合体
2つの中性子星が合体する様子を描いたイラスト。高速の粒子ジェットが噴出するとともに、周囲では合体の残骸物質の雲ができる(提供:A. Simonnet (Sonoma State University) and NASA’s Goddard Space Flight Center)

今回のGRB 211211Aの観測について、Rastinejadさんの研究チームメンバーである米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのEdo Bergerさんは、次のように話している。「過去20年以上にわたるガンマ線バーストの研究から、『大質量星からロングGRBが起こり、中性子星合体からショートGRBが起こる』という、バーストの継続時間と起源天体を直接対応づける綺麗な結論が導かれていました。しかし自然は、このような理論よりもずっと複雑であることが今回わかったわけです」。

ガンマ線バースト「GRB 211211A」の紹介動画「NASA’s Fermi, Swift Capture Revolutionary Gamma-Ray Burst」(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)

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