予想外の極大期の光度変化を見せた変光星ミラ

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7月下旬ごろにすでにかなり明るくなっていた変光星ミラは、結果的には8月9日ごろ極大を迎えたようだ。当初の予想より半月ほども早い。

【2021年9月1日 高橋進さん】

くじら座の変光星ミラは約332日周期で3等から9等まで明るさが変化する脈動変光星です。昨年は9月28日ごろに極大を迎え、今年はその332日後に当たる8月下旬に極大が来ると、年鑑等で予報されていました。

ミラに代表されるミラ型変光星の多くは、増光していくときは比較的急速に明るくなっていき、極大後はゆっくりと減光していく傾向があります。ミラもこれまでの観測では、極大の1か月ほど前から、おおよそ1日に0.1等くらいというスピードで明るくなっていく様子がとらえられていました。今年の場合は6~7月ごろがこの急速な増光期でしたが、太陽が近かったり梅雨のシーズンと重なったりしたため観測が困難でした。

梅雨明け後のミラを最初にとらえたのは東京都八王子市の中谷仁さんで、7月17日未明のミラを3.1等と見積もりました。これは極大1か月前としてはかなり明るいもので、通常のパターンでそのまま明るくなると極大時には1等台にも達してしまうほどです。中谷さんの観測に続いて多くの観測者からも3.1~3.2等くらいの観測報告が寄せられ、予想以上に明るい状況であることが確認されました。

しかしその後、当初予想されていたような増光は見られず、日々の観測報告では光度は横ばい、中には少し暗くなっているかのような報告もありました。これらのデータから、ミラは当初の予報より1か月ほど早く、7月下旬ごろ極大を迎えたと思われたのでした(参照:「予想外に早い極大になった変光星ミラ」)。

ところが、1週間あまり横ばいだったミラの光度は、7月の終わりごろからじわじわと明るくなっていきました。そしてしばらくすると2等台半ばの明るさに達したのです。この増光は8月9日くらいまで続き、3日平均の等級で2.3等にまで明るくなりました。さらにその後はゆっくりと光度を落としていきました。

2020~2021年のミラの光度
2020~2021年のミラの光度。画像クリックで表示拡大(提供:高橋さん。日本変光星観測者連盟メーリングリストデータより作成。以下同)

今回の極大期のミラの光度曲線を過去3年のものと重ね合わせ、極大期前後およそ30日ほどの光度変化を比較したものが次のグラフです。極大の20日より前は比較的急速に明るくなっていき、極大の20日前くらいから光度曲線が横ばいになっていくことが見てとれます。今年の場合、観測不可能な時期に急速に増光していたと思われ、その後は極大の25日前くらいで一時的に光度を落としながらも、ゆっくりと増光していったようです。結果的に7月下旬ではなく8月9日ごろだったにせよ、当初の予報よりは半月ほども早い極大となりました。

2020~2021年のミラの光度
2018~2021年の、極大期のミラの光度曲線。3日平均の明るさを極大日(2021年は8月9日ごろ)を中心にして重ねて表示

ミラ型変光星の極大光度や周期はどうしてこんなに変化するのでしょうか。おおよそ次のようなことが考えられます。

脈動変光星というと、星が大きくなれば明るく、小さくなれば暗くなるという具合に変光すると思われるかもしれませんが、実際には小さく収縮することで表面温度が高くなって明るくなり、収縮してエネルギーを生み出し膨張すると表面温度が下がって暗くなる、という変化を繰り返します。しかし、これだけだと実際の光度変化の半分くらいしか説明できません。表面温度が下がることで恒星の外層部で酸化チタンなどの分子が合成され、これが光を吸収するために減光する、というメカニズムも大きく影響しています。

また、ミラ型変光星のような赤色巨星では大量の質量放出によって、恒星の周囲にたくさんの物質が取り巻いています。こうした物質が恒星の光度変化に様々なバリエーションを加えているとも考えられます。ミラ型変光星ではありませんが、オリオン座のベテルギウスが2020年に減光して一時的に2等星になってしまったのも、ベテルギウスから放出された塵の影響が主因だとみられています。

ミラ型変光星は、ある程度の予想はできるものの、時として予想外の変化も見せてくれる天体です。その観測は双眼鏡からでも可能です。極大の予報なども参考にしつつ、ぜひ多くの皆さんで観測していただきたいと思います。

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